2015年1月号 [Vol.25 No.10] 通巻第290号 201501_290003

二酸化炭素以外の温室効果ガスにも注目

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室長
    MAKSYUTOV Shamil(マクシュートフ シャミル)

二酸化炭素以外の温室効果ガスに関する第7回国際会議が、オランダの首都であり、芸術と運河、観光の街、アムステルダムで、11月5日〜7日に開催された。この会議は、大気科学から農業、政策決定という広い分野から研究者や政策担当者などが一堂に会し議論を行うという素晴らしい伝統を守っている。全員が出席する全体会合では、分野横断的なテーマを理解するために必要な基礎的な情報(platform)が提供された。これは、排出規制や国レベルのインベントリのトレンド、農業や自然生態系フラックス・大気化学・輸送に関する野外観測など、メタンと一酸化二窒素の排出に関する問題をまとめて取り扱う報告を理解するのに、とても役立った。

農業活動による一酸化二窒素の排出は窒素肥料の使用と密接に関係している。近年の精密農業技術には、肥料の調整にも使われる収量地図を作成するために開発された高い空間分解能をもつ収穫記録が利用されている。収量が低いところにより多くの窒素を投入し、不足分を埋め合わせるというものである。ワーゲニンゲン大学のRabbinge教授は、このような窒素肥料の使用は非効率的であるという批判的な意見を述べた。その理由は、収量が高いところにより多くの窒素を投入するという逆の方法をとった方が、一酸化二窒素の排出を抑えつつも高い食料生産が見込めるためである。

会議では、地球温暖化におけるブラックカーボンの役割が特に重要なテーマとして取り上げられた。北極圏の煤煙に関するものからインドネシア火災にいたる広範な研究成果は、最近の気候変動において煤煙が果たす役割について新しい知見を提供してくれた。北極圏の煤煙はトータルのエネルギーバランスに関して相反する効果をもたらす。太陽光の散乱と宇宙への放射に寄与する冷却効果と、冬季に地表からの太陽光の反射で縮小された雪のなかに煤煙が堆積し、春の融雪に一役買う加温効果である。

欧州議会、緑の党のBas Eickhout氏からヨーロッパにおける政治システムと環境法の発展について興味深い話があった。彼は、このシステムを把握するためには、(ヨーロッパのほとんどの人は知らないのだが)欧州議会、欧州委員会、欧州評議会という三機関の任務と権限を理解しなければならないということを明らかにした。

筆者が参加したセッション(GOSAT観測から推定された地域レベルのメタンフラックスの空間的変動性および経年変化 “Spatial and Interannual variability of the regional CH4 fluxes estimated with GOSAT observations”)では、発表のなかで、SCIAMACHY(欧州)、GOSAT(日本)、IASI(フランス)などの衛星観測で得られたメタン濃度プロダクトが、メタン放出とその時間変動の地理的分布の推定に利用されていた。なお、GOSATとSCIAMACHYデータを統合し、宇宙からメタンの観測を10年以上行う計画が進行中である。

なぜいつもオランダで?

MAKSYUTOV Shamil

NCGG会合が常にオランダで開催されるのはなぜだろうか?と考えてみました。

オランダは伝統的に効率のいい農業を行っていることと、チーズやチューリップの球根、乳牛などの農産物が有名な国です。一方で農業活動によるメタンや一酸化二窒素の排出と排出削減技術に関する幅広い分野の研究も行われています。また、温室効果ガスと排出量に関する研究が進められてきたのは、オランダ出身のノーベル化学賞受賞者Paul Crutzenの影響も大きいです。さらに、これまで私が参加した3回の会議では、オランダはとても素晴らしいおもてなしをしてくれました。こういったことがオランダで開催される理由なのかもしれません。

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アムステルダムの運河を走るボート

  • 本稿はMAKSYUTOV Shamilさんの原稿を編集局で和訳したものです。原文(英語)も掲載しています。

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