2014年8月号 [Vol.25 No.5] 通巻第285号 201408_285003

宇宙から温室効果ガスを測る人々の集い:第10回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(IWGGMS-10)参加報告

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 特別研究員 石澤みさ

1. はじめに

第10回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップThe 10th International Workshop on Greenhouse Gas Measurements from Space(IWGGMS-10)が2014年5月5日から7日の3日間、オランダ、ノートワイクにある欧州宇宙機関・欧州宇宙科学技術センターEuropean Space Agency/European Space Research and Technology Centre(ESA/ESTEC)で開催されました(http://www.congrexprojects.com/2014-events/14c02/introduction)。 国立環境研究所からは、横田GOSATプロジェクトリーダーをはじめ、計11人が参加しました。その約半数が、常連の参加者ですが、筆者にとっては、今回初めての参加となりました。本報告では、筆者が担当しているインバースモデル(逆計算による温室効果ガスの吸収・排出量の推定)研究に関連する発表を中心に、ワークショップの概要と感想を記します。

このワークショップは、2004年に人工衛星からの温室効果ガス観測を目的とした日米の衛星プロジェクトGreenhouse Gases Observing Satellite(GOSAT)とOrbiting Carbon Observatory(OCO)の関係者らが集い、現在及び将来の観測技術、解析利用技術に関する情報交換を図るため、東京(宇宙航空研究開発機構・地球観測利用推進センター)で第1回が開催されました。それ以来、ほぼ年1回の頻度で開催され、今回で10回目です。開催地は、第2回がアメリカ(カリフォルニア工科大学)、第3回は再び日本、第4回はフランス、第5回アメリカ、その後、日本-ヨーロッパ-アメリカの持ち回りでの開催が慣例となっています。第1回IWGGMSは、日米衛星プロジェクト間での技術的な情報交換の場として一つテーブルを囲んでの小規模な集まりでしたが、回を重ねるに従い、参加者、発表件数が増加傾向にあります。10年目の節目を迎える今回は、参加者では第1回の約20倍、昨年日本(横浜)で開催された第9回IWGGMSの約2割増の171人(登録数211人)となり、また発表件数も134件と拡大しました。発表内容も、衛星センサの校正、検証、解析アルゴリズム等の技術面から、データ解析、温室効果ガス放出量推定等、データ応用に関わる発表議論も多く含まれ、このワークショップの量的・内容的拡大傾向は、人工衛星による温室効果ガス観測研究分野の急速な発展と進歩を反映しているといえるでしょう。

今回の参加者の内訳は、開催地がオランダであることから、ヨーロッパ50%、北米20%、アジア17%、アフリカ11%と、ヨーロッパからの参加が半数を占め、参加国別では、オランダとアメリカが40人、次いで、日本とフランスが20人でした。アメリカの発表からは、自国CO2観測衛星OCO-2(初代OCOは、2009年2月に打ち上げ失敗)打ち上げ直前ということで、OCO-2への期待と熱気が感じられました(2014年7月2日に無事打ち上げ成功)。

2. ワークショップの概要

IWGGMS-10は、ESA地球観測部長による、ESAの衛星観測プロジェクトの現状概要と今後の計画を含めたオープンニング挨拶から始まりました。特に、今回のワークショップはESAが現在検討中の温室効果ガス研究に関する衛星プロジェクトEarth Explore 8(EE-8)の2つの候補衛星の一つCarbonSatの最終採用の是非を意識していることが強調され、CarbonSatのESA衛星プロジェクト全体での位置づけと意義が述べられました。CarbonSatはGOSAT同様、CO2およびCH4大気カラム濃度を測定することを主目的としているのに対し、もう一つの候補衛星FLEXは、陸上生物圏の光合成の活動度とCO2吸収に関わる葉緑素による蛍光の全球分布を調べることを目的としています。これら、2つの衛星プロジェクトが、現在、EE-8最終審査での採用をめぐって、審査中です。

続いて、日本、アメリカ、ヨーロッパの温室効果ガス観測衛星プロジェクトからの基調講演と、現行機GOSAT、現在打ち上げ準備中の衛星ミッション(アメリカのOCO-2、中国のTanSat)の進捗報告があり、その後 (1) リトリーバルアルゴリズム、(2) インバースモデル、(3) データ解析、(4) 検証、(5) 将来衛星プロジェクトの準備状況の報告、の5つのテーマにより、67件の口頭発表、67件のポスター発表が行われました。

