2015年11月号 [Vol.26 No.8] 通巻第300号 201511_300009

地球環境研究センターがやっていること 〜現場実習をした大学生から見て〜

  • 早稲田大学 創造理工学部環境資源工学科 永瀬萌
  • 早稲田大学 創造理工学部環境資源工学科 福田宏樹

1. はじめに

2015年9月7日(月)から18日(金)までの間、大学学部3年生の私たちは実務研修生として国立環境研究所の地球環境研究センター(以下、CGER)で現場実習を行いました。その内容は主に、CGERの研究活動について学び、それらをアウトリーチするためのパンフレットを大学生の立場から作成するというものでした。今回、実習の報告を兼ね、CGERニュースの記事を書く機会をいただきました。ここでは、現場実習を通して学んだCGERの研究活動内容を、体験したこと、感じたことを交えながら紹介させていただきます。スペースの関係上、全てについては書けませんが、この記事からCGERの活動について、より知っていただけたら幸いです。

2. 地球温暖化研究の基盤「モニタリング」

研修の前半では、地球温暖化研究の基盤である「温室効果ガスモニタリング」を行っている研究者の方々に様々なモニタリングのお話しを伺いました。

(1) 人工衛星モニタリング

担当の横田達也さんにお話しを伺いました。

GOSAT(愛称「いぶき」)という人工衛星が、地球上の温室効果ガス濃度を測定しています。「いぶき」は、世界で初めて温室効果ガスの測定を専門に行う人工衛星です。地上666kmの宇宙空間から、雲がない限り測定できるため、まだ地球上での観測が行われていない領域の観測に役立っています。学生の目から見ると、GOSATの観測データが、どのような研究に使われ、身近なところで具体的にどのように社会に役立っているのか気になるところです。温室効果ガスがどこで発生してどこで吸収されるのかを明らかにすることが科学に求められている大きな課題ですが、GOSATのデータで多くの新しい論文が執筆され、その課題の解決に向けた様々な研究成果が上がってきているようです。膨大なデータが何を意味するかを理解しやすくするには、可視化という技術が有効です。一部については可視化されたものも見せていただきましたが、多くの「見える化」によりさらに理解が進むのではないかと思いました。

横田さんによると、現在は後継機であるGOSAT-2の準備をしており、研究所内ではGOSAT-2の観測データ処理解析施設の建設が行われていました。今後のGOSATそしてGOSAT-2の活躍に期待したいと思います。

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図1いぶきの観測パターン(黄色矢印:標準点観測、赤色矢印:特定点観測)

(2) 航空機モニタリング

担当の町田敏暢さんにお話しを伺いました。

航空機を使った温室効果ガスのモニタリングとして、「シベリアでの定点観測」と「民間航空機を利用した広域観測(CONTRAILプロジェクト)」が行われています。航空機を使った観測では、地上だけではわからない高度方向の温室効果ガス分布を知ることができます。つまり、我々が生活する地表面近くから、飛行機の飛べる最高の高さまでの濃度を測定することができます。初学の学生には気が付きにくいのですが、地上で測った温室効果ガス濃度だけでは、地球上の温室効果ガスの循環量を正確に推定することはできません。先に書いた「いぶき」による衛星観測では地上から上空まで平均した温室効果ガス濃度を測定します。その意味でも温室効果ガスの高度別濃度分布のデータを把握して、衛星データと突き合わせて検証できることが必要です。上空の温室効果ガスの濃度分布はなかなか観測できませんが、それを知ることが全体を理解する上で重要です。

町田さんのお話をお聴きし、シベリアでの観測による高度方向の温室効果ガス濃度の季節変化が、地上の活動や状況に深く関係していることが分かりました。例えば図2を見ると、7〜9月の地上の二酸化炭素濃度が低くなっていることが良く見てとれます。これはシベリアの短い夏の間に地上付近の森林が光合成により多くの二酸化炭素を吸収したことを反映しています。

また、CONTRAILプロジェクトでは、国際線が世界各国から集めてきた温室効果ガス観測データの蓄積により、北半球で排出された二酸化炭素が南半球に移動する様子が「可視化」され、分かってきたそうです。今回短い期間でしたが「可視化」というプロセスが重要な知見につながることを理解しました。民間事業者と協力して素晴らしいデータを取得するというのがCGERの18番のようです。今後も航空機モニタリングの観測データの活躍に注目していきたいと思います。

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図2二酸化炭素の鉛直分布の季節変化

(3) 地上モニタリング

担当の町田敏暢さんにお話しを伺いました。

地上モニタリングの分野では、北は北海道の落石岬、南は沖縄の波照間島で温室効果ガスなどの観測が行われています。両地点の最大の特徴は、周りには大きな都市がなく、人間活動による直接的な影響が少ないという点です。二酸化炭素の排出は人間がいるところから起こるのになぜこのような地での観測になるのか、最初はあれっと思いましたが、CGERが観測対象にしているのは、ヒートアイランドではなく、地球温暖化による気候変動なので、地球全体への影響を見る観点からは、大気が良く混合した場所で観測する必要があるということも理解できました。ここでは、その地域を代表する平均的な温室効果ガス濃度を測定することができます。図3を見ると、濃度の季節変動はありますが、一貫して上昇していることが見て取れます。季節変動は良く見ると夏に低くなり冬に高くなるというパターンになっています。これらのデータが、我々が普段ニュースで耳にする温室効果ガスの上昇の根拠となっているわけです。今までよく見ていたグラフのデータがCGERで観測されていたとは驚きでした。さすが、日本の地球温暖化研究の最先端を行く研究所だなと思いました。

