2013年6月号 [Vol.24 No.3] 通巻第271号 201306_271005

「地球温暖化研究の最先端を見に行こう」春の一般公開における講演会概要 1 最近の世界の二酸化炭素排出と地球規模炭素循環

野尻幸宏 (地球環境研究センター 上級主席研究員)

地球環境研究センター 交流推進係 高度技能専門員 今井敦子

4月20日(土)に行われた科学技術週間に伴う国立環境研究所一般公開「春の環境講座」において、地球環境研究センターは、社会環境システム研究センターとの共催による講演会「地球温暖化研究の最先端を見に行こう」を行いました。講演内容(概要)をご紹介します。

「春の環境講座」の報告は、横畠徳太「国立環境研究所一般公開『春の環境講座』を開催しました」地球環境研究センターニュース2013年6月号をご覧ください。

今日は、世界の二酸化炭素(CO2)排出の急激な増加、ちょっと複雑ですがCO2の地球規模循環(大気・陸・海洋)についてお話しいたします。また炭素循環を考慮した温暖化対策ついてもご説明します。

photo. 野尻上級主席研究員

CO2排出量は急速に増えている

CO2排出量はPgC(ペタ[1015]グラム炭素)= GtC (ギガ[109]トン炭素)、または、CO2億t(CO2換算)で表現します。2011年の化石燃料燃焼(+セメント生産)起源のCO2排出量は9.5PgCです。1Pgは1km × 1km × 1kmの水の重さなので、9.5PgCは立方km升9.5杯に相当します。CO2はドライアイスにすると凝縮します。9.5PgCは海底に1km × 1km × 10kmのくぼ地があったら入ってしまうので、地球全体の大きさから見たらそれ程巨大な量ではありません。しかしこれが大気に出ていくと温暖化という現象が起こります。

CO2の排出量と経済活動とは密接に関連しています。オイルショックやリーマンショックなどの経済危機でCO2排出は鈍化しました。経済的理由でエネルギー利用効率が進んでいますが、効率化を上回る勢いで人間活動が活発化していますから結果的にCO2排出は増加しています。気候変動の将来予測には将来のCO2排出を推定したシナリオを用いなればなりません。前提になるCO2の排出ルート(シナリオ)と照らし合わせてみると、2000年からは年間3%程度増加し、排出推移は排出シナリオの上限値近くをたどっています。つまり、強い削減シナリオに世界を向けるには、既にハンディがあります。

先進国の対策だけでは減らない世界の排出量

CO2排出は先進国だけの問題ではなくなってきました。2007年に公表されたIPCC第4次評価報告書(AR4)にある2004年の地域別に見た世界の温室効果ガス排出量によると、先進国(京都議定書付属書I国)の温室効果ガス排出量は世界全体の46%ですが、途上国は54%です。2011年の予測では途上国が60%になります。

途上国は生活水準が高くないと考えられるので、一人あたりの排出量も低いのでしょうか。2009年の一人あたりのCO2排出量を見ると、世界平均は4.3t、日本は8.6tです。アメリカ、オーストラリア、カナダは先進国のなかで飛び抜けて高い排出量です。しかしそれよりはるかに高いのが、カタールとアラブ首長国連邦です。世界でもっとも人口の多い中国は世界平均を超えて、5.1tです。また、気候変動枠組条約(UNFCCC)で削減義務のない韓国も日本より2割程度多い10.6tです。

主要国のエネルギー起源CO2排出量では、中国は現在アメリカを抜いて世界一の排出国になっています。先進国のフランスよりCO2排出量が多い途上国が9か国あります。一人あたりの排出量が少なくても人口が多いと、国全体として排出量が多くなります。これからの温暖化対策は先進国、途上国の両方で取り組まなくてはならないということです。

日本の排出量:京都議定書第一約束期間の削減義務達成可能か

日本の排出量についてお話しします。国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)はわが国の温室効果ガス排出量(CO2以外の温室効果ガスを含む)を取りまとめ、毎年、UNFCCC事務局に提出しています。2011年度の排出量は13億800万t、基準年比+3.7%です。2011年度は原子力発電所停止の影響が大きく、排出量は増大しました。京都議定書は、2008年から2012年の5年間の平均値で、日本は基準年に対して6%の削減義務があります。排出量だけを見るとマイナス6%に足りないのですが、京都メカニズム(共同実施、クリーン開発メカニズム、排出量取引)や森林吸収源をカウントできますから、達成できる見通しです。部門別に見ると、もっとも多い産業部門は省エネルギーが進んで低下傾向にあります。運輸部門は2000年頃がピークでしたが、自動車の燃費向上などで今は下がっています。一方、業務部門(商店、学校、病院など)と家庭部門は、床面積や機器数(活動量)の増加が省エネルギー効果を上回っていますから、排出量は伸びています(詳細は酒井広平, 野尻幸宏「わが国の2011年度(平成23年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量13億800万トン。前年度比で増加するも、第一約束期間の目標達成へ近づく〜」地球環境研究センターニュース2013年6月号を参照)。

