2015年3月号 [Vol.25 No.12] 通巻第292号 201503_292007

地球温暖化で雨の降り方が変わる? —平成26年度気象庁気候講演会報告—

  • 地球環境研究センター 交流推進係

気象庁は、地球環境問題に関する最新の科学的知見やその対策などに関する知識を深めるために、「気候講演会」を平成元年から毎年、日本各地で開催しています。平成26年度は、地球温暖化による影響の中でも特に「雨」に焦点をあて、「地球温暖化と雨」をテーマに将来の降水の変化に伴う水害の予測技術、地球温暖化に伴うリスクについての講演会が、平成27年1月16日(金)に気象庁(東京・大手町)において開催されました。講演会では、国立環境研究所の高橋潔主任研究員を含む3名の講師が最新の科学的知見を紹介しました。

以下、開会挨拶と講演の要旨を紹介します。なお、当日の講演要旨集は http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/climate_lecture/files/H27_youshi.pdf に掲載されています。

1. 開会挨拶:西出則武 気象庁長官

気象庁の西出長官からは、地球温暖化は着実に進行しており、それにともなって雨の降り方(頻度や強度)が変化する可能性が非常に高いことが気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)で述べられていると紹介がありました。日本では、平成25年に伊豆大島、平成26年には広島で豪雨災害が起こりました。西出長官は、地球温暖化の影響に適切に対処していくためには、これまでに起こっていること、将来予測されていることを正しく理解することが重要と述べられました。

2. 将来の雨の予測 —より精度の高い予測への取り組み—
(講師:高薮出 気象研究所環境・応用気象研究部第二研究室長)

高藪室長の講演では、IPCC AR5第1作業部会(自然科学的根拠)で、全世界で大雨の頻度・強度ともすでに増加している地域が多く、将来も中緯度・湿潤熱帯域で増加の可能性が高いと述べられていること、他方、日本国内でも強雨統計においてここ100年の増加トレンドが見て取れることが紹介されました。

雨の降り方の将来予測に利用されるダウンスケーリング手法は、日本の脊梁山脈を表現できるくらいの詳細な解像度のモデルを使うなどして予測結果を細かく見ていく技法です。高藪室長らがダウンスケーリング手法を使い雨の降り方の将来変動について予測したところ、夏季の降水量については、今世紀末に向けて山地の南西側での降水量の増加が顕著になるという結果が得られたと説明がありました。

3. 地球温暖化による降水の変化に伴う洪水・浸水・氾濫の予測技術
(講師:立川康人 京都大学大学院工学研究科教授)

地球温暖化に伴い、短時間あたりの降水強度が増大する可能性が指摘されています。そのため、現在100年に一度の確率で起こるとされる洪水は、将来はより短い再現期間で発生するようになるかもしれません。立川教授らが、気象庁気象研究所の超高解像度全球大気モデルの結果を用いて、再現期間100年の最大流量(平均的に100年に一度の割合で発生する最大の河川流量)の変化率を計算したところ、21世紀末には、北海道、東北地方北部、中国四国地方および九州地方北部で再現期間100年の最大流量が増加する可能性があるとのことでした。

日本で大規模な風水害をもたらす台風については、立川教授の研究グループが最大クラスである1959年の伊勢湾台風を例として、近畿地方・中部地方の河川の最大流量シミュレーションを実施、台風の経路に応じた河川流量や浸水・氾濫の分析に取り組んでいると紹介がありました。

4. 地球温暖化リスクに関する最新の科学的知見 —IPCC第5次評価報告書をふまえて—
(講師:高橋潔 国立環境研究所社会環境システム研究センター総合評価モデリング研究室主任研究員)

高橋主任研究員からは、2014年3月に公表されたIPCCのAR5第2作業部会(影響・適応・脆弱性)の概要から、地球温暖化リスクに関する最新の科学的知見について説明がありました。まず、温暖化リスクの管理には、緩和策による危害の軽減とともに、適応策により暴露や脆弱性を減らすことで、許容可能な範囲にリスクを抑えることが重要になると述べました。

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図1リスクの大小を決める三つの要素(危害・暴露・脆弱性) [クリックで拡大]

AR5では、過去数十年間、気候変化がすべての大陸・海洋にわたって自然システム・人間システムに影響を及ぼしてきたこと、観測により、多くの地域で水資源への影響や生態系、農業・食料、人の健康への影響が確認されていること、今世紀中の気候変化によって、作物収量は長期的には減少し、強い降雨は増加することなどが報告されています。

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図2強い強雨の将来変化 [クリックで拡大]

また、AR5では、8つの主要なリスク(国連気候変動枠組条約第2条に記載されるような、「気候システムに対する危険な人為的干渉」による深刻な影響の可能性)として、海面上昇、沿岸での高潮被害などによるリスク、大都市部への洪水による被害のリスク、極端な気象現象によるインフラ等の機能停止のリスク、熱波による、特に都市部の脆弱な層における死亡や疾病のリスクなどを挙げています。

高橋主任研究員はAR5の知見をもとに、産業革命以前と比べて2°C以下に全球平均気温上昇を抑制できれば、あらゆる悪影響を回避できるのか、万一4°Cを超えるような大きな気候変化が起きたらどんなことが起こるのか、という問いをたて、固有性が高く脅威を受けるシステムへのリスク(例:サンゴの白化)や極端な気象現象に関連したリスクは、産業革命以前比1〜2°Cの気温上昇でも中程度〜高くなると見込まれていること、4°Cを超えたら、大規模な種の絶滅、全球的・地域的な食料不安定、通常の人間活動の制限などのリスクが生じると解説しました。

適応には「限界」があることがAR5で述べられています。高橋主任研究員は動植物を例にとり、21世紀に予測される気候変化速度と、適応の限界の一種と考えられる生物種の最大移動可能速度を検討したところ、陸域・淡水域の生物種の大部分において、最大移動可能速度は気候変化速度に追いつくことができないため、21世紀中及びそれ以降に予測される気候変化の下で絶滅リスクが増加すると述べました。また、AR5では、ある部門への温暖化影響に対して有効な適応策であっても、その他の部門や地域に対して波及的に悪影響を及ぼしたり、緩和策の阻害となる可能性が指摘されています。例えば水資源管理において、水資源の信頼度と干ばつ耐性を向上させるために海水の淡水化を行うと、塩類流出にともなう生態リスク、エネルギー需要増と付随する二酸化炭素排出増などが起こります。高橋主任研究員は、このようなトレードオフ関係は適応の実施の阻害因子、制約となり得ると説明しました。

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図3適応の「限界」の概念 [クリックで拡大]

最後に、政治的、社会的、経済的、技術的システムの変革により、効果的な適応策を講じ、緩和策をあわせて促進することで、レジリエント(強靱)な社会の実現と持続可能な開発が促進されると締めくくりました。

5. おわりに

近年大雨による災害が多く発生し、雨の降り方が変わってきたのでは? と考えている人は少なくないと思います。今回の講演会では、地球温暖化による影響の中で「雨」という一つの現象を取り上げ、異なる観点から最新の研究成果が報告されました。温暖化影響に適切に対処していくためには、まず正しく理解する必要があります。その意味でも今回のような講演会は大変重要だと感じました。地球環境研究センターニュースでは、今後も地球温暖化に関するさまざまなテーマを取り上げていきたいと思います。

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