2016年2・3月号 [Vol.26 No.11] 通巻第303号 201602_303002

国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)および京都議定書第11回締約国会合(CMP11)報告 2 COP21ジャパンパビリオンでのサイドイベント報告:ポストCOP21における国の気候変動緩和策の進捗を計測するための指標開発を目指した研究の概要紹介と成果報告

  • 社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室長 亀山康子

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

パリ協定では、各国の排出削減量の目標達成自体は、国際的な義務とは位置づけられないことがCOP21開催前から想定されていた。つまり、京都議定書とは違い、目標より排出量が超過しても国際義務違反とならないということだ。このような枠組みでは、排出量目標を自主目標と理解し真剣に取り組まなくなる国が出現するおそれがあることから、数年ごとに政策の進捗を確認する手続きが、パリ協定に盛り込まれた。しかし、具体的な確認方法は、今後の協議に委ねられている。

このような背景を踏まえ、各国の今後の排出削減努力を相対的に評価する手法の開発を目指して、我々は、今年度より研究を開始した。COP21のサイドイベントでは、この研究の概要を紹介し、これに対して、環境パフォーマンス指標では著名な3名の専門家からコメントを得た。

冒頭、亀山より、本プロジェクトで開発を目指している気候変動政策の進捗を測るための指標の体系、および、その体系を用いて米国、欧州連合(EU)、日本、中国のデータを実際に適用した場合の結果を紹介した。本指標案の特徴は、今までのように排出削減努力の結果としての排出量の多寡だけで国の努力を判定するのではなく、排出削減努力そのものも、国の努力として評価しようとするものだ。指標はアクション指標(実施された政策の厳しさ)とアウトカム指標(排出削減量)の2本柱で構成されていること、また、この2本柱にそれぞれ4つのゴール(エネルギーの低炭素化、エネルギーの効率的利用、エネルギー需要の逓減、森林分野による二酸化炭素吸収量増加&二酸化炭素以外の温室効果ガス排出量削減)を設定している点を説明した(図)。さらに、それぞれの結果を踏まえて国の状況を評価できることを説明した。

figure

CPPI(気候変動政策パフォーマンス指標)の体系 [クリックで拡大]

次に、共同研究者の田村堅太郎氏(地球環境戦略研究機関)が、体系の中で改善が求められる点を挙げた。特に、国の政策の厳しさを点数化する際に、国の発展度合いの違いをどのように反映させるべきかといった点が課題として挙げられた。その後、3名の専門家より助言を受けた。

Angel Hsu氏(イェール大学)からは、同大学で2006年に開発され、以降、毎年データを更新し世界各国の環境政策を評価しているEnvironment Performance Index (EPI)での失敗経験が紹介された。単に一人当たり排出量などで見ると最貧国がトップに来るという問題が生じ、必ずしもそうならないよう工夫が求められると示唆された。次に、Hilton Trollip教授(ケープタウン大学)より、途上国に指標を適用する際の注意点が示された。特にデータの入手可能性は、指標選定の上で大きな障壁となることが指摘された。最後に、Timur Guel氏(国際エネルギー機関(International Energy Agency: IEA))からは、最近IEAから公表された報告書が紹介され、エネルギーデータだけを用いた定量的な指標と、政策を評価する定性的な指標(政策対象分野の範囲など)の組み合わせが重要との示唆があった。

photo

写真サイドイベントの様子。IEAでの研究事例について説明するTimur Guel氏

これらのコメントの後、フロアから質問を受け、パネル形式で回答した。途上国にも対応可能な指標となるとデータの種類が限られることから、今後、パリ協定で決定された定期的な報告の手続きの中で、報告すべきデータの項目について、早めに検討を進めることが重要という指摘がなされた。

本サイドイベントで紹介した指標研究は今年度を含めて3年間(平成27〜29年度)のプロジェクトであるため、今後の改善に今回得られた示唆を反映させたいという主旨で総括した。今回指摘を受けた点について改善を行い、今後、米国、EU、日本、中国から、指標に用いるデータをすべて集め、評価する。次に、その評価をそれぞれの国の専門家にチェックしてもらう。また、類似の研究が世界各国で増えていることから、来年度には、類似の研究を実施している専門家を集めたワークショップを企画する。その結果を踏まえ、最終的な指標案を提示し、すべての国を評価対象にする予定である。

本研究、環境研究総合推進費2-1501「気候変動対策の進捗評価を目的とした指標開発に関する研究」(平成27-29年度)、に関してご関心をもっていただける方は、同ホームページ(http://www-iam.nies.go.jp/climatepolicy/cppi/index_j.html)をご覧ください。

目次:2016年2・3月号 [Vol.26 No.11] 通巻第303号

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP