2015年10月号 [Vol.26 No.7] 通巻第299号 201510_299004

地球環境研究センターは創立25周年を迎えました 4 地球環境研究センター創立25周年を迎えて

  • 地球環境研究センター長 向井人史

世界の動きとともに

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国立環境研究所地球環境研究センター(以下、CGER)は、1990年に発足し、2015年10月をもって創立25周年を迎えることになった。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設立されたのが1988年、環境庁に地球環境部が創設されたのが1990年、そして地球サミットが開催され、国連気候変動枠組条約が採択されたのが1992年であるので、地球環境問題・気候変動問題に対応する内外の大きな組織設立・制度制定と時期をあわせて設置され、それらとともに活動してきたことになる。

CGERニュースも25周年

また、CGERニュースも創設以来の刊行を続け、こちらも25周年を迎えたことをご報告したい。5年前の20周年の際、当時の笹野泰弘センター長がCGERニュースでご挨拶し、第2期中期計画(2006年4月–2011年3月)の成果を紹介しているので、私は主としてそれ以降の動きを報告し、今後の期待についてもふれてみたい。

不安とともにスタートした第3期中期計画

2011年4月、第3期中期計画がスタートするとともに研究所の組織改編により地球環境研究センターは6研究室・3推進室に改組された。その直前の2011年3月11日に東日本大震災が起こり、停電、水道・ガスの供給停止によりすべての研究がストップし、地球温暖化研究棟交流会議室は帰宅困難者の一時収容施設となるなど空前の大災害となった。震災後1週間、職員は臨時短縮勤務時間、契約職員は自宅待機となり、計画年度末のとりまとめ等の研究業務に大きな支障が生じ、新計画発足にも影響が及んだ。この異常事態で、スーパーコンピュータも1か月完全停止し、復旧後も約3か月は節電のための縮退運転を続けた。さらに、震災直後に起こった東京電力福島原子力発電所の事故による類を見ない夏季節電により7月はスーパーコンピュータを完全停止とするなど前代未聞の措置が取られた。

モニタリングデータの多角的蓄積・炭素循環研究の進展

波乱と暗雲の中でスタートした第3期中期計画であったが、2009年1月に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)が温室効果ガスの全球観測データを順調に取得し続け、規定の設計寿命5年を超えすでに今年で7年目に入っている。この間、世界での温室効果ガス観測衛星はGOSATのみであり、CGERにおいて世界の地球観測への貢献がさらに強くなった5年であった。またCGERがイニシアティブをとって日本航空等と協力して実現した産学官協力のCONTRAILプロジェクトにより(http://www.cger.nies.go.jp/contrail/)、世界の二酸化炭素濃度の高頻度観測データが蓄積され始めた。これらは、まさに観測研究のフロンティア領域として、GOSAT-2を含め進行させていかなければならないと考えている。

地上のモニタリングでは、北海道落石・沖縄県波照間での地上観測期間が20年以上に及び、気候変動研究の最も基本となる温室効果ガス濃度データを長期的に蓄積する能力と実績が証明された。そして、2007年からの富士山頂での連続観測開始やゾンテを使用した立体的濃度プロファイルの観測などを国内はもとよりアジア地域に展開しつつある。さらに炭素循環研究でもアジア太平洋域を中心とする観測ネットワークの連携拠点としての地位を確立している。2014年、ついに二酸化炭素を観測している北半球の地上の大気中平均濃度は400ppm(0.04%)を突破したが、その歴史的瞬間をもCGERのモニタリングネットワークは多角的に把握することができた。

富士北麓フラックスサイトでは、カラマツ林が成長して9年前に設置したタワーの観測高度をしのぐ勢いであり、更なる長期観測に向け、かさ上げ工事を進めている。北海道の天塩サイトでは、皆伐した森林が直後の二酸化炭素発生源から吸収源に変化していく過程などが詳細に記録され、森林の持続的管理による炭素吸収源としての役割などを長期的に調査がなされている。