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写真1会議会場の様子。Session 6「データ解析-1」の場面。最も手前の方が、IWGGMS-10コンビーナ代表のYasjka Meijer氏(ESA)

発表では、日本のGOSATデータを用いた研究が多数を占め、打ち上げ後5年間安定的に運用され、データ提供を続けているGOSATが世界中で広く有益に用いられていることが実感できました。さらに、GOSATデータのリトリーバル、データ解析等から得られた経験が、次に続く温室効果ガス観測衛星プロジェクトの基礎をなしているという印象でした。アメリカからの発表では、2009年2月のOCO打ち上げ失敗後、GOSATデータを用いて、リトリーバルアルゴリズムの開発、改良等の解析、数値実験を続けて、それらの経験を基にOCO-2に臨む姿勢が感じられました。ヨーロッパからは、GOSAT、OCOとCarbonSatとのサンプリング方法、ポイントサンプリング、ラインサンプリング、マップサンプリングによる水平分解能の違いを示し、都市規模の空間スケールの温室効果ガス排出量推定には、CarbonSatのマップサンプリングで可能となる高分解能の必要性が強調されました。

また、IWGGMS-10終了の翌日に、1日ワークショップ「将来の温室効果ガス衛星ミッションと課題に関するワークショップ(Future GHG Mission Challenge Workshop)」が同じ会場で開催され、これまでの衛星観測の経験を基礎にCarbonSatへの期待が感じられました。

3. 衛星データを用いたインバースモデリング

二日目の午前に、衛星データを用いたインバースモデル研究のセッションがもたれました。国立環境研究所からは、Maksyutovが、環境省・JAXA・国立環境研究所の共同プロジェクトであるGOSATプロジェクトのCO2およびCH4フラックス推定に関する最新の研究成果を紹介しました。筆者は、GOSATで観測されたCO2大気カラム濃度に対するバイアス補正が逆計算結果に与える影響と、さらに地上観測ではカバーしきれない北ユーラシア域での、CO2フラックス推定値と気候変動の関連について発表しました。

地域別CO2およびCH4フラックスを求めるインバースモデル研究において、これまでに蓄積された衛星データが、フラックス推定精度の向上に貢献していることが示される一方、衛星データのバイアスに伴う、推定フラックスの違いにどのように取り組むかが大きな課題となっています。今回の発表でも、バイアス補正の影響評価に関する話題が多く取り上げられていました。インバースモデル研究の新たな方向性として、複数の衛星データを組み合わせて、インバース計算から推定されるフラックス量の検証・プロセス解明(CO2とCOの比から、森林火災の影響と気候変動に伴う陸域生態系の応答変化の分離等)や、短波長赤外域のスペクトルから導出される大気カラム平均CO2濃度と熱赤外域スペクトルから導出されるCO2濃度(特定の高度域)を同時に束縛条件とすることによるCO2フラックス推定の精度向上の取り組みも紹介されました。

インバースモデル研究の対象空間スケールは、通常亜大陸規模ですが、続くデータ解析のセッションでは、衛星データを使った都市域からの人為起源温室効果ガス放出量の推定に関する研究がいくつか発表されました。この研究分野では、より高い空間分解能と精度の高い衛星データが求められ、課題は多くありますが、人間活動に伴う温室効果ガス放出量の把握に向けての衛星データの有用性を示しているといえます。

4. おわりに

IWGGMS-10の最後に、次回のIWGGMS-11がアメリカ・カリフォルニア州パサデナで2015年6月に開催されることが決定されました。それまでには、7月2日に打ち上げに成功したOCO-2からの解析データの公開が予定されており、衛星データを利用したCO2研究のさらなる推進が期待されます。

筆者がIWGGMSに参加したのは、冒頭に述べたとおり、今回が初めてです。これまで地上観測データを基に研究を行ってきた者としては、衛星データを使っての研究自体は、まだ日が浅く、今回の参加により最前線の衛星研究に関して多くを学ぶことができました。衛星データには地上観測データとは異なる問題(バイアス等)もありますが、地上観測の空白域をカバーし、時空間的密度の高い温室効果ガス濃度データを得られるという利点を生かして、温室効果ガスの吸収・放出量の時空間変動の把握に取り組むという、衛星観測の本来の目的に沿った科学的議論ができる段階まで進歩したという印象を受けました。

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写真2参加者の集合写真(写真提供:ESA IWGGMS-10のウェブサイトより http://www.congrexprojects.com/2014-events/14c02/photos

目次:2014年8月号 [Vol.25 No.5] 通巻第285号

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