2012年6月号 [Vol.23 No.3] 通巻第259号 201206_259009

平成24年度科学技術週間に伴う一般公開「ココが知りたい温暖化」講演会概要 地球温暖化問題に関する国際交渉

亀山康子 (社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室長)

4月21日(土)に行われた科学技術週間に伴う国立環境研究所一般公開「春の環境講座」において、地球環境研究センターは、講演会「ココが知りたい温暖化」を開催しました。講演内容(概要)をご紹介します。なお、「春の環境講座」の報告は地球環境研究センターニュース2012年5月号に掲載しています。

温暖化問題は地球規模の問題です。つまりすべての国が協力して取り組まなければ問題解決に至らないということです。本日は地球温暖化問題に関する国際交渉についてお話しいたします。

1. 温暖化の国際会議で実際に交渉を担当して国の主張を伝えているのは

photo. 亀山康子室長

毎年行われる温暖化の国際会議では、各国が熾烈な交渉を行っていますが、会議ではどういう立場の人が実際に交渉を担当して国の主張を伝えているのでしょうか。

気候変動枠組条約という国際条約には世界中のほとんどの国が加盟しています。加盟している国を締約国と呼びます。締約国が1年に1度集まって地球温暖化問題解決に向けた協力について話し合う場が締約国会議(Conference of the Parties: COP)というものです。

気候変動枠組条約のCOPは1995年の第1回以降毎年開催され、世の中に影響を与えた合意が結ばれてきました。COPでは、あるテーマについて何年間かけて交渉するかということを決めます。その後のCOPで交渉を続け、最終的に合意し、合意ができると次のテーマについて何年間話し合っていくかを決めます。COP1からCOP3までは京都議定書の内容について交渉しました。その結果、1997年のCOP3(京都)では、京都議定書が採択されました。COP4ではCOP3で採択された京都議定書の中で、大枠は決まったが詳細を詰め切れなかった部分に関して、詳細なルールを話し合うことが決まり、その後3年かけて議論し、2001年のCOP7(マラケシュ)でマラケシュ合意となりました。

fig. COP開催地と主な決定

COP開催地と主な決定

テレビで放映されるCOPの場面は大きな会場での全体会合だと思いますが、実はCOPと同時開催でいろいろな会議が行われています。気候変動枠組条約の下に設けられたた二つの補助機関会合[1]や、新しい議定書の草案等のために設置された作業グループ(Ad Hoc Working Group: AWG[2])です。そのほかにも各種委員会等の会合が適宜開催されています。COPは年1回ですが、こういう会合が年に数回開催され、各国からの担当者が議論しています。これらには、政府代表団に登録されている担当者が参加します。専門的な知識を必要とするため、専門家が政府代表団に含まれることも多いです。

COPの参加者は1万人を超えることがあります。参加者の多くは政府関係者ですが、オブザーバーとして環境保護団体や研究者、産業界の人なども参加します。全体会合では込み入った交渉はできませんから、限られた政府関係者しか参加できない小さな部屋が数多く用意されていて、ホンネの交渉をしています。政府代表団が交渉している間に、オブザーバーにはサイドイベントの開催が認められています。研究者が自分の研究成果を発表し、あるいは、産業界が自分の立場を主張し、フロアとディスカッションしたりします。また、廊下でデモ行進のようなものも見かけます。COPは地球温暖化に関係する人々が直接交流する場となっています。

2. 「合意」とは

政府代表団が交渉している間にハイレベルな意見交換も開催されています。しかし、最終的な合意は、あくまで全体会合の場で、「コンセンサス」によって決まります。ところで「コンセンサス」というのは、「全会一致」とは違います。「全会一致」がすべての参加者の支持の意思表示を必要とするのに対して、「コンセンサス」は、明らかな反対が表示されなければ合意と認めることができます。1990年代には、「コンセンサス」である程度の進捗を得ることができました。しかし、近年では、数カ国の強硬な反対で合意が得られないケースが見られるようになっており、民主的な手続きの限界を指摘する声も挙がっています。

3. 「合意」できないときには、どうなるのか

温暖化の国際交渉では、さまざまなテーマに分かれて交渉が進み、多数のテーマがパッケージとなって合意されます。一つのテーマで自国の主張を認めてもらうかわりに、他のテーマで他国の主張を認めてあげる、という形で合意に近づいていくものです。努力しても合意できないとき、最も多いのは、作業期間を延長することです。

他方で、気候変動枠組条約の下での交渉が難航する近年、気候変動枠組条約の外で温暖化対策を議論した方が早いのではないかという考え方にもとづいた活動も増えてきました。主要国首脳会議(G8)での議論や、アジア・太平洋等の地域協力の活動において気候変動は重要なテーマの一つとなっています。

最近日本で始めた二国間メカニズムもその一つです。日本が海外で省エネに効果的な技術を導入したり森林を保全したりしてその国からの二酸化炭素排出量を減らした場合、削減量の一部を日本の分としてカウントしてもらうというものです。これは気候変動枠組条約で承認されている活動ではありませんが、逆に日本が気候変動枠組条約に提案していこうとしています。

4. 日本の主張は、誰がどのような手順を踏んで決めているのか

「国」としての主張の決まり方は、国の政治体制や意思決定手続きの違いによってさまざまです。日本では、国会や総理大臣の個人的意見というより、環境省や経済産業省、外務省、など、気候変動政策に関する府省の担当者によって詳細が決められていきます。府省担当者だけで決められない重要事項(例えば、国の将来の排出削減目標等)は、政治的な決定に委ねることになります。「国」としての主張が決まるまでの間に、いくつかの審議会(中央環境審議会、産業構造審議会等)でも議論がなされ、政府に対するインプットが行われます。また、透明性の高い手続きが求められており、審議会などの主張の案がパブリックコメントにかけられ、国民からの意見を求めることもあります。

これまでの日本の意思決定は、このような手続きで進められてきましたが、2011年3月の原発事故を境に国内で原子力について意見が多様化してきました。これまでは二酸化炭素を削減するために一定の原子力発電の継続を前提条件に加えていました。しかし、今後、原子力発電所をどう使っていくのかという決定が、日本の温暖化対策にも影響を及ぼしていくことになります。

私たちの日々の生活にとって、国際交渉の話は、とても遠いところにあると感じるかもしれません。しかし、国際会議での各国の主張は、国内の意思決定をふまえていて、国内の意思決定の手続きでは、できるだけ多くの人の意見を反映させようとする工夫がされていると思います。私たちが温暖化問題に無関心では、日本の主張も同様になってしまいます。私たちは、どのような日本を将来世代に残したいか、日本がどのような主張を国際会議ですることによって、どのような地球を将来世代に残したいかなどを考えて、国際会議をご覧になっていただければと思います。

脚注

  1. 実施に関する補助機関(SBI)と科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)を年に2回開催。
  2. 現在では、三つの作業グループが並行して動いている。
    • AWG-LCA(気候変動枠組条約の下での議論に関する作業グループ)
    • AWG-KP(京都議定書での第二約束期間に関する作業グループ)
    • AWG-DP(COP17で合意された新しい国際制度のための交渉グループ)

(文責 編集局)

目次:2012年6月号 [Vol.23 No.3] 通巻第259号

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