2014年8月号 [Vol.25 No.5] 通巻第285号 201408_285008

地球環境モニタリングステーション落石岬20周年 5 観測成果 1:8年目を迎えた落石岬ステーションにおけるハロカーボンの連続観測

  • 環境計測研究センター 動態化学研究室 主任研究員 斉藤拓也

1. はじめに

北海道根室市にある落石岬ステーションが1994年に竣工されて今年で20年になります。本稿では、2006年に観測項目に加えられ、今年でようやく8年目になるやや新顔のハロカーボンの観測について紹介したいと思います。

2. ハロカーボンとは

ハロカーボンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子を含む炭素化合物の総称で、大気中には様々な種類が存在しています。このうち、大気中で比較的安定に存在して成層圏オゾンの破壊や地球温暖化に関与する成分については、モントリオール議定書や京都議定書などの国際的な取り決めによってその生産や使用などが規制されています。こうしたハロカーボンが大気中にどの程度蓄積されているのか、また日本を含む東アジア地域からどのくらいの量が排出されているのかを明らかにすることが、我々が行っている観測の目的です。

3. 落石におけるハロカーボンの観測

国立環境研究所では2004年に沖縄県・波照間島のステーションでハロカーボンの連続観測を開始しました(横内陽子「大気中ハロカーボンの連続観測」地球環境研究センターニュース2012年12月号)。それから2年後の2006年夏には落石岬ステーションでも同様な観測がスタートしました。落石岬ステーションでのハロカーボン観測には波照間のものとほぼ同種の観測装置を用いています。これは、大気中にごく微量に存在するハロカーボンを低温で濃縮する前処理装置(低温濃縮装置)とハロカーボン類を成分ごとに分離し検出するためのガスクロマトグラフ/質量分析計から構成されています。装置の運転は完全に自動化されており、毎時間、大気あるいは標準ガスを分析し、30–40成分のハロカーボン類を測定しています。装置の運転状況や観測データはインターネット回線を通じて、ほぼリアルタイムでつくばの研究所で確認できます。

これまで概ね順調に観測を続けてきましたが、一方で多くのトラブルにも遭遇してきました。その中でも比較的よくあるのが、ハロカーボンの捕集に使用するトラップ(濃縮管)の故障(ヒーターや温度センサーの断線)です。トラップは、冷凍機の中に置かれた金属製チューブ(内部に充填剤を含む)で、約−150度の低温でハロカーボンを濃縮、その後一気に+200度まで加熱されてハロカーボンを脱着するという過酷なサイクルに毎時間さらされているため、ある程度の頻度の故障は避けられないと言えるかもしれません。一定の学習期間を経た現在は、ヒーターや温度センサーを定期的に交換することでトラブルの発生を未然に防ぐようにしています。

落石岬ステーションでのハロカーボン観測の一例として、図にHCFC-22(CHClF2)の観測結果を示しています。HCFC-22は、強力なオゾン破壊物質であるCFCs(クロロフルオロカーボン、いわゆるフロン)の代替物質として、主に冷蔵庫やエアコンの冷媒としてこれまで広く使われてきた成分です。ただ、CFCsほど強力ではないもののHCFC-22もオゾン破壊に関与するため、先進国では消費と生産の段階的な削減が進められており(2030年までに全廃)、途上国でも昨年の2013年から削減に向けた取り組みがはじまっています。しかしその大気中のベースライン濃度は、落石において観測開始当初の約190pptから2013年に約240pptに達するなど、現在も増加傾向にあります。また、落石のHCFC-22観測結果からは、短期的に濃度が増加する汚染イベントの発生頻度が冬期よりも夏期に高くなることがわかります。これは落石岬ステーションが冬期に中国北部や極東ロシア、夏期に日本などの上空を通過した空気塊を捉え、国内におけるHCFC-22の排出の影響を夏期に強く受けているためで、夏期よりも冬期に中国南部や台湾などからの影響を強く受けて汚染イベントの頻度が高くなる波照間とは対照的です。このように波照間と落石が観測でカバーする地域は相互補完的な関係にあり、波照間ステーションに加えて落石岬ステーションでも観測を実施することで初めて東アジア域の全域における排出量の推定が可能になります。今後もこの地の利を生かした観測を継続し、地域的なハロカーボン排出がどのように変わっていくのかを明らかにすることが必要であると考えています。

figure

落石岬ステーション(青)と波照間ステーション(赤)における大気中HCFC-22濃度の観測結果

目次:2014年8月号 [Vol.25 No.5] 通巻第285号

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP