2015年2月号 [Vol.25 No.11] 通巻第291号 201502_291005

低炭素社会に向けたアジアの前向きな発展と潜在可能性 「低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)」第3回年次会合報告

  • 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
    低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)事務局 石川智子
  • 国立環境研究所社会環境システム研究センター 環境都市システム研究室 主任研究員 藤井実
  • 国立環境研究所社会環境システム研究センター 統合評価モデリング研究室 主任研究員 大場真

1. はじめに

日本は、アジアの低炭素発展に資する研究、及びその実現に向けた人材育成に相当期間携わっており、それらについての十分な蓄積があります。京都大学やNIES等による研究チームはアジア太平洋統合評価モデル(Asia-Pacific Integrated Assessment Model: AIM)を用いて各国の低炭素成長の可能性を現地の研究者とともに研究してきており、また、IGESは、上記研究チームとともに研究者・政策担当者の対話の促進、研究者間の連携を支援するワークショップを開催してきました。こうした活動の結果、アジアにおける低炭素知識を地域で共有する必要性が明かになってきました。

今回紹介する低炭素アジア研究ネットワーク(Low Carbon Asia Research Network: LoCARNet)は、アジア地域の低炭素成長に向け、科学に基づく政策形成とその実現のために、最新の研究成果や知見を研究者、政策担当者、関連するステークホルダーと共有し、議論を行なう開かれたネットワークとして設立[1]されました。

このネットワークはまた、研究者と政策担当者の対話と低炭素成長に向けた政策研究を促進していくこと、研究能力や知識がしっかりとそれぞれの国に根付いた(オーナーシップをもった)形で、各国の研究者間の協力を進めていくこと、域内における知識共有・情報交換の機会を提供することにより、南北のみならず南南協力に基づいたアジア地域の研究能力を高め、低炭素アジアに向けた知識中核として機能することを目指しています。

2014年11月24日〜26日、インドネシア・ボゴールにて、同ネットワークの第3回年次会合[2]を開催しました。会合には、24日(全体会合)には171名、25日(分科会)には120名、26日(分科会及び総括セッション)には84名が出席しました。

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写真年次会合には、インドネシア国内のみならず、各国からたくさんの参加がありました

2. 年次会合での議論と、LoCARNetボゴール宣言の採択

今回の年次会合では、「アジア地域に包括的な研究課題と、こうした研究成果を地域で共有する仕組みづくり」、「インドネシア国内の地域の削減計画の策定にあたり、研究コミュニティ、特に当該地域の大学の関与のありかた」、「低炭素キャンパス、都市、地方の革新的なモニタリングシステム」、「域内の研究コミュニティの育成・強化に向けた、コ・ファイナンスによる地域研究基金の紹介」、「アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)の「低炭素イニシアティブ」に選定された研究成果の中間報告」、「低炭素発展の尖兵となる都市の優良事例紹介」、「REDD+と住民(共同体)による森林管理」、「フィリピンとインドネシアをフィールドとした、緩和と適応の統合政策」、「アジアの温室効果ガス削減可能性と研究コミュニティの役割」、「リモートセンシングと持続可能な森林管理」、等々、低炭素アジアの実現に向け喫緊の、またアジアに特徴的な課題について活発な議論が行われました。

また、年次会合最終日には、LoCARNetボゴール宣言「気候安定化に向けアジアは準備万端である」が採択されました。発展著しいアジアが、エネルギー多消費型発展を続けると、2050年には世界のおよそ半分の温室効果ガスを排出すると予想されます。これはアジアのみならず、全球的に深刻な影響を与えることとなります。他方で、現在の力強い発展を低炭素社会構築の方向に導くことができれば、アジアが低炭素発展において世界をリードできると考えられます。LoCARNetボゴール宣言は、こうしたアジアの前向きな発展と潜在可能性を示したものです。例えば、アジアの幾つかの国で行われている温室効果ガスの削減可能性を定量的に示す統合評価モデルを使った政策形成や、衛星を使った温室効果ガスモニタリングなどのツール、エコハウスやグリーンビルディング・温室効果ガスモニタリングに必要な低炭素技術、地域研究基金、低炭素技術やインフラの導入を促進する資金メカニズム、また、域内の複数の大学・大学院による共通カリキュラムの提案や、研修センターの設置等による域内の人材の育成等々、低炭素発展に向けた様々な準備が整っていることが示されました。

3. 国立環境研究所が主催するセッション

NIESはLoCARNetの開始以来参加してきましたが、昨秋から共催機関として参加しています。本会合において、地球環境研究センター(CGER)と社会環境システム研究センターが協働し担当した二つのセッションを紹介します。