排出量増加は化石燃料燃焼と土地利用変化(森林破壊)が主な原因

化石燃料燃焼による大気中のCO2濃度は、1960年代には2.5PgC、立方km升2.5杯だったのが、現在は9.5杯になっています。土地利用変化(森林破壊)による排出量はかつて1.5PgCでしたが、現在は減少し、約1.0PgCになっています。この二つの要因で大気中のCO2濃度が上昇してきました。

大気濃度増加は、ハワイのマウナロアをはじめ、国立環境研究所など多機関で観測が続けられ、正確に求められています。CO2濃度は1980年代に340ppmだったのが、現在は390を超え、400ppmに近づいています[注]。また、増加率は1980年代、1990年代に比べ、2000年から2010年にかけて上がっています。化石燃料排出量は燃料統計から計算できます。土地利用変化による排出、大変重要な陸と海の吸収量は正確にはわかっていません。これを解明するのが炭素循環研究です。人為起源CO2排出量に比べて、大気濃度増加が少ない理由は何でしょう。大気残留量は下の式で求めることができます。2000年から2010年の平均の化石燃料排出量は7.9PgCで、大気残留量は4.1PgCです。

  • 大気残留量 = 人為起源排出量 − (陸の吸収量 + 海の吸収量)
  • 4.1PgC = (7.9PgC + 1.0PgC) − (2.5PgC + 2.3PgC)
fig. CO2 flux

陸と海の吸収量を理解することがなぜ重要かというと、自然吸収源が今後も続くかどうかが、必要な温暖化対策の程度を決めるからです。最近の私たちの研究から、海の吸収量2.3PgCについては、手法の異なる複数の研究が一致することにより、かなり正確であることがわかってきました。したがって、差引残差として陸の吸収量は2.5PgCとなります。

どのようにして大気残留量や土地利用変化、海の吸収量を確定してきたのかご紹介します。国立環境研究所では、地上観測局や航空機、民間船舶を利用してCO2を測定しています。また、CO2の炭素同位体比、大気中の酸素/窒素比(O2/N2比)の観測、海がどのくらいCO2を交換しているかを観測しています。陸上の植物はCO2を吸収するとO2を放出しますが、海洋はCO2を吸収してもO2を放出しません。ですから、大気中のO2量を測定すると陸と海のCO2吸収量が理解できます。化石燃料排出量は1980年代から着実に増えています。一方、大気濃度は1980年代、90年代はあまり変化がありませんが、2000年以降は増加率が大きくなっています。なぜこういうことが起こったかというと、海のCO2吸収がわずかに増えているからです。大気中のCO2濃度が増えると海による吸収が強くなります。

炭素循環とさまざまな温暖化対策

IPCC AR4では、研究から明らかになった炭素循環をまとめています。1990年代の炭素収支(PgC/年)をもとに、研究者としての意見を含んでお話しいたします。

人為起源排出量は6.4PgCですが、森林吸収量(120PgC)と海洋吸収量(90PgC)を合わせると210PgCにもなるので、人為起源排出量は心配しなくても大丈夫でしょうか。
産業革命以前の大気中CO2量(600PgC)と、最近の年間増加量(4PgC)を考慮すると、排出量は150年で2倍になります。これでは間違いなく気候が変わってしまいます。ですから、化石燃料の燃焼によるCO2排出を減らすことが、第一に考えるべき温暖化対策です。
木はCO2を吸収するので森を増やせば温暖化対策は十分でしょうか。
森林の有機炭素量(土壌を含む)を10%増やしても年間増加量(4PgC)の60年分にしかなりません。しかも、10%増やすのは大変難しいのです。森林は水と光が成立条件ですから、砂漠やツンドラなど適さないところを森林にするのは無理です。森林を増やすより森を守ることが大切です。森林破壊を止めると大気中のCO2増加は半減します。
バイオマス燃料を使うことは意味のある温暖化対策でしょうか。
陸上植物が作った有機物は放っておいても分解します。その分解過程を横取りして燃料にするのがバイオマス利用です。これは年間の光合成量(120PgC)のたった2%を有効利用するだけで大気中のCO2濃度増加を半減できます。森林が減ってしまうのではと思われるかもしれませんが、伐採したところに植林すれば将来また使えるようになります。
コンブやワカメはCO2を固定するので、増やして燃料に使うのはよい方法でしょうか。
海のバイオマスは3PgCしかありませんし、もしその10%が利用できても、温暖化対策としてはわずかです。海洋生物は生成・分解が早いことから適切に漁獲を管理すれば資源は枯渇しません。沿岸保全はバイオマス利用より環境保全にとって意義があり、適切な漁業を支えることにもなります。
CO2の地層貯留はよい対策でしょうか。
CO2の地層貯留に批判的な意見の人もいますが、化石燃料を燃やしてもCO2を地下に閉じ込めれば気候に影響しません。CO2の回収や輸送のために余分にかかるエネルギーが大きくなければ、よい対策になると思います。しかし、あくまで化石燃料を使用するので、ゼロエミッション社会に至るまでのつなぎの技術と考えるのが適当です。

脚注

  • アメリカ海洋大気局(NOAA)が5月にハワイ・マウナロア観測所で大気中のCO2濃度の月平均が400ppmを超えたことを発表。

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