2016年6月号 [Vol.27 No.3] 通巻第306号 201606_306002

インタビュー「地球温暖化の事典」に書けなかったこと 13 温暖化問題への関心をどのように行動に結びつけるか

  • 金森有子さん
    社会環境システム研究センター 環境政策研究室 主任研究員
  • インタビュア:広兼克憲(地球環境研究センターニュース編集局)
  • 地球環境研究センターニュース編集局

【連載】インタビュー「地球温暖化の事典」に書けなかったこと 一覧ページへ

国立環境研究所地球環境研究センター編著の「地球温暖化の事典」が平成26年3月に丸善出版から発行されました。その執筆者に、発行後新たに加わった知見や今後の展望について、さらに、自らの取り組んでいる、あるいは取り組もうとしている研究が今後どう活かされるのかなどを、地球環境研究センターニュース編集局または低炭素研究プログラム・地球環境研究センターなどの研究者がインタビューします。

第13回は、金森有子さんに、家庭における温暖化対策についてお聞きしました。

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「地球温暖化の事典」担当した章
8.4 需要側対策(民生部門)
次回「地球温暖化の事典」に書きたいこと
幅広い分野をターゲットにした家庭での温暖化対策

エンドユースモデルの専門家で「需要側対策」を執筆

広兼

金森さんは『地球温暖化の事典』では「8.4 需要側対策」という非常に幅広いテーマを主担当されました。どのような経緯で担当することになったのでしょうか。また、このなかで、金森さんが専門としているのはどの分野でしょうか。

金森

「8.4 需要側対策」は5人で担当しています。そのうち国立環境研究所(以下、国環研)の職員は私だけなので、主担当ということになりました。5人のうち3人は、私たちのアジア太平洋統合評価モデル(Asia-Pacific Integrated Model: AIM)グループと一緒に研究を進めているみずほ情報総研の方々、もう一人は国環研の特別研究員(当時)です。「8.4 需要側対策(民生部門)」には家庭部門と業務部門があり、私は、みずほ情報総研の方と一緒に家庭部門を執筆しました。

広兼

家庭部門からの温室効果ガス排出といっても、家電製品の節電だけではなく、ガスや灯油の使用、消費財の流通まで含めれば、かなり広い範囲について専門的に研究する必要があると思います。自動車使用は分野が運輸部門になるかもしれませんが、家庭部門にも係わってくるでしょう。どうしたらこのように幅広い分野について書けるのでしょうか。

金森

AIMには、温室効果ガスの排出量を推計するためのモデルが何種類かあります。その一つがエンドユースモデルです。これは、産業、民生(家庭・業務)、運輸という主要な最終エネルギー消費4部門に関して、どれくらい需要があるのかを設定し、その需要を満たしかつ費用を最小化するような機器選択を行うものです。例えば、家庭部門ですと、将来何世帯になるから照明や暖房はこれくらい必要であるという需要を設定します。そしてその需要を満たすための機器選択をモデルで計算します。つまりモデルを使うためには、家庭のどこで、どのような理由で需要が発生し、何で供給しているのかといったエネルギーシステムを理解することが必要になります。また、それに関わる最新の情報にアンテナを張り巡らせるため、家庭部門におけるエネルギー使用について横断的な知識が得られるのかもしれません。

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さまざまなデータをもとに将来を設定

広兼

『地球温暖化の事典』に書かれているような研究成果をあげるには、執筆者のみなさんは普段、どんな研究、作業、調査などをされているのでしょうか。機械工学的、熱学的なことから、都市計画、社会行動などさまざまな知識が必要ではないかと思います。

金森

エンドユースモデルについていえば、それぞれの部門担当者はモデルに必要な情報について勉強をして知識を得ています。私は家庭部門を担当したので、将来の人口、世帯数の推計から照明や冷暖房需要を推計するために必要な情報を収集し、モデル化し、シミュレーションします。さらに、家庭で使用する機器についても調べます。暖房を例にとると、エアコン、灯油ストーブ、ガスストーブなどさまざまな機器が使用されています。それらについて機器の購入金額、エネルギー効率、普及状況等をいろいろな統計等から入手し、モデル用に設定します。さらに将来はもっと機器の効率がよくなるはずですから、その高効率化がどこまで進むのかについても調査し、モデルに設定します。エンドユースモデルに関してはこういった流れの作業ですが、私個人でいうと、人々の家計消費や時間の使用からどのような生活を送っているのかを推計し、家庭ごみやエネルギー消費量、水消費量等を推計するためのモデル開発が中心的な作業になります。所属している社会環境システム研究センター(以下、社会センター)には社会学や都市計画の専門家もいますので、一緒に研究し、それらの分野からのアプローチも取り入れて、人々のライフスタイルと環境負荷発生量に関する研究を進めています。