一方で、温暖化による影響に関するモニタリングが開始され、日本周辺のサンゴの北上のモニタリング、高山植生の気候変動による変化のモニタリングなどが開始され、今後30年の気温上昇による生態系への長期的影響を刻々と記録を開始した。

これらのモニタリングを含むデータは温暖化研究プログラムに用いられており、炭素循環に関しての研究成果を生んでいる。

市民ととともに考える低炭素社会

地球温暖化の進行による将来の気候変動予測及びその影響評価に関する研究もここ数年で新たな成果をあげつつある。環境研究総合推進費S10プロジェクト「地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究」では、クリティカルなリスクを含んだ地球規模のリスクに対しての評価やトレードオフ関係にある土地利用の制限を考慮しつつ、不確実性を含んだリスク管理を統合的に研究している。これらの研究では、CGERの研究者だけでなく、外部研究者や有識者などの関係者と連携しつつ今後進行していくものである。

先のIPCC第5次評価報告書では、いわゆる2°C目標を達成するためには、今世紀末には地球上の温室効果ガスの排出を0またはマイナスにすることが必要となるとしているが、CGERの研究者はこのことも含めた現状を市民に発信・説明し、社会がどのような選択を将来すべきか、専門家だけではなく、社会全体での議論が必要である旨を呼び掛けている。そして、2015年6月には省エネ性能に優れた最新のスーパーコンピュータを導入して、IPCCの次期報告に向けた新たな研究の準備も進めている。

温室効果ガスインベントリ・グローバルカーボンプロジェクト

京都議定書第1約束期間が終了し、日本は震災に見舞われながらも国際公約を果たすことができたが、そのインベントリ報告は当センターに設置された温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)が取りまとめてきた。また、世界の炭素循環研究のハブの一つとなっているグローバルカーボンプロジェクト(GCP)つくばオフィスはCCS技術を含めたネガティブエミッションへの新たなプロジェクトに取り組み始めている。

まだまだ足りない積極的な成果の発信

他方、研究成果の積極的な発信としての取り組みにも引き続き力を入れてきた。例えば、笹野泰弘前センター長の構想・発案で、所内研究者44名、所外研究者35名の執筆・査読により最先端の地球温暖化に係る科学的知見とデータをわかりやすくコンパクトに解説した『地球温暖化の事典』(丸善出版)が2014年3月に5年の月日を経て発刊された。また、UVモニタリングサイトの長期人気コンテンツを増補・書籍化した『学んで実践! 太陽紫外線と上手につきあう方法』を出版し、好評を得ている。2014年4月からは所内で初めてのFacebookによるSNS情報発信を試行運用し、新たな関心層にも情報発信を開始した。しかし2015年8月に研究所として初めて開催した国際アドバイザリーボードは、CGERの活動について「素晴らしい活動をしているにもかかわらず、外に対するPRが見えてこない。もっとその成果を洗練された方法で世にアピールすべきである」と指摘した。これまで成果の発信には努力してきたつもりであるが国際的にもさらに発信力を高める工夫をしていきたい。

第4期中長期計画に向けて

地球環境モニタリングなどの活動は長期的データの蓄積も含め軌道に乗り、分野も多岐に渡ってきているが、それを支える人員が充実しているかと言うとそうではない。諸先輩が懸念されるように、運営も含め研究者や技術者、管理者などの不足が今後さらに深刻化することも考えられるが、来年度からスタートする第4期中長期計画期間は引き続き気候変動研究、低炭素社会実現に関する研究に取り組むと同時に、時代の要請に応じた地球環境モニタリングの実施、地球環境データベースの構築などにより、国内外の地球環境研究における中心的な役割を果たしたい。そのために引き続き所内外の研究者・関係者のご指導・ご鞭撻を頂くとともに、皆様のご理解とご支援をお願いする次第である。

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地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

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