2014年1月号 [Vol.24 No.10] 通巻第278号 201401_278006

GCPつくば国際オフィスの現在と今後の活動

  • 地球環境研究センター 主席研究員 山形与志樹
  • GCPつくば国際オフィス 事務局長 SHARIFI Ayyoob(シャリフィ アユーブ)

1. GCP+10の新テーマ

グローバルカーボンプロジェクト(GCP)は2001年に設立され、キャンベラ(オーストラリア)の科学産業研究機構(CSIRO)と、つくば(国立環境研究所)の二つの国際オフィスでこれまで運営されてきました。キャンベラオフィスは自然科学系、つくばオフィスは社会系のテーマを担当し、全体としてGCPの事業を推進してきました。韓国には地域オフィスがあり、主に生態学関係をテーマに進めています。

GCPはこれまでの活動を踏まえて、GCP+10という研究計画を作成しています。GCPは「分析」「脆弱性」「低炭素な発展」の三本柱で事業を進めてきましたが、GCP+10では、それぞれ発展的なテーマを設定しています。「分析」については全球的なメタンの収支の解明、「脆弱性」では炭素の吸収/放出のレジリエンスに関する生物多様性の役割の把握、「低炭素な発展」については、ネガティブ・エミッションです。

2. Future Earthの枠組みにおけるGCPの活動

GCPはこれまで10年以上地球システム科学パートナーシップ(ESSP)のもとでプロジェクトを行ってきましたが、ESSPは2012年に解体され、2014年にFuture Earth[1]に移行することになっています。Future Earthの枠組みのなかでは、さまざまなステークホルダーが関与して、科学者と研究活動を設計し(Co-Design[協働企画])、研究そのものも協働生産(Co-Production)していきます。

GCPのこれまでの活動はFuture Earthの枠組みに適合していると思います。GCPつくば国際オフィスが進めてきた「都市と地域における炭素管理」(Urban and Regional Carbon Management: URCM)を発展させた「気候と調和した都市の発展とレジリエンス」(climate compatible and resilient urban development)について、GCPでは2012年度の国際ワークショップから議論を進めています。内容は、気候と調和した低炭素な都市の発展とレジリエンスにおいて重要な指標は何か、また、その指標を気候と調和した都市の発展を促進するための統合評価モデルにどう組み込んでいくのかというものです。さらに、気候変動に対する緩和策と適応策の相乗効果やトレードオフを考慮して、都市と地域の発展を目指すことなどをFuture Earthに提案していきたいと考えています。GCPは、どうしたら気候と調和した都市の発展とレジリエンスを高められるかというテーマについて、土地利用を正確に反映した地理モデルを構築したり、気候変動に対する回復力を強化する戦略やシナリオを開発したり、世界のいろいろな地域の研究者と共同研究することで、プロジェクトを進めます。

3. ネガティブ・エミッションとは

GCP+10のなかで新しい方向性として考えているネガティブ・エミッションについてご紹介します。産業化以前からの平均気温上昇を2°C以内に抑えるような低炭素社会を構築するためにはどこかで二酸化炭素(CO2)排出をマイナスにしなければなりません。それを実現するのがネガティブ・エミッションシナリオです。その一つとして「バイオマス燃料の利用とそれに伴う炭素回収貯留」(Bio-energy with carbon capture and storage: BECCS)があります。植物が光合成によって生産した炭水化物を元にしたバイオマス燃料の利用は、それ自身がカーボンニュートラルなのですが、利用時に発生するCO2を回収・貯留することで実質的にマイナスになります。この循環が2°C目標の前提になっていますから、(1) 気候変動リスク管理をどう定義づけるか、(2) BECCSは気候変動リスク管理のツールになりうるか、(3) 実際にどこで持続可能な取り組みとして行えるポテンシャルがあるか、(4) 全世界で取り組む場合、どういう制度でいつだれが行うのか、ということを検討しながら進めていくことになります。

4. 2013年の主な活動

GCPつくば国際オフィスの2013年の主な活動は以下のとおりです。

(1) 国際ワークショップ「気候変動対策に適した都市発展—都市の評価フレームワークの構築に向けて」(2013年3月12日〜13日 タイ)[2]