2日目の午前に、“Carbon Monitoring System Innovation, toward low carbon campus, city and region” と題するセッションが開催されました。藤田社会環境システム研究センター長から社会モニタリングと広域モニタリングの統合による技術評価の可能性が提案され、ボゴール農業大学(IPB)のBudianto氏からは、キャンパスの電力消費量モニタリングに関する説明がなされました。CGERの横田室長からは観測衛星(GOSAT)とモデルの組み合わせによる、地域の温室効果ガス吸収・発生量のより正確な推計の可能性、更に奈良女子大学の林田教授からは、メタンガス発生量に着目した推計について報告が行われました。Green Building Council Foundation, IndonesiaのYusuf氏は、温室効果ガス発生の4割を占める建物について、デジタル技術を利用したモニタリングによる排出量削減の重要性を報告しました。富士通株式会社の有山氏からも、モニタリングによる低炭素都市推進の可能性について話題提供がなされました。インドネシア国立航空宇宙研究所(LAPAN)のKartika氏からは、リモートセンシングによる土地利用観測に基づくカーボンアカウンティング、マレーシア工科大学(UTM)のRahman氏からは、グリーンキャンパス推進の取り組みが報告されました。会場の参加者を含む議論の中では、環境省の竹本氏(地球環境局研究調査室長)から、途上国等においてデータが不足する中、NIESで今年度開始されたモニタリング事業(平成26年度二国間クレジット(JCM)推進のためのMRV等関連するインドネシアにおける技術高度化事業)が、インドネシア等アジアの低炭素対策に変革をもたらす可能性を持つことが指摘されるなど、革新的なモニタリング技術への期待の高さが確認されるセッションとなりました。

3日目の午前に、“Remote Sensing Technologies for Low Carbon Forestry Management” と題して、リモートセンシングによる森林インベントリー調査と関連したセッションがありました(議長はRizaldi Boer教授(IPB))。まずNIESの横田室長からGOSATによる観測の状況とインドネシアへの適用の可能性について話題提供がありました。インドネシア環境森林省のHaruni氏によるインドネシアにおける炭素収支インベントリーの説明が行われ、続いてNIESの大場より生態系モデルによる炭素循環の推定、IPBのArdiansyah氏よりリモートセンシングによる森林炭素蓄積推定についての誤差の評価に関する研究紹介がありました。最後にNIES長谷川より一般均衡経済モデルによる森林などの土地利用変化による緩和策がもたらす影響評価についての研究報告がありました。リモートセンシングを利用した、今までにない森林モニタリングや森林と社会に関わる研究の可能性を見いだせたセッションとなりました。

4. 今後の予定

一方で、年次会合では、科学的な政策立案を進めていくために、研究者と政策担当者との対話を進め、研究成果を政策に実装すること、また、今後低炭素社会に向けた実装を目指して、様々なステークホルダー、とりわけ実行主体である経済界・産業界との更なる連携が図られるべきこと、上記の前向きな兆しをさらに促進していくため、域内の知識集約・知識共有の仕組みを考えていくべきことなどが課題として示されました。

加えて、今後の低炭素発展研究が、貧困撲滅、低炭素発展における女性の役割、ライフスタイル変化などを踏まえた、より学際的な広がりをもつべきとの指摘がありました。

今回の年次会合の成果は、昨年12月にペルー・リマにて開催された気候変動枠組条約第20回締約国会議(COP20)の期間中、日本パビリオンやインドネシアパビリオンでのサイドイベントで公表されました。また、現在統合報告書の作成を進めており、今後この報告書を低炭素社会・低炭素発展に関連した様々な会合、機会に向け積極的に発信していく予定としています。

次回会合は、2015年秋にマレーシア・ジョホールバルにて開催することが提案・合意されました。折しも2015年からはアジア諸国を含むすべての国が温室効果ガス削減に向けた政策をとるため、今後このような交流の場がますます重要となると考えられます。引き続き関係の皆様方のご指導・ご助言をいただきたく、どうぞよろしくお願い申し上げます。

脚注

  1. LoCARNetは、2011年10月にカンボジア・プノンペンで開催されたASEAN+3環境大臣会合において日本政府とIGESより提案され、2012年4月に東京で開催された「東アジア低炭素成長パートナーシップ対話会合」にて正式に立ち上げられました。以来、ASEAN+3環境大臣会合に活動進捗を毎年報告してきています。
  2. LoCARNetは、第1回年次会合を2012年10月にバンコクにて、第2回年次会合を2013年7月に横浜にて開催しました。

目次:2015年2月号 [Vol.25 No.11] 通巻第291号

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