2012年5月号 [Vol.23 No.2] 通巻第258号 201205_258003

都市における水・エネルギー・炭素の関連

GCPつくば国際オフィス 事務局長 DHAKAL Shobhakar(ダカール・ソバカル)

水・エネルギー・炭素は相互に関連しているが、水分野におけるエネルギー使用量は増加しているにもかかわらず、その重要性があまり認識されていないこともあり、水・エネルギー・炭素の関係を理解することは課題となっている。この相互関係の重要性は、気候変動緩和、エネルギー安全保障、水安全保障という三つが現在の主要な政策課題となっていることからも明らかである。特に都市における水・エネルギー・炭素の関係では、主要因やプロセス、引き起こされる影響や結果について、過去の研究やわれわれの理解はまだ十分とはいえない。世界の総人口の半分以上が都市部に住み、都市がこの問題をいかに効率的に管理するかで持続可能な社会を実現できることを考慮すると、都市におけるこの相互関係を解析することは重要である。都市における水の使用量は農業や他の分野より少ないとはいえ社会経済的な重要性は高く、エネルギーとも関連があるため、炭素排出量はかなり多い。

このような背景のもと、グローバルカーボンプロジェクト(GCP)と地球環境研究センターは、2012年3月1〜2日に、東京でワークショップを開催した。ワークショップの目的は、都市における水・エネルギー・炭素の関係について知識や理解を深め、この分野の主要な研究者間の連携を促進し、特に、当該分野の研究が始まったばかりのアジアの都市を対象に研究を進めていくことに重点を置いたネットワークを構築することだった。

ワークショップには10カ国(日本、イギリス、アメリカ、ノルウェー、カナダ、中国、シンガポール、インド、タイ、オーストラリア)の大学および研究機関から30名の専門家の参加を得た。ワークショップのテーマは以下のとおり。

  • 都市における水・エネルギー・炭素の関係をどう特徴づけたら良いか。主な指標となるものは何か。主要因やプロセス、それによって引き起こされる影響や結果はどのようなものか。
  • 都市における水道システムに関連するエネルギーとカーボンフットプリントについて何が明らかになっているのか。現在用いられている研究のフレームワークはどんなものなのか。その長所と限界は何か。
  • 水・エネルギー・炭素の効率の良い都市のイメージとはどんなものか。技術が果たす役割、特に、今後の技術革新とそれが人々の行動に変化をもたらす可能性につながる重要な契機となりうるものは何か。
  • 都市における水・エネルギー・炭素の関係を考慮した効率の良いシステムの構築に関する障害とチャンスは何か。水の管理方法(公的機関か民間部門によるか)で障害はどう違ってくるか。エネルギー・炭素の観点からの料金設定や、その他のエネルギー・炭素関連政策がどんな役割をもち、どんな影響をもたらすか。
  • 上記における、都市間の重要な共通点や差異は何か。

プログラムについてはウェブサイト​(http://www.gcp-urcm.org/)​を参照されたい。

ワークショップでの議論は、水・エネルギー・炭素の関係の指標となるものを明らかにし、この分野の研究枠組みが不足していることやテーマの範囲が確認された。この問題に取り組む研究体制は環境面だけではなくさまざまな要因を考慮し、特定の課題とローカルな差異をうまくシステムに組み込み、それらの課題に関連する供給システムの上流側を取り入れる必要がある。また、アメリカ以外の国の都市、特にアジアの都市においては、より多くのデータを収集し比較解析を進めなければならない。それらの都市では、都市の成長や都市化の進行によって水やエネルギー使用量、二酸化炭素排出量が増加しており、水・エネルギー・炭素の相互作用で引き起こされる影響を解析することが重要な課題となっている。水・エネルギー・炭素の関係は、廃水処理やその他の都市インフラシステムの整備、水・エネルギー・炭素の相互作用の効率化の促進の意味でも、重要であることは明らかである。

photo. ワークショップ

議論のなかで、この三つの相互作用による境界(影響範囲)を設定することは困難だが、最適もしくは効率的なシステムを構築することが、エネルギー問題を解決する出発点として第一の照準とすべきであることが確認された。また、費用・効果・経済・不経済のすべてを考慮した体系的な思考が必要となる。短期的な視点では正しい解決法を見いだせないことがあるため、効率的なシステムの構築には長期的な視点が求められている。一方、あまり長期になると、急速に発展する技術のなかの一つの特定なものしか仮定としてシステムに取り入れることができないという危険もはらんでいる。たとえば、水とエネルギーについては地域分散が進んでいる傾向にある。水の最終使用、廃水の段階から節減することが、現在、重要な課題となっている。それゆえに、柔軟性がありバランスのとれた長期計画を作成しなければならない。特に、効率的な都市の基準や、どうやって都市を比較し、自然条件、都市代謝、その他の条件のなかでどうやって都市を整備していくかという基準がない現在、バランスの良い長期計画が求められている。

参加者は水・エネルギー・炭素の効率の良い都市の構築には以下の障害があることを確認した。それは、(1) データの不足、(2) インフラの固定化、(3) 都市の相違、(4) 効率化に障害となる三者の相互作用による境界(影響範囲)、(5) 主要因に強く関連する知識の不足、(6) 炭素市場とエネルギー価格がさまざまな環境で直接的・間接的にどう関連しているかという知識の不足である。さらに、技術的な問題よりも、制度や行動に関わる問題も重要な障害となっている。しかし、効率的なシステムの構築を進めるのに必要となる知識を一つひとつ深めていくことは可能である。たとえば、(1) 統合評価モデルの利用、(2) 廃棄物や輸送など他の構成要素との連携、(3) 産業連関表やハイブリッド法など間接的なものと経済に関するものを組み込んだ新しいモデル手法などである。

都市はその地域的な背景によって、それぞれ特性が異なる。しかし、多くの都市は都市化の波に押され急激にインフラが整備されており、それは効率的なシステムの導入においても好機となりうる。その際、都市間に共通の指標や知識、あるいはいくつかの特定の都市に通じる指標や知識を組み合わせて導入していく必要がある。水・エネルギー・炭素の効率の良い都市を目指すためには、課題や好機となりうる主要因やプロセス、三者の相互作用による境界(影響範囲)に関する地域的な状況を反映した知識がさらに必要となっている。

議論の結果、特にアジアの都市において知識レベルのギャップを埋めるために、共同研究を進めていくことが参加者の間で合意された。具体的な共同研究の方法も検討され、専門家のネットワークを推進するための提案が出された。今後の研究により期待される成果は以下のとおり。

  • 最先端の知識に関する展望研究を推進していくこと
  • 現在行われている研究活動と知識を統合し、研究者コミュニティを強化するため、ジャーナルのなかで重要なテーマを展開していくこと
  • 実施計画や定量化の枠組みを共有し、共同研究を進めるための助成金の支援を得つつ、各都市でよく調整しながらケーススタディを実施していくこと

*本稿はDHAKAL Shobhakarさんの原稿を編集局で和訳したものです。 原文(English)

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