2013年7月号 [Vol.24 No.4] 通巻第272号 201307_272009

「地球温暖化研究の最先端を見に行こう」春の一般公開における講演会概要 6 世界が低炭素社会に向かうために:望ましい国際制度の姿と主要国の巻き込みのための仕掛け

久保田泉 (社会環境システム研究センター 環境経済・政策研究室 主任研究員)

地球環境研究センター 交流推進係 高度技能専門員 今井敦子

4月20日(土)に行われた科学技術週間に伴う国立環境研究所一般公開「春の環境講座」において、地球環境研究センターは、社会環境システム研究センターとの共催による講演会「地球温暖化研究の最先端を見に行こう」を行いました。講演内容(概要)をご紹介します。なお、野尻幸宏さん、横畠徳太さん、高橋潔さんの講演内容(概要)は地球環境研究センターニュース2013年6月号に掲載しています。

本日は、地球温暖化に関する国際制度の議論がどのように進んでいるのかについてお話ししたいと思います。

photo. 久保田主任研究員

地球温暖化問題に関する国際的取り組みの経緯

地球温暖化問題に関する国際的な取り組みは1990年、国連総会で気候変動枠組条約(以下、条約)の作成が決議されたことから始まります。1992年に採択された条約は、ほぼすべての国連加盟国が締約国になっており、現在でも地球温暖化対処のための国際制度の基盤となっています。条約締約国会議(The Conference of the Parties: COP)が最高意思決定機関で、毎年開催され、国際制度についての議論が行われています。条約において、先進国と経済移行国(ロシアと旧東欧諸国)は、温室効果ガスの排出を2000年までに1990年レベルに戻すことを約束しました。この約束は、守れなかったときに罰されるというものではありません。条約は1994年に発効し、1995年に第1回のCOPが開催されました。先進国はこれまで温室効果ガスを大量に発生してきましたが、2000年に1990年レベルの排出量に戻すという約束は守れそうにないということがわかりました。そこで1997年京都で開催されたCOP3では京都議定書(以下、議定書)を採択し、先進国のみに排出削減義務を課しました。第一約束期間(2008年〜2012年)に、先進国と経済移行国が温室効果ガスの排出を少なくとも5%削減することを義務づけました。これは厳しい約束で、守れなかったときには、国際的に不都合が生じます。その後京都議定書は2005年に発効しました。

毎年開かれる地球温暖化問題のCOPでは、これまでに国際社会が約束し実施してきた温暖化対策が効果を上げてきているかをチェックしています。私は2002年に国立環境研究所に入所し、その年のCOP8から毎年参加しています。近年のCOPでは、2020年以降国際社会がどのように温暖化対策に取り組んでいくかを2015年のCOPまでに決めることになっており、その話し合いが行われています。

「温室効果ガス濃度を安定化させる」とは

そもそも地球温暖化に関する国際枠組みとは何を目指しているのでしょうか。条約には、地球温暖化が、人間や自然に対してひどい影響を及ぼさないような水準で止まるように、ある期間内に、大気中の温室効果ガス濃度を安定化させること、という内容が書かれています。“温室効果ガス濃度を安定化させる” とはどういうことかご説明します。人間の活動から出てくる二酸化炭素(CO2)の量は年間7.2Gt(1Gt[ギガトン]= 10億トン)あります。自然の吸収量は3.1Gtですから、人為的排出量はその倍以上なので、大気中の温室効果ガス濃度はどんどん上がっていきます。安定化というのは排出量と吸収量のバランスをとる(イコールにする)ことです。それを目指すには、人為的排出量を長期的に半減しなければなりません。

危険なレベルに達しないように温暖化対策をとっていかなければなりませんが、そのスピードも重要になります。排出量と吸収量のバランスをとるのは、生態系が気候変動に自然に適応し、食料生産が脅かされず、経済開発が持続可能に進行できる期間内で達成されるべきです。