広兼

金森さんは衛生工学がご専門でしたね。衛生工学のなかで家庭に関する分野はありますか。

金森

衛生工学の古くからの分野である上下水道、廃棄物、大気汚染、騒音、振動は人々の生活と深く関係する分野で、出身大学でも研究されていました。大学時代の私の指導教官はもともと上水道が専門でしたが、1980年代、国環研の森田恒幸先生(故人)らと、次のテーマは地球温暖化問題になるだろう、これは面白そうだということで、統合評価モデルを開発し、地球温暖化問題にアプローチする研究を始めたそうです。私はその統合評価モデルの一部として家庭部門に特化したモデルの開発を学生時代から行っていました。

家庭でできる温暖化対策 (1):最新の知見を取り入れ、できることを見直す

広兼

金森さんは、2014年の国環研の春の一般公開のパネルディスカッションにパネリストとして参加された時、会場の方からの「一般市民には温暖化防止で何ができるでしょうか?」という質問に的確に答えられていました。当時はまだ、IPCC第5次評価報告書(AR5)もすべてのワーキンググループについて公表はされていませんし、2°C目標は具体化していませんでした。IPCC AR5と、2015年末の気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定の2°C目標という高い目標が出ている現在、あらためてその質問を受けたとしたら、どうお答えされますか。

金森

一般市民に何ができるのかというのはよく聞かれます。けれども、この2年間に市民ならではの特別な対策が新しく出てきたとは、残念ながら思いません。当時と同じ答えになってしまいますが、自分の生活や行動の中でできることを改めて見直してほしいということです。すでにいろいろなことを実行しているでしょうが、できる限りのことはすべてやっていると思い込んでいないか、まだ他に工夫してできることはないのか考えてほしいです。あとは、適切な機器の買い替えです。この2点は以前と同じなのですが、私が「ココが知りたい地球温暖化」で「家庭でできる温暖化対策」(http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/26/26-2/qa_26-2-j.html)を執筆したときと今とでちょっと変わってきていることがあります。

広兼

どういったことでしょうか。

金森

家庭でできる温暖化対策というと、以前は、こまめな対策が何でもよし!という風潮があったように感じます。例えば、エアコンについても、部屋を使用しない場合は普通スイッチを切りますよね。でも、最近では、夏などにスイッチを切ったことでまた部屋が温まり、再度冷やすとエネルギーを多く使うそうです。30分や1時間程度の不在では、いちいちエアコンのスイッチを切らずつけっぱなしにしておいた方がトータルでは電気消費量が少なくてすみます。他にも、機器の性能が変わっていますから、いろいろな対策の効果も変わっています。対策の効果は時間と共に変わるということを知って頂き、なるべく最新の知見を取り入れて欲しいです。また、地球温暖化問題にもっと関心をもってほしいと思います。そうすると、考え方や行動が変わるでしょう。関心をもっていないわけではないけれど、今すぐ行動を起こさない人には、あまり後回しにしないで下さいと伝えたいです。国が2030年に向けた温室効果ガスの削減目標を決めました。その中でも家庭部門は40%減を期待されており、非常に多く温室効果ガスを削減する必要があります。削減に向け、のんびりしている暇はありません。

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広兼

エネルギーを節約するということでは、エレベーターや車をなるべく使わないということがあります。しかし国環研のなかでも実行できていない人が多いです。このことについて何かよい知恵はないでしょうか。

金森

以前、自動車通勤の人に公共交通で通勤しない理由を聞いたことがあります。公共交通機関を利用すると時間のロスが大きい、周辺に街灯が少なくて、自転車通勤するには夜はちょっと危険だなどと言われました。無理をして事件や事故につながるようなことになってしまうと困るので、難しいですよね。ただ、社会センターでは車以外で通勤する人が増えてきているように思います。

広兼

何が効果をあげたのでしょうか。

金森

単純に意識が高い人が増えたのか、周りを見てなんとなくそういう人が増えたのか。理由は正直なところよくわかりません。ただ、私は「それは無駄じゃないかな」と思った時は、一応指摘してみるようにはしています。

広兼

2011年3月の東日本大震災のとき、福島第一原子力発電所が止まり、計画停電などありましたが、そのこと自体にあまり文句を言う人はいませんでした。きちんと説明すればわかってくれるのでしょうね。

