2015年1月号 [Vol.25 No.10] 通巻第290号 201501_290004

気候変動と科学技術〜考えよう地球の未来!〜 第12回環境研究シンポジウム報告

  • 地球環境研究センター 交流推進係

1. はじめに

環境研究を行う国立、独立行政法人および国立大学法人の13研究機関から構成される環境研究機関連絡会は、情報を相互に交換し、連携を密にしながらそれぞれの環境研究に係る活動を推進するとともに、その活動や研究成果を広く社会に伝えることを目的としている。そのため、環境研究機関連絡会は、毎年「環境研究シンポジウム」を開催している。2014年11月18日に一橋大学一橋講堂でおいて、「気候変動と科学技術〜考えよう地球の未来!〜」をテーマに第12回環境研究シンポジウムが開催された。事務局によると、報道関係や研究機関関係者、一般の方も含めて400名以上の参加があった。当日は14件の講演と、各参加機関8題程度、合計で約100題のポスター発表があった。

シンポジウムでは各研究機関の第一線で活躍する研究者がそれぞれの研究成果をもとに講演を行った。13機関すべてから講演があったため、一つの講演は15分とやや短めだった。また、講演後に質疑応答の時間を設けず、講演後のポスター発表会場で質問を受ける形式が取られた。

2. 国立環境研究所の講演内容

国立環境研究所からは、社会環境システム研究センターの肱岡靖明室長と甲斐沼美紀子フェローが講演を行った。

肱岡室長は「気候変動の影響と適応策」と題する講演を行った。温暖化対策として、温室効果ガスの排出を抑制する緩和策と、温暖化による悪影響に備える適応策がある。2014年3月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(AR5)第2作業部会報告書によると、「ここ数十年ですべての大陸と海洋において、気候変動が自然及び人間システムへの影響を引き起こしている」となっている。気候変動の影響は顕在化しつつあり、日本においても、サクラの開花の早まりなど生態系への影響や、農作物の品質低下・栽培適地の移動など、さまざまな分野に現れている。2014年夏に感染者が出て話題になったデング熱を媒介するヒトスジシマカも分布域が北上している。日本における将来影響、適応策評価に関する研究の一つとして、環境省環境研究総合推進費戦略研究開発領域S-8「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」があり、2014年3月に報告書を公表した。報告書のなかで、近未来(2031〜2050年)、21世紀末(2081〜2100年)における気候変動による影響リスクを評価した。一例として、コメの品質に着目した場合、適切な移植日を採用(適応あり)した場合、現行移植日(適応なし)よりコメの収量増加が期待できるが、収量が低下する地域が広く残ることがわかった(図1)。

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図1指標別影響評価例:コメ収量(RCP8.5, MIROC5, 2081〜2100) 出典:環境研究総合推進費の戦略研究開発領域S-8「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」報告書

適応は、第4次環境基本計画(平成24年4月)など一部の計画に記載されている。また、環境研究総合推進費S-8により研究も進んでいる。適応策はアジアの一部で行われているアグロフォレストリーなど、まったく新しい技術ではなく、既存の施策を有効活用し、かつ将来の気候変動を考慮した見直しを加えたものである。気候変動に立ち向かうことは何かを失うことではなく、問題を解決することで明るい未来を築くことが可能となる。そのためには豊かな創造力と革新的な解決策が重要であることを肱岡室長は強調した。

関連する内容として、他の研究機関からは、気候変動による森林植生への影響(森林総合研究所)、気候変動に対する農業・食料生産技術(農業環境技術研究所)、気候変動に対する漁業資源の応答(水産総合研究センター)など、興味深い講演があった。

甲斐沼フェローは「地球温暖化の緩和策と低炭素社会」と題する講演を行った。2014年4月に公表されたIPCC AR5の第3作業部会報告書によると、温室効果ガス排出量は削減努力にもかかわらず増加を続けている。1750年から2010年の260年間の人為起源の累積二酸化炭素排出量のうち、約半分は最近40年間(1970年から2010年)に排出された。2010年の世界の温室効果ガス排出量のうち、アジアの排出量は全体のおよそ42%を占め、今後見込まれる急速な経済発展に鑑みると、アジアの排出量は伸び続け、2050年には世界の温室効果ガス排出量の約半分を占めるようになると予想される。つまり、2050年までに世界が温室効果ガスを半減させた低炭素社会に移行するには、アジアにおける排出削減がカギを握っている(図2)。

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図2アジア低炭素社会への取り組みの必要性

アジアが環境を保全し、温室効果ガスの排出を抑制しながら、経済発展可能な低炭素社会を実現するために、アジア低炭素社会研究プロジェクトでは、10の方策をまとめた(方策1:都市内交通[階層的に連結されたコンパクトシティ]、方策2:地域間交通[地域間鉄道・水運の主流化]、方策3:資源利用[資源の価値を最大限に引き出すモノ使い]、方策4:建築物[光と風を活かす省エネ涼空間]、方策5:バイオマス[バイオマス資源の地産地消]、対策6:エネルギーシステム[地域資源を余さず使う低炭素エネルギーシステム]、対策7:農業・畜産[低排出な農業技術の普及]、対策8:森林・土地利用[持続可能な森林・土地利用管理]、方策9:技術・資金[低炭素社会を実現する技術と資金]、方策10:ガバナンス[透明で公正な低炭素アジアを支えるガバナンス])。

10の方策による削減効果を試算したところ、排出削減に貢献できることがわかった。さらに研究からの社会実装として、マレーシア・イスカンダル開発地域を対象とした低炭素社会シナリオを開発した。中国、インド、インドネシア、タイなどとも研究協力が進んでおり、アジア各国・各地域の特徴を勘案して、その地域に適した低炭素社会の向けた政策や対策を立案・実施することが重要であることを紹介した。

低炭素社会の実現については、耐熱・耐環境材料の開発(物質・材料研究機構)などの講演もあった。

3. ポスター発表

ポスター発表は講演前と講演後の2回設定されており、参加者は興味あるテーマのポスターの前でポスター発表者や講演者から説明を聞いていた。国立環境研究所のコーナーにもたくさんの方が訪れてくれた。地球環境研究センターからは温室効果ガスインベントリオフィス(温室効果ガスインベントリオフィスの役割—京都議定書第一約束期間の報告—)、グローバルカーボンプロジェクト(「都市と地域における炭素管理(URCM)」イニシアティブの国際的な推進)、交流推進係(地球温暖化を「見える化」する様々な方法)がポスター発表を行った。講演した肱岡室長と甲斐沼フェローに、講演内容に関することを質問する参加者も見られた。

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4. おわりに

最初に述べたように400名以上という多数の参加を得たのは、13研究機関すべてから講演があり、シンポジウムのテーマに関する幅広い内容であったことと、2013年9月からIPCC AR5が公表され、気候変動に関する科学的知見について社会的な関心が高まっていることが挙げられる。講演のなかでもAR5の知見が数多く紹介されていた。

環境研究シンポジウムは、最新の研究成果を一般の人が理解するいい機会になっているだけではなく、環境研究に携わる研究機関の情報交換や連携を緊密にする貴重な機会でもある。

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