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図3二酸化炭素濃度の変動

(4) 海洋モニタリング

担当の中岡慎一郎さんにお話しを伺いました。ここでもまた民間船舶に観測の協力してもらっていることに驚きました。北半球では民間船舶に測定装置を搭載してもらうことで海洋表層二酸化炭素濃度の広範なデータを得られるようになった一方で、南太平洋などまだデータが少ない地域もあり、今後のデータ収集が待たれることを教えていただきました。下の図は、現在のデータが得られている範囲を示しています。海上という、観測点を設置しにくい場所において、今でもこれだけ多くのデータが集まっていることは驚きですが、確かに南の状況が知りたくなる研究者の皆様のお気持ちを察します。

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図4海洋モニタリングの測定海域

(5) 陸域生態系炭素収支モニタリング

担当の寺本宗正さんにお話しを伺いました。山梨県にある富士北麓フラックス観測サイトも見学し、森林の高さを超えるフラックスタワーの頂上に上らせていただきました(写真1)。さらに地上では土壌呼吸の特性(温度や土壌水分に対する反応)を測定するためサイトで使用しているチャンバーシステム(箱型観測装置)の仕組みを説明してもらい、土壌呼吸が温室効果ガス濃度の変化に関わる重要な因子であることを教えていただきました。また、2014年5月と2015年の3月にこのサイト周辺の森林の間伐が行われたため、土壌呼吸を含めた林床部での炭素収支に対する影響が予想されていること、観測データによる検証を予定していることを教えていただきました。

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写真1富士北麓フラックス観測サイトからのながめ

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写真2林床に設置されたチャンバーシステム

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写真3富士北麓フラックス観測サイトのカラマツ林内における土壌呼吸の説明

地球温暖化による将来予測研究では、コンピュータによるシミュレーションが行われますが、そのシミュレーションが現実に沿わないものであったら意味がありません。このようなシミュレーションでは、まず、現状を過去のデータから再現できるかということで、モニタリングによって観測された値と照らし合わせることが行われます。「モニタリング」は地球温暖化研究の基盤として非常に重要であることが分かりました。

3. モニタリング結果に基づき将来を予測「シミュレーション」

研修の中盤では、実際に将来地球の気候はどうなっていくのか、そしてその気候変動によって頻度の増すリスクに関するコンピュータシミュレーションについて、担当の小倉知夫さんにお話しを伺いました(写真4)。地球の将来の気候変動を予測するときに使われるのは、気候モデルという数理モデルです。実際に計算しているところを見せていただいたところ、気候モデルはFortranというプログラミング言語で構成されていました。内容は複雑ですぐに理解できそうには見えませんでしたが、大学でFortranを習っていたので、世界最先端のプログラム計算の画面などを見て非常に親近感が湧きました。プログラミングを大学で少し学んでいる大学生にとっては、“気候モデル” と聞くよりも、具体的な計算画面とかを見せられたらちょっと興味をひかれるような気がしました。

現在小倉さんは、雲の影響を気候モデルにどう組み込むかというこの分野の最も最先端のテーマを研究されています。

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写真4スーパーコンピュータによる将来予測計算の詳細について説明を受ける

4. 私たちが目指していきたい社会「シナリオ」

低炭素社会(目指していきたい社会)の実現に向け、未来の社会の姿を予測し、取るべき方策を提案していく研究について、芦名秀一さんにお話しを伺いました。各地域、都市ごとに特長を活かしたシナリオの構築を行い、政策立案者の参考となるよう広く提供しているそうです。アジアが低炭素社会へ向かっていくために日本が果たすべき役割についても深く考えさせられました(写真5)。

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写真5芦名主任研究員から説明を受けた「2050低炭素ナビ」を操作

5. まとめ

地球温暖化に限った話ではありませんが、環境問題は議論する人の立場によってさまざまに形を変えるため、議論を導くことが難しいものだと思っています。これまでは、議論の難しさから、ともすれば踏み込み難いとすら感じていた地球温暖化問題でしたが、確かな根拠となる観測データやシミュレーションの結果を提示し続ける研究者の皆様のお話を伺い、地球温暖化研究がどのように進められていくかを教えていただきました。そして研修を通じてもっと研究を知りたいと思うようになりました。今後も温暖化問題に強く意識を向け、当事者意識をもって向かい合いたいと思います。 (永瀬萌)

私はこの実習をする以前、正直、地球温暖化やその研究に関する知識が非常に乏しい状態でした。世間やニュースで騒がれている地球温暖化の話を聞いても、自信を持って正確な知識で議論できませんでした。しかし、今回の実習を通して、最先端の研究内容はもちろん、研究者の方々がどのような思いで研究に取り組んでいらっしゃるかを学び感じることができ、ある程度は議論ができるようになりました。地球温暖化は社会全体で考えていかなければならない問題であり、私自身も社会の一員としてここで学んだことを生かしていきたいと思います。 (福田宏樹)

今回のインターンを通じて、地球温暖化という問題について社会に広く知られることの重要性を実感しました。研究内容を広く伝えていく活動の一環として今回は拙いながらもパンフレットの草案を作成しました。そして、伝えることの難しさを改めて感じました。今後とも、研究内容を知り、伝えていく姿勢を大切にしていきたいと思います。

最後になりましたが、マンツーマンで今回の実務研修の内容を企画してくださった交流推進係の皆様、机を貸して下さった研究支援係の皆様、私たちに研修の場を与えて下さった企画部研究推進室・広報室の皆様、そして、貴重な時間を割き、私たちに講義や説明をして下さった地球環境研究センターの諸先生方には大変お世話になりました。この場を借りて、深く御礼申し上げます。

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