2015年1月号 [Vol.25 No.10] 通巻第290号 201501_290002

環境省環境研究総合推進費戦略研究プロジェクトS-10一般公開シンポジウム「地球規模の気候リスクにどう対処するか〜人類の選択肢を考える」参加報告

  • 地球環境研究センター 交流推進係

環境省環境研究総合推進費戦略研究プロジェクトS-10一般公開シンポジウム「地球規模の気候リスクにどう対処するか〜人類の選択肢を考える」が平成26年12月1日(月)午後、東京都文京区の東京大学伊藤謝恩ホールで開催された。

一般公開シンポジウムと銘打つわりには、ちょっと堅いタイトルかなと感じつつ入場したが、案の定、参加者は一般市民より関係者と思われる方々が多く、少々難しい話でも問題ない雰囲気が漂っていた。本稿では、このシンポジウムの他にはない特徴やトピックを中心に報告する。

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シンポジウム入り口(伊藤謝恩ホール:外から来た方には少しわかりにくかったと思います)

1. 環境省が研究の目的を説明

冒頭、環境省の竹本明生研究調査室長から挨拶があり、この環境研究総合推進費は学術研究だけではなく地球環境政策についての科学的知見を得ることも目的にしていると説明した。そのうえで、地球温暖化防止には緩和対策だけでなく、適応も重要であるが、適応についてはそのコストも含めてわからないことが多く、今後の研究が期待されるとした。

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会場の様子

2. プロジェクトの概要説明

このシンポジウムは前半の講演4件と後半のパネルディスカッションから構成され、はじめに、S-10プロジェクトリーダーである国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多室長より、プロジェクトの概略についての講演が行われた。江守室長は、地表面の気温上昇を2°C以内に抑えるためには世界のCO2排出量を2050年までに半減、今世紀後半にはゼロかマイナスにしなければならないという厳しい条件の中、気候変動リスクと対策に伴うリスクとを考慮したうえで、人類にとって「選択可能な領域」が存在することを述べた。さらに、地球温暖化に関する意見の対立を科学だけで解決することはできず、社会の選択は「コスト・リスク・便益・実現可能性」はもとより、社会や技術を信頼するか、豊かさや正義とは何か、どんな社会に生きたいか等の価値観に深く依存することを説明した。

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気候変動リスクと対策に伴うリスクとを考慮[クリックで拡大]

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科学だけで意見の対立を解決することは不可能[クリックで拡大]

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地球温暖化問題の解決方法の選択は価値観にも深く依存[クリックで拡大]

3. 気候変動の長期目標とIPCC-AR5

続いて、国立環境研究所社会環境システム研究センターの高橋潔主任研究員が、気候変動枠組条約(UNFCCC)第2条「目的」と「2°C目標」を紹介し、IPCC-AR5に基づき、気温上昇によりどのような影響が予想されているか説明を行った。

その中で、科学はUNFCCCの目標をみたす水準を示すことが可能かという問いを立て、「いいえ、出来ません」と説明したことが興味深かった。

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さらに、高橋主任研究員はQ&A形式により、地球温暖化影響に関する様々な事項を説明し、緩和費用の試算結果などかなり具体的なところまで解説を加えた。最後に長期目標検討に際して考慮すべき、影響リスク、緩和努力などについて、IPCC-AR5は最新の科学的知見を示していることを紹介するとともに、長期目標は、科学的知見のみでは決定できず、そのリスクや対策費用などを考慮した上で最終的には社会の価値観に依存するとした。この結論の説明は江守室長と同じであるが、そこまでに至る複数のアプローチが試みられており、新鮮に感じた。IPCC-AR5のいくつかの重要な数値や記述について、横断的に対応づけるわかりやすい図表がいくつも示されたが、時間の関係で十分な説明が聞けなかったことが残念であった。

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4. 大気中CO2を減らすことは可能か?~バイオマスエネルギー利用CCSとその利用限界

ここで具体的なトピックが紹介された。講演者は国立環境研究所地球環境研究センターの山形与志樹主席研究員である。世界のCO2排出量を今世紀後半にはゼロかマイナスにしなければならないという厳しい条件に不可欠であるネガティブエミッション技術(排出量マイナスすなわちCO2吸収技術)としてバイオマスエネルギー利用(BE)とCO2回収貯留技術(CCS)を組み合わせたバイオマスエネルギー利用CCS(BECCS)を紹介した。ただし、この技術で必要量の削減を図るには、高い肥料投入と効率のよいCO2回収技術を利用した場合に限られるという制約があることが説明された。

最後に京都の竹林の写真を紹介しつつ、この毎年新しくのびる竹から竹炭を持続的につくって土に貯留すれば、規模は小さいがCCSとなるとの説明があったが、CCSのイメージとは異なるがわかりやすかった。

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5. 気候変動に対する市民の考え方の調査

4番目に三菱UFJリサーチ&コンサルティング環境・エネルギー部の宗像慎太郎主任研究員から市民の気候変動に対する考え方についての興味深い調査結果が示された。

調査は日米の約8500人(日本:7,298人、米国:1,255人)からのアンケートに基づいており、回答者がどのような社会観をもっているかを質問により分類し、その社会観の傾向と回答の内容の相関を見るなどの興味ある結果も紹介された。それによると日本の回答者は階層主義者的(権威を重視する)な傾向が強く(行動の自由を制限することも是とし、社会の目的を重視する)、米国の回答者は個人主義的な傾向が強い(行動の自由を尊重し、個人の目的に重きを置く)らしい。さらに、例えば温暖化防止のための法制化については日本では支持するとした人が約6割、米国では3割という結果となっている。世界にはそれぞれの地域でいろいろな考え方が存在するが、それぞれの考え方の特性が垣間見える面白い結果であると感じた。

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6. おわりに

4件の講演後一休み入り、後半は講演者も含めたパネルディスカッションが行われた。パネリストとして登壇した日経新聞の滝順一論説委員は、「今世紀末に排出ほぼゼロが必要と周囲に言うと、それは不可能だという意見が返ってくる」として、この問題をどう受け止めるかが難しいことを改めて問題提起した。タイトルにあるとおりの大きな問題であることと、多様な考え方があることから、必ずしも明確な方向性は示されなかったが、今後この問題を多角的に考える上での大変良い機会になった。

本件シンポジウムのスライド資料は下記URLからすべて参照できる。大変興味深いので是非ともご覧いただきたい。

http://www.nies.go.jp/ica-rus/symposium2014/index.html

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