2014年12月号 [Vol.25 No.9] 通巻第289号 201412_289006

PICES海洋モニタリングサービス賞を受賞しました

  • 地球環境研究センター 上級主席研究員 野尻幸宏

2014年10月20日(月)、韓国、麗水で開催されたPICES北太平洋海洋科学機構年次総会において、国立環境研究所による太平洋の篤志船観測が、POMA賞(PICES Ocean Monitoring Service Award:海洋モニタリングサービス賞)を受賞しました。

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PICES POMA賞は、北太平洋海洋科学機関(PICES: North Pacific Marine Science Organization)が、2008年に創設した賞である。PICESは、北太平洋を囲むカナダ・中国・日本・韓国・ロシア・米国が加盟する「北太平洋の海洋科学に関する機関のための条約」に基づいて、1992年に設立された国際機関である。PICESは北太平洋海域における海洋科学研究の促進と調整を目的とするが、地球規模の現象である気候変動と太平洋の関係に特に注目し、水産業など人間にとっての海洋便益に対する気候変動影響の評価と予測が最近の重要な取扱事項となっている。海洋の変動現象を把握するためには、海洋のモニタリングが重要であるが、長期にわたって安定な予算を確保して継続することが困難になっていることを踏まえ、PICESは北太平洋の海洋科学の進歩に長期の海洋モニタリングとデータマネージメントを通して貢献した団体・グループ・優れた個人を顕彰するものとしてPOMA賞を創設した。

今回の受賞対象は、国立環境研究所地球環境研究センターが、1995年から継続実施している太平洋の商船を利用するモニタリング事業である。本観測は、日本とカナダ・バンクーバー間を往復する材木運搬船Skaugranの協力を得て1995年3月に開始された。目的は、大気の二酸化炭素濃度と表層海水の二酸化炭素の分圧を、北太平洋の商船の通常運行航路上で連続的に計測し、大気と海洋の分圧差から海洋の二酸化炭素吸収量評価を行うことであった。この種の観測を海洋観測船で行う例は多数あったが、太平洋を横断する規模で繰り返し観測をすることは観測船では不可能で、国環研の開始当時までに集積されたデータと知識は限定的であった。国環研の観測は、1999年にコンテナ貨物船Alligator Hopeに新設備を搭載したことで、より高度な大気・海洋の二酸化炭素観測を可能にし、2001年に自動車運搬船Pyxisに移設することで、長期安定な観測となった。自動車会社の専属船は同一航路を安定に就航するので、Pyxisでは12年にわたる継続観測を行うことができた。Pyxisの退役を控え、2014年に後継船New Century 2に移設して、観測は継続している。オセアニア航路の自動車及び材木の運搬船であるTransfuture 5には新造船時に大気・海洋観測装置を設置し、2005年から西部太平洋の日本からオーストラリア・ニュージーランドまでの広い海域に観測範囲を拡大した。また、自動車運搬船Fujitrans Worldなど大気観測設備のみを搭載した協力船を加えて、太平洋と東南アジア海域をカバーする大気の温室効果ガス観測ネットワークも構築した。

観測開始当時は、海洋二酸化炭素の観測データの国際的な流通を促進する議論がようやく始まったところであったが、2007年に計画を具体化し2011年には国際データベースSOCAT(Surface Ocean CO2 Atlas)が公開された。国環研の海洋表層二酸化炭素分圧観測データは、SOCATに収録されることで、世界の研究者の認知と利用が高まった。また、国環研および国際共同グループからの論文発表実績も現在までに45編を超え、研究成果も卓越したものとなって、POMA賞の受賞につながった。

本観測は、船会社および港湾関係の諸機関の支援と協力で19年以上にわたってほとんど中断することなく継続してきたもので、ここで改めて謝意を表するとともに、地球環境研究センターのメンバーおよび現場を担当する団体の方々の努力に感謝したい。

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