地球温暖化の国際制度で検討すべきは

地球温暖化の国際制度を考えるうえで検討すべき五つのポイントがあります。温室効果ガス排出削減としてのポイントは以下です。(1) 共有ビジョン:長期的(2050年/2100年まで)に地球全体でどれくらい温室効果ガスを減らすかというものです。これについては、温室効果ガスの削減量ではなく、産業化以前の水準から世界の平均気温上昇が2℃を超えないことが重要という、温度で目標を決めました。(2) 中期目標:短期・中期的(2020年〜2030年)に、地球全体あるいは各国で温室効果ガスをどれくらい減らすかというものです。(3) 適応:国際社会は温暖化による影響を被る国・地域にどのような支援をしていくか、(4) 技術移転:温暖化対策に貢献する技術の開発や途上国への移転をどのように促進するか。これは難しい問題です。COPは政府が主体となって話し合う会議です。一方、技術をもっているのは企業ですから、途上国に無料で技術提供するのは簡単ではありません。(5) 資金:温暖化対策に必要な資金をどのように世界全体で調達し、その資金をどういった基準、優先順位で配分するかを考えていかなければなりません。

COPでの話し合いにはなぜ時間がかかるのか

COPでの話し合いは非常に時間がかかります。その理由は、三つあります。

まず、世界全体で減らすべき量と各国が2020年までに減らそうとしている量の合計がかけ離れています。2010年のCOP16の「カンクン合意」において、長期的な共有ビジョンとして、産業化以前の水準から世界の平均気温上昇を2℃以下に抑える観点から、温室効果ガス排出量の大幅削減が必要であることを認識しました。条約に提出しているすべての国の2020年の排出削減目標を足し合わせても、2℃目標達成に必要な排出削減量と比べると、まったく足りません。

現在世界一の二酸化炭素排出国は中国です。2位がアメリカ、3位がインドです。一人あたりの排出量でみると中国は5.6tですが、インドは1.4tです。国別の排出量を見るのも重要ですが、発展度合いを示す指標の一つとなる一人あたりの排出量の違いも考えなければなりません。

また、何が得で、何か損かが国によって異なっていますから、一つの制度をつくるのがとても難しいのです。各国が温暖化の国際制度に求めているものはまったく違っています。大きく二つの軸があります。一つは、交渉について、国連のような多国間での話し合いか、あるいは、二国間で決めていくかというものです。もう一つは、合意内容が拘束的、つまり約束を守れなかったときに厳しく対処するか、あるいは、合意内容は非拘束的でもとにかく進めてゆくというものです。

地球温暖化対策に必要なお金が不足しています。将来、発展途上国において地球温暖化対策に追加的に必要となる資金額は1,122億米ドルと考えられています。しかし条約と議定書の下にある資金ではとても足りませんから、先進国が拠出していくことになっています。必要な資金に近づけるよう合意がなされていて、運用について議論が進んでいます。

さらに、国際条約は、合意しない国に対しては無力です。国際社会には、世界政府や強制執行機関がありません。各国家は主権をもっていて、独立かつ平等な関係ですから、強制されることも罰されることもありません。ご存知のとおり、国際条約は、入る、入らないという選択ができます。目標を緩く設定すると参加国の数は増えますが、環境上の効果が小さくなります。逆に目標を厳しく設定したり目標を守れなかった場合の罰則を厳しくしたりすると参加国が少なくなりますから、そのバランスをとるのが非常に難しいのです。

fig.

国際制度を評価する四つのものさし

望ましい国際制度とはどういうものでしょう。地球温暖化に関する国際制度を評価するものさしとして四つあります。(1) 環境保全性:地球全体でたくさんの排出量を減らせること、(2) 費用効果性:なるべく低い費用で、多くの温室効果ガスの排出量を減らせること、(3) 配分の衡平性:排出削減や資金拠出の負担をできるだけ国家間で衡平に分担すること、つまり、諸事情を勘案することでバランスのとれた分担にすること、(4) 実現可能性:できるだけ簡単に関係者の合意を得られること、です。とかく特定のテーマに焦点が当てられがちですが、これら四つの観点から、国際制度を総体的に評価する必要があります。

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