2013年7月号 [Vol.24 No.4] 通巻第272号 201307_272006

地球科学の最近の動向:EGU2013年総会に参加して

地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室長
MAKSYUTOV Shamil (マクシュートフ シャミル)

2013年4月7日から12日にかけて欧州地球科学連合(European Geosciences Union: EGU)2013年総会(General Assembly 2013)がオーストリアのウィーンで開催された。この会合は欧州を中心に、地球科学・惑星科学・宇宙科学分野の世界中の研究者が集まり、年1回開催されている。2013年総会には95か国から11,167名の参加があり、4,684件の口頭発表と8,207件のポスター発表が行われた。今回初めて行われたPICO(Presenting Interactive COntent)は、短い口頭発表で研究概要を紹介した後、会場に設置されたタッチスクリーンでスライドを見ながら発表者と参加者が議論できるもので、452件あった。以下、本会合での温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)プロジェクトからの発表と気候変動の観点から興味深い研究成果を紹介する。

photo. Austria Center

EGU General Assembly 2013の会場となったウィーン・Austria Centerの前で

1. GOSATプロジェクトの成果—全球のメタン濃度の空間分布

GOSATプロジェクトからは数名がこの会議に参加した。筆者は「大気中の二酸化炭素とメタンに関するリモートセンシング」セッションで、GOSATによる衛星からの観測と地上観測データを利用した、地表面でのメタン放出の全球の空間分布の研究成果について口頭発表を行った。われわれのチームでは、メタンの輸送や大気中のメタンの酸化過程を推定する大気トレーサー輸送モデルを利用している。このモデルからの出力濃度が、温室効果ガス世界データセンターの地上観測データとGOSATプロジェクトのレベル2プロダクトであるメタンのカラム平均濃度とに整合するように地表面のメタン放出分布を最適化した。大気中のメタン濃度の全球分布とフラックスの推定結果については、GOSATレベル4の研究プロダクトとして提供の準備が進められている。GOSATプロジェクトでは、GFED(Global Fire Emissions Database)、陸域生態系モデルVISIT、人為的なメタン放出に関するEDGARデータベースから得られるメタン放出量の年々変動データを利用して研究を行った。陸域を42に分割した地域ごとの各月のメタン放出量の各最適解を得るための逆推定問題は、カルマンスムーザ法を用いて解いている。地上観測データのみを用いたインバースモデルによるフラックスの推定結果は、観測データが少ない熱帯地域、南アメリカ、温帯アジアでは、より大きな不確実性をもって推定された。地上観測データにGOSATから得られる多くの観測データをインバースモデルに用いることで、温帯アジア、南米北部、熱帯アジア、ヨーロッパなどの地域におけるフラックスの推定結果における不確実性を小さくすることができる。このようにして得られたメタンフラックスの推定結果は、GOSATの研究プロダクトとして、GOSATプロジェクトの研究公募で採択された研究者達にGOSATデータ提供システム(GUIG)から提供されている。

発表後の質疑応答では、メタン濃度のフラックス推定に関するわれわれの研究に高い関心が寄せられた。たとえばメタンの大きな発生源と見込まれている永久凍土や北極海の海底からの漏出量とフラックス推定結果とがどれくらい整合するかという比較についても研究を行ってみたいなどの興味が示された。しかし、課題もある。北極圏については、GOSATは真夏の限られた期間しかデータを取得できないことと、フラックス推定をさらに正確なものにするためには、衛星からの濃度データ処理アルゴリズムの精度とインバースモデルの解法手法との両方を改良していく必要がある。

2. 放射線測定データを気候変動分野に応用

次に気候変動研究の観点から筆者が興味をもった発表を紹介する。

2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故の後、土壌および大気中放射線の測定データに、日本だけではなく世界中の人が関心をもっている。放射線測定データの利用方法によっては、環境問題や気候変動問題の解決にも役立つ。アリゾナ大学のMarek G. Zredaが進めているCOSMOS(Cosmic Evolution Survey)プロジェクトは、地上で測定した低エネルギー宇宙線中性子データを利用し、広い範囲の土壌水分に関する最近の観測結果を紹介した。土壌水分は天候や気候、生態系、水循環に重要な役割を果たすが、測定については、限られた地点の観測結果と、植物で覆われた地域を含む広いエリア(10〜50km)のリモートセンシング観測結果との間に不整合があるため非常に困難である。COSMOSプロジェクトが提案した手法では、土壌水分量や陸上のあらゆる相の水の量が、低エネルギー宇宙線中性子の強度と逆相関することを利用する。装置は「cosmic-ray moisture probe」とよばれ、既存の技術を応用して開発された。「cosmic-ray moisture probe」は全米に500のネットワークをもち(http://cosmos.hwr.arizona.edu/Probes/probemap.php)、土壌水分量、積雪水、植物の含水量を測定できる。各サイトでさまざまなデータが収集されている。二つのエネルギーバンド(加速[fast]:1キロ電子ボルト以上、熱[thermal]:0.5電子ボルト以下)で測定した中性子、土壌水分量、積雪水当量(および植物の水当量)、気温、気圧、相対湿度など、取得されたデータは、現場観測(in-situ)データとかなり良く合っている。大陸規模のネットワークから送付される連続測定データは、水文気象学、陸域—大気間の相互作用、表層水と地下水のモデリング、農業科学、土壌水分と農作物生産量との関係を解明し予測する分野、土壌水分と雪、ひょう、あられなどの固形降水の影響に注目した生態学的研究、土壌水分の校正や検証のためのリモートセンシングなど広い研究分野のコミュニティとって興味深いものとなっている。

3. 優れた業績を表彰

2013年総会では、陸域と宇宙の分野で炭素循環研究の発展に貢献した人にメダルが授与された。

今年のV. I. Vernadsky賞は二酸化炭素のフラックスタワー観測やその他の微量ガスのフラックスの研究で指導的役割を果たしたことで知られているAlbertus J. Dolman氏(Han Dolman氏)(アムステルダム自由大学・オランダ)に贈られた。詳細は、http://www.egu.eu/awards-medals/vladimir-ivanovich-vernadsky/2013/albertus-j-dolmanを参照されたい。

Vilhelm Bjerknes賞に選ばれたJohn Burrows氏(ブレーメン大学・ドイツ)は、大気の光化学や分光学、動力学、また衛星リモートセンシングや地上で測定した大気組成観測の分野における業績が認められた。Burrows氏はEnvisat衛星に搭載されたSCHIAMACHY(Scanning Imaging Absorption Spectrometer for Atmospheric Chartography)の開発を提案した。SCHIAMACHYセンサのスペクトル観測からメタンや二酸化炭素濃度を導出する際の問題を解決する科学コミュニティができ、GOSATの観測データの解析にも寄与している。詳細は、http://www.egu.eu/awards-medals/vilhelm-bjerknes/2013/john-burrowsを参照されたい。

*本稿は、MAKSYUTOV Shamilさんの原稿を編集局で和訳し、加筆したものです。原文(英語)も掲載しています。

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