2015年3月号 [Vol.25 No.12] 通巻第292号 201503_292003

陸域生態系リモートセンシングの動向AGU Fall Meeting参加報告

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 特別研究員 野田響

1. はじめに AGU Fall Meeting 2014

2014年12月15から19日にかけて、アメリカ合衆国サンフランシスコのMoscone Centerにおいて、The American Geophysical Union(AGU:アメリカ地球物理学連合)のAnnual Fall Meetingが開催された。Fall Meetingは毎年12月に同じ会場で、最新の研究報告と情報交換を目的に行われており、今回で47回目を数える。大気、海洋、生物圏、地殻、さらに宇宙物理学などの地球惑星科学全般から、それらに関する教育と人材育成まで、扱われる分野は多岐にわたる。今回のFall meetingでは1,700以上のセッションについて、口頭発表とポスター発表合わせて計23,000件を超える発表が行われたとのことである。参加者は希望をすれば、紙媒体のプログラムの冊子を受け取ることができるが、これほどの大規模な会議であるため、冊子に掲載されているのはセッションとイベントのスケジュールのみで、発表リストは日毎に会場で配布されている「新聞」に掲載される。その代わり、スマートフォンやタブレット端末向けの専用アプリが作られており、参加者には事前にインストールしておくことが推奨されている。このアプリによって、自身の興味がある研究をキーワードや著者名から発表を素早く探すことができる。

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写真セッションの合間のコーヒーブレイクの様子。ロビーに置かれたテーブルでは、あちらこちらで活発な議論の様子が見られた

以下、筆者が発表を行った陸域生態系のフェノロジー研究と、地球観測において大きな役割を果たしている陸上生態系のリモートセンシングに関する最新の動向に関して述べる。

2. 植物のフェノロジー(生物季節)研究

今回、筆者は12月18日の午前中に行われた “Vegetation Phenology in Terrestrial Ecosystems: Observations, Modeling, and Implications on Climate Change” のポスター発表セッションにおいて発表を行った。温帯のように明瞭な季節がある地域では、植物群落の葉群構造や葉の光合成能力などが季節により変化し、それが生態系の物質循環に影響する。また、将来の気候変動により、植物の特性の季節変動が影響を受けることが予想されている。このセッションでは、様々な手法による観測結果の紹介やモデルによる予測、生物学的な解析など、多様なアプローチによるフェノロジー研究について17件のポスター発表が行われた。筆者自身は、植物の光合成能力の季節変化のリモートセンシング手法開発のために、独自に改良した放射伝達モデルにより解析した結果について発表を行った。一般に落葉広葉樹林では、群落全体の分光反射率は大きく季節変化をする。筆者らの解析の結果、特に可視光の変動は、季節による葉群構造の変化(展葉および葉の成長による葉面積指数の上昇や落葉による下降など)よりも、群落を構成する個葉の分光反射率・透過率が季節変化することの影響が顕著であることが示された。この発表では、多くの研究者らと今後の研究の展開に繋がる有意義な議論を行うことができた。また、同セッションは翌19日に口頭発表のセッションを行い、invited speakerとして、村岡博士(岐阜大学)が、日本の落葉広葉樹林における長期観測から、樹木の葉のフェノロジーには年変動があることを示し、さらに、同じ森林において行った3年にわたる野外温暖化実験(温室を設置して人為的に温度を上昇させる実験)により、葉の成長が早まる一方で老化の開始が遅れることで着葉期間が伸びたという成果について講演した。

3. リモートセンシングによる生態系観測の動向

筆者の専門に近いBiogeoscience分野では、リモートセンシングによる観測を主題としたセッションが多数企画されていた。また、それら以外のセッション内でもリモートセンシング関連の発表は数多く行われており、生態系研究においてリモートセンシングが強力なツールのひとつとなっていることを実感した。中でも、新たな手法として目立ったのは、特に太陽光に誘導されるクロロフィル蛍光(Solar Induced chlorophyll Fluorescence: SIF)についての研究であり、16日に行われたセッション “Integrating Latest Advances if Biogeochemical Processes into Earth System Models” で多数の口頭発表が行われた。「クロロフィル蛍光」とは、植物が光合成を行う際に発する微弱な光である。植物生理生態学の分野では、以前から主に室内実験で、光合成系の状態を測定するために利用されてきた。Frankenbergら(2011)とJoinerら(2011)が、それぞれGOSAT衛星のバンド1(O2観測用バンド)により、陸域の植物の「クロロフィル蛍光」を観測していることを公表して以降、新たな陸域生態系の炭素吸収活性のモニタリング指標として注目を集めている。このセッションはC. Frankenberg博士(NASA、アメリカ)による発表から始まった。朝8時からと早い時間であったにもかかわらず、50人以上の聴衆が集まり、このテーマに対するこの分野での関心の高さを感じた。彼はSIFについて紹介するとともに、2014年にNASAが打ち上げたOCO-2ではGOSATよりも細かい空間解像度でのSIFの時空間分布を観測していることと、今後、陸域生態系観測においてさらなる成果が期待できることを述べた。さらに、このセッションでは、J. Berry博士(Carnegie Institute、アメリカ)が、植物生理学的な視点からクロロフィル蛍光のメカニズムと意義について紹介し、観測されたSIFと植物の光合成活性との間には依然としてギャップがあることを示して、それを埋める研究の必要性を強調した。他にもSIFに関連した口頭発表とポスター発表は多数あり、今後、生態系のリモートセンシングにおいて、新たな流れをつくっていくと感じた。

その他、“Remote Sensing of Vegetation Function and Traits” というセッションでは、G. Asner博士(Carnegie Institute、アメリカ)がアマゾンの森林において実施した、森林の直上からの可視-短波長赤外のイメージング分光計(写真データが各ピクセルにRGB情報が入った画像データであるように、面的な分光情報分布データを得ることができる)による個葉レベルの生化学的特性のリモートセンシングについて研究発表を行った。これまで、G. Asner 博士は、個葉レベルの分光特性データと葉の生化学的なパラメータの多変量解析による葉の生化学的特性に関する詳細なリモートセンシング研究に取り組んでおり、それを面的に発展させた研究として大変興味深かった。また、植物生理学的特性のリモートセンシングで先駆け的な研究を行ってきたJ. Gamon博士(University of Albert、カナダ)は19日午後の “Remote Sensing to Support Investigations in Plant-Climate Interaction” というセッションのinvited speakerとして、近年の植物の生理生態学的特性のリモートセンシング研究と新しい技術の発展から期待される展望について講演を行った。

4. おわりに

AGU Fall Meetingは、毎年、多数の地球環境研究の成果が発表されており、それぞれの分野の最新の動向を理解することができる貴重な機会である。また、この会議の特徴として、アメリカ国内はもちろん、世界中の国々から多数の参加者があることが挙げられる。そのため、英語が母国語でない参加者も多く、英語に関しては寛容なように感じた。日本人研究者、特に若手は英語での議論となるとつい及び腰になりがちだが、これからFall Meetingなどの大きな国際学会に参加する若手研究者は、ぜひ、怖がらずに他の参加者との議論を積極的に楽しんで欲しい。ちなみに、筆者も自身のポスター発表では、その分野で有名なとあるアメリカ人教授から「君の説明は下手だが、君にとって英語は外国語だから仕方がない。それでもアイデアの素晴らしさは理解できたから、これはいい研究だ」と励ましとお褒めの言葉をいただいた。

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