2015年6月号 [Vol.26 No.3] 通巻第295号 201506_295004

国立環境研究所一般公開「春の環境講座」を開催しました 1 地球環境のモニタリング編

  • 地球環境研究センター 主幹(国立環境研究所 一般公開実行委員) 広兼克憲
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写真1公開日の国立環境研究所正門前

2015年4月18日(土)に、科学技術週間に伴う国立環境研究所一般公開として「春の環境講座」を開催しました。お天気にも恵まれ、昨年より多い595名の方々に研究所にお越しいただくことができました。地球温暖化研究棟では、衛星や航空機を使った地球環境観測や温暖化影響モニタリングの展示、発電量表示システムを備えた自転車発電の体験、新企画「地球温暖化を想定した土壌CO2排出実験ツアー」を研究棟北側の林の中で行いました。また、社会環境システム研究センターと協働した「温度とくらしのふしぎな関係〜身近な熱の世界〜」、恒例の参加型パネルディスカッションとしては生物・生態系環境研究センター、社会環境システム研究センター、環境省自然環境局の協力を得て「徹底討論、温暖化で生態系はどうなる?—私たちにできることは—」などを開催しました。

さらに昨年に引き続き、地球温暖化研究棟のグリーンカーテンから株分けしたパッションフルーツの苗を約160株、来場者にプレゼントしました(写真2, 3)。

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写真2, 3研究所生まれのパッションフルーツの苗、約160本を来場者の皆様にお配りしました

当日の公開がどのようなものだったかを、3報に分けてご紹介します。第1報として、地球環境モニタリングについての公開内容をご報告します。

1. 海と山の変化が教える地球温暖化の影響

海や山の生態系の継続的観察によって地球温暖化の影響を検知する研究をデータや写真などをふんだんに使ってご紹介しました。

まずは山です。来年(2016年)から8月11日が国民の祝日「山の日」になることから、現在、日本の山が注目されています。国立環境研究所は富山県の立山において高山生態系のモニタリングを続けてきましたが、これまで6年間の立山の季節変化を記録した大きな写真パネルを制作して、来場者にご説明しました。北陸新幹線開業で一層注目度が上がった立山の変化の比較に訪れた方々の興味を集めていました。

高山帯のモニタリングは下記サイトで最新情報を提供していますので、是非ご覧ください。
http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/mountain/

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写真4高山帯生態系の季節変化を時系列に複数年写真記録し、地球温暖化の影響を監視する研究の紹介

一方、海ではサンゴ礁に変化が起きつつあります。サンゴは海水温の上昇により、生息域が拡大・北上したり、海水の酸性化により骨格形成が妨げられると言われています。では、サンゴの変化をどのように観察するのでしょうか? 会場には、実際に観測に使用する道具(ドライスーツやフィンなど)やサンゴの骨格標本、骨格標本を観察するための顕微鏡などを用意しました。壁には通常のポスターサイズをはるかに越える大判写真などを展示し、海中自然環境の臨場感を再現しつつ、注目すべきポイントをご説明しました(写真5, 6, 7)。

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写真5, 6海の中でのサンゴの経年変化を現在・過去で比較することにより地球温暖化の影響が見えてきます

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写真7海中でサンゴを実際に観察する際の動きを再現しながら説明しています

2. 天空からとらえる温室効果ガスの状況(日本航空株式会社[JAL]や宇宙航空研究開発機構[JAXA]などとの連携)

地球は広く観測したいところはたくさんあるのですが、観測できる人材資源は限られており、とても世界全体をカバーすることはできません。そこで私たちは様々な工夫をし、マンパワーを補っています。

ここでは、民間航空機や人工衛星を使った全世界の温室効果ガス濃度観測の方法と得られたデータの可視化による新たな知見について説明と解説を行いました。

写真8で赤い日本航空のプリントのある上着を着て説明しているのは、民間航空機を利用した温室効果ガス観測プロジェクト(コントレイルプロジェクト)の中心人物である大気・海洋モニタリング推進室の町田敏暢室長です。

このプロジェクトでは、世界の空を飛び回る旅客機に研究所が開発した小型の二酸化炭素濃度連続測定器を搭載し、そのデータを研究所に集めて世界の温室効果ガス濃度のトレンドを解析しています。このような広範囲のデータは非常に貴重であり、研究者を中心として、世界で利用されています。

写真では機内貨物室に積み込まれた小型観測機器の実物大模型をつかって、サンプル空気のとおる経路や標準ガスとの比較方法などについて、担当研究者である町田室長が説明しています。

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写真8町田室長によるコントレイルプロジェクトの説明

また、写真9では、衛星観測研究室の横田達也室長が温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)が、なぜ温室効果ガスの濃度を測定できるのかを模型とCG画像でわかりやすく説明しています。

「いぶき」は宇宙から地球を電磁波の目で見ることによって、メタンと二酸化炭素の濃度を測定できます。3日かけて地球をくまなく回りながら、世界の二酸化炭素濃度とメタン濃度を5年以上にわたり測定してきた「いぶき」のデータから二酸化炭素が排出された後の動きなどが地球規模でわかるようになってきました。

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写真9温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の説明を行う横田室長

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写真10地球の形をしたスクリーンに海面水温のデータを貼り付けて説明をしています。こうすると、地球における温室効果ガスの濃度分布がイメージしやすくなります

3. 地球温暖化を想定した土壌CO2排出実験ツアー(新企画)

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写真11, 12右側に見える透明なボックスが自動的に開いたり閉じたりして、土壌が二酸化炭素をどれだけ排出しているのかを調べます

地球温暖化研究棟の北側にある森林内では、土壌の温度が変わった場合にどのような変化が起きるかを確かめる実験が数年間にわたり行われています。土壌から排出される温室効果ガスは、将来温暖化が進み土壌表面の温度が上昇するとさらに増えるといわれています。その検証実験現場を実際に見ていただく所内探検ツアーを今回初めて設定しました。

この探検ツアーに、希望者をご案内し(合計4回、約80名が参加)、炭素循環研究室の梁乃申主任研究員と寺本宗正特別研究員が説明を行いました。初めての企画でしたが、天気にも恵まれ、皆様、ご満足いただけたものと思います。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

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