会議の目的
  • 都市の発展において、気候変動の緩和策と適応策を考慮した統合された枠組みを開発する
  • 気候変動と調和した都市の発展のための定性的・定量的評価指標を構築する
  • 緩和策と適応策の将来シナリオを描く
議論の主なテーマ
  • 気候変動科学、気候変動対策としての緩和策・適応策および社会経済的な政策モデリングを統合する
  • 沿岸地域の都市(特に東南アジア)の気候変動への脆弱性を検討する
  • 都市の土地利用シナリオを作成する

(2) 国際ワークショップ「ネガティブ・エミッションと炭素循環」(2013年4月15日〜17日 オーストリア)[3]

会議の目的および議論の主なテーマ
  • 2°C目標を達成するために、どれくらい、どこで、ネガティブ・エミッションが可能か
  • 土地利用の選択(植林、BECCS、埋立など)を組み合わせた評価を行う
  • BECCSを大規模に進めていく場合の障害は何か

(3) 第12回GCP科学運営委員会会合(2013年4月17日〜19日 オーストリア)

議論の主なテーマ
  • 炭素収支(公表、政策決定者への配慮、中国を重点的に取り組む、CO2とメタンの収支)
  • 炭素地図(carbon atlas)(内容、ユーザー(audience)、発表形式など)
  • Future Earthに貢献する活動の戦略

炭素地図はGCPの研究成果として近々公表される予定です。

(4) BECCSに関するGCPセミナー(2013年10月3日 国立環境研究所)

議論の主なテーマ
  • 廃棄物を利用した低炭素技術
  • BECCSによるゼロエミッションシナリオ

(5) 日韓GCPオフィス会合(2013年10月15日〜16日 国立環境研究所)

議論の主なテーマ
  • アジア太平洋地域(現在の主な対象は日本、韓国、中国)の炭素収支評価(Regional Carbon Cycle Assessment and Processes: RECCAP)を推進するための協力
  • 地理的に明確な土地利用モデルの韓国への適用

(6) 国際ワークショップ「持続可能なネガティブ・エミッション:気候変動リスクマネージメントの選択肢」(2013年12月6日〜7日 東京)

議論の主なテーマ
  • ネガティブ・エミッションの技術と経済的視点
  • ネガティブ・エミッションと炭素回収貯留との連係

地球環境研究センターニュースで報告を紹介する予定です。

5. 今後の会議予定

2014年以降の活動は以下のとおりです。

  • 日韓GCPオフィス会合(2014年2月20日〜22日 韓国)
  • URCMに関する国際会議(2014年3月19日〜22日 タイ)
  • 応用エネルギーに関する国際会議(2014年5月30日〜6月2日 台湾)

(2013年11月7日 地球温暖化研究プログラム・地球環境研究センター合同セミナーより)

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GCPつくば国際オフィス 事務局長 SHARIFI Ayyoob(シャリフィ アユーブ)

名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻で博士課程を修了し、2013年10月からGCPつくば国際オフィス事務局長に就任いたしました。博士論文のテーマとして、持続可能な開発を進めるためにはどんな近隣街区のシステムが有効かを分析しました。博士課程在籍中、名古屋大学グローバルCOEプログラムの研究助手としても勤務しました。イランのタブリズ大学では土木工学を、科学技術大学での修士課程においては都市計画を専攻しました。

最近興味をもっている研究テーマは、低炭素社会をデザインし実現しながら都市が発展していくこと、および気候変動による負の影響を最小限に抑え、持続可能で回復力のある都市の開発です。特に、地域での意思決定を支援するシステムとして使える評価システムの開発と利用について、重点的に取り組んでいます。これまで、持続可能性評価、戦略的環境アセスメント、近隣街区計画、環境の質、建築基準、都市と地域計画における定量的分析に関する論文を発表しました。

趣味はサッカーと山登りです。日本では、富士山や百名山のひとつである伊吹山などに登りました。三重県の御在所山の紅葉も印象的でした。近いうちに筑波山にも登りたいと思っています。

*GCPに関する過去の主な記事は以下からご覧いただけます。

目次:2014年1月号 [Vol.24 No.10] 通巻第278号

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