2014年10月号 [Vol.25 No.7] 通巻第287号 201410_287006

【最近の研究成果】 バイオマスによるネガティブ・エミッション技術のポテンシャル評価

  • 地球環境研究センター 特別研究員 加藤悦史
    (現:(一財)エネルギー総合工学研究所プロジェクト試験研究部 主任研究員)

世界の人為起源CO2排出量が増加傾向を示す中で、産業化以前からの全球平均気温上昇を2°C以下とする目標を達成するためには、今世紀末に向けて人為起源のCO2排出をゼロさらにはマイナスにする必要があるとされています。このため、2°C目標達成に向けた社会経済シナリオの多くでは、バイオエネルギー利用に伴う炭素回収貯留(バイオマスCCS)や植林などのネガティブ・エミッション技術を大規模に用い、大気中のCO2を除去をすることが前提となっています。

大規模バイオマスCCSによって大気中のCO2濃度を大幅に削減するためには、バイオ燃料作物を広域にわたり栽培する必要があり、食料作物のための農地との競合、森林伐採の拡大など土地利用を介したトレードオフ構造やリスクを把握しておく必要があります。この研究では、2°C目標シナリオであるRCP2.6の気候変動と土地利用において、必要とされるバイオマスCCSによるCO2回収量が達成可能かどうか、またバイオ燃料作物拡大による土地利用変化に伴う炭素排出量が整合的であるかどうか、プロセスベースのモデルを利用して空間詳細な評価を行いました。バイオ燃料作物の生産性は、作物の種類や肥料・灌漑利用などの農地管理によって影響を受けるため、これらを考慮した評価を行っています。また、実証プラントで現在利用可能とされた技術やエネルギー・コスト的には費用が高い技術も考慮してバイオマスCCS実現可能量の評価を行ったところ、食用作物による第一世代バイオ燃料作物(サトウキビ、トウモロコシ、ナタネなど)の利用では達成が困難であることが明らかになりました。第二世代バイオ燃料作物(多年生C4植物)の利用では、高肥料投入かつ高CO2回収技術を用いた場合のみ2°C目標への必要量が達成可能であることが明らかになりました。しかし、肥料投入により新たに発生する温室効果ガスであるN2O排出量の再評価、さらにCO2高回収技術のコスト・エネルギー効率の改善が必要であることがわかりました。これらの課題がクリアできない場合、2°C目標へ向けたバイオ燃料作物を用いたバイオマスCCSを達成するためには、シナリオが前提としている以上の農地拡大を行わなければならず、食料との競合や森林伐採によるCO2排出が避けられない可能性があります。

figure

(上) 第一世代バイオ燃料作物を利用した場合のバイオマスCCS可能量。(下) 第二世代バイオ燃料作物を利用した場合の可能量。点線は社会経済シナリオでの見積り。a) 実証技術シナリオ:燃焼前CO2回収による可能量、b) 中回収技術シナリオ:燃焼前回収+50%燃焼後回収による可能量、c) 高回収技術シナリオ:燃焼前回収+100%燃焼後回収による可能量

本研究の論文情報

BECCS capability of dedicated bioenergy crops under a future land-use scenario targeting net negative carbon emissions
著者: Kato E., Yamagata Y.
掲載誌: Earth’s Future, 2(9), 421-439, 2014, DOI: 10.1002/2014EF000249.

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP