2014年5月号 [Vol.25 No.2] 通巻第282号 201405_282002

東アジア首脳会議域内の科学的知見に基づく低炭素成長戦略の策定とその実装に向けて —「東アジア低炭素成長ナレッジ・プラットフォーム」招聘者の国立環境研究所訪問—

  • 社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室 特別研究員 朝山由美子

1. はじめに

国立環境研究所は、2014年3月4日、「東アジア低炭素成長ナレッジ・プラットフォーム」(地球環境豆知識参照)参加国の政府機関や研究機関の代表13名からなる視察団を受け入れました。

この視察団は、我が国の外務省が招聘したもので、低炭素成長に向け、日本の取り組みや技術への理解を深め、各国・機関の取り組みについて情報を共有し、東アジア首脳会議(East Asia Summit: EAS)域内で「東アジア低炭素成長ナレッジ・プラットフォーム」のあり方を議論することを目的としています。

国立環境研究所は、低炭素成長の推進・低炭素社会構築に向けた研究成果、関連研究施設、研究室を紹介するとともに、視察団との意見交換を行いました。以下にその概要を紹介します。

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写真1「東アジア低炭素成長ナレッジ・プラットフォーム」視察参加者との集合写真

2. 低炭素成長実現に向けた国立環境研究所の研究活動・研究成果の紹介

視察のはじめに、住明正理事長が挨拶し、国立環境研究所の概略と気候変動問題に関する研究活動の概要を紹介しました。

その後地球環境研究センター(CGER)からは、民間旅客機を使った温室効果ガス観測や人工衛星による全球の二酸化炭素とメタンの観測プロジェクト、温室効果ガスインベントリ作成等の活動紹介が行われ、視察団の参加者からは、観測のメカニズムや手法、自国の温室効果ガス排出量や、温室効果ガスインベントリ編纂にかかる具体的な実施体制等、参加者自身の業務に直結したことを中心的に熱心な質問がありました。特に、それぞれの研究プロジェクト紹介時には、米国やヨーロッパ諸国における取り組みと日本の取り組みの相違に関する質問が多くあり、CGERの研究活動分野における日本の特徴・優位性を把握したいことがうかがえました。

資源循環・廃棄物研究センターでは、第一に、東日本大震災の被災地における災害廃棄物や、放射性物質に汚染された廃棄物の適正処理推進に向けた調査・研究についての説明がありました。第二に、アジア各国の研究機関と共同で進めている、途上国における気候や廃棄物の処理状況に応じた処理処分技術の研究や、地域の特性を活かしつつ資源循環を基盤とした適正な廃棄物管理に関する研究の紹介が行われ、タイをはじめ関係国の参加者から、現地の研究機関との研究実施体制、及び期待される研究成果に関する質問が相次ぎました。

地域環境研究センターでは、自動車の低燃費技術評価に関する研究成果を紹介しました。そのうち、自動車の運転の仕方の違いによる燃費や、CO2の排出量変化についての説明に関心が集ったようです。

社会環境システム研究センター(以下、社会センター)からは、EAS域内の低炭素成長の実現・低炭素社会の構築に向け、4つの研究活動を紹介しました。第一に、産業共生型の地域エネルギーネットワークシステム構築に向けた低炭素技術・政策の評価システムの開発に関する研究紹介を行いました。第二に、低炭素政策に向けたアジア太平洋統合評価モデル(Asia-Pacific Integrated Model: AIM)の開発と各国への適用に関する研究の成果を紹介しました。第三に、独立行政法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)による地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)支援の下、AIMを用いて、国内外の研究協力機関やイスカンダル地域開発庁と共同で策定したマレーシア・イスカンダル開発地域における2025年低炭素社会実行計画の概要、及びその策定過程について紹介しました。第四に、2020年以後の国際気候変動制度のオプション、及びその合意・実行可能性について、気候変動に関する国際交渉に直接・間接的に携わるステークホルダーへのアンケート調査の結果を分析した研究成果を紹介しました。社会センターの研究に関して、参加者の関心が高かったのは、AIMを用いた日本の温室効果ガス削減目標値の分析に関することでした。東日本大震災の前後での日本の政策の相違に関する質問を通じて、低炭素成長に向けた温室効果ガス削減目標や、エネルギーミックスのあり方に関する議論が繰り広げられました。

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写真2社会環境システム研究センターによる視察参加者とのディスカッションの様子

3. おわりに

短い時間ではあったものの、EAS域内の低炭素成長の実現・低炭素社会の構築に向けた研究活動・成果の要点を紹介することができました。視察参加者のバックグラウンドは多様でしたが、誰もが自国の取り組みの具現化に向け、熱心に質問やコメントをしていた姿が印象的でした。視察対応を通じ、新たなネットワーク構築の機会を得て、多様なステークホルダーが、それぞれ持つ知見や経験を活かし、低炭素成長の実現・低炭素社会の構築に向けた取り組みを進めていければ、EAS域内全体のメリットになると思いました。

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