家庭でできる温暖化対策 (2):適切な買い替えを実施する

広兼

需要側対策の一つとして家電や自動車など、エネルギー高効率のものへの切り替えが推奨されることがよくあります。私はかつて環境庁(現環境省)で勤務していたとき、自動車の買い替えを進める自動車NOx法(「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」)を担当していました。これは古くて排出ガス規制の厳しくない車を早く廃車にして新しい車に買い替えて、環境を改善するということを主たる対策にしていましたが、よく考えると、まだ使えるものをゴミにしてしまうことにもつながります。つまり、「もったいない」という観点も出てきてしまいます。ライフサイクルアセスメント(LCA)等しっかり研究されていると考えたいですが、それを自分が納得するほど確認できていたわけではなく、一抹の罪悪感がぬぐえません。このことに対して何かアドバイスやご意見はありませんか。

金森

LCAの視点から、私の研究の中で定量的に結果を示したことはありません。今より効率のいい機器が、来年あるいは近いうちに出てくるでしょう。だからといって1年で買い替えるというのはおかしいと思います。家電機器でしたら、3〜4年でも早い気がします。とはいえ、20年はちょっと長いという感覚です。もし、そういう研究結果があれば参考にしたいですね。今のところ、家電機器の買い替えの適切な時期を聞かれたら、10年くらいを目処に考えてみたらいかがですかとお答えしています。これは、LCAの研究をしている人とお話をしていて、そのようにお答えしても大丈夫ではないかと言われたことがあるからです。10年で機器の効率は相当よくなりますし、壊れ始める機器が増えてきますので。

得意なこと、好きなことが対策につながれば…

広兼

例えば、男性が得意な需要側対策、女性が得意な需要側対策、というのはありますか。

金森

これはとても難しいです。

広兼

例えば、ダイエットに関心がある人は多いです。一般的に女性のほうがより関心が高いように思われます。それならば、駅でやたらにエスカレーターに乗らずに「階段を使うとダイエットにいいよ」と呼びかければ効果的な節電になるのではないかと思います。これはダイエットしている男性にもいえますが、万人ウケはしないでしょうね。

金森

そうですね。たぶん「ウケない」と思います。第3期中期計画(2011〜2015年度)のときに社会センターで行った持続可能社会転換方策研究プログラムのなかで、4つのシナリオを作成しました。その一つ、健康を意識している社会においては、ボタンひとつ押すだけで何でもできるような家電ではなく、逆に身体を動かしながら家事をするような家電を使う生活に変えたらどうかというアイデアがありました。一般の人にご意見をお聞きしたところ、「冗談は止めて!」というような反応が多かったようでした。

広兼

非常に興味深い反応ですね。例えば、食器洗浄機ができ、自分で食器を洗う必要がなくなって、私たちはその分身体を使わなくなりました。ところが今度は、その時間を利用してフィットネスクラブで運動し、身体を動かそうとしたりするのです。最近の車には、走行中にメータの横にリッター何kmという燃費の表示が出ます。そうすると、多くの人が、できるだけ低燃費に運転しようとする工夫を無意識のうちに始めます。もちろん、安全に影響があってはいけませんが、こうした意識と行動の関係をうまく作り上げられればと思います。ダイエットも、ある意味、体重計との闘いです。好きなことに結びつけて何か工夫できないかなと思います。

金森

ある程度の年齢の女性は家計簿をつけている人が多いです。どれくらい電気を使っているのか、そして、節約によってどのくらい家計が変わるかということが、家計簿からわかるとがんばれるので、削減につながるかもしれません。最近は、家電好きな人がテレビとかで取り上げられますが、是非性能だけでなくエネルギー消費量についても発信して欲しいなと思いますね。

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太陽光発電と太陽熱温水器のメリットを活かした普及

広兼

家庭用の太陽光発電と太陽熱温水器がありますね。熱効率的には温水器が優れていると聞いたことがあります。このことと、どちらが普及する方がよいのかをお聞きしたいと思います。総合的に見るといろいろ難しいというのが専門家の今までの意見のようですが、結論は出ているのでしょうか。

金森

用途や生み出すエネルギーの種類が違います。熱でできることはたくさんあります。お湯を作れますし、暖房にも利用できます。その用途なら太陽熱温水器の方がたぶん安価だし、いいと思います。寒い地域では電気で暖房というのはかなり厳しいので、温水がうまく使えるかもしれません。一方、太陽光発電は人気で、どんどん開発が進んできました。太陽光で発電し電気から熱にすると、太陽熱温水器に比べて効率がよくないのですが、もともとのエネルギーが無尽蔵にあるので、家庭がオール電化になったりすればさらに普及するでしょう。

広兼

私は一軒家に住んでいるのでオール電化を含めていろいろなことを試せますが、マンションや団地で太陽熱温水器の設置は難しいでしょうし、太陽光発電も単位面積あたりの発電量はそれほど大きくはないですよね。

金森

太陽熱温水器も結構スマートなものが出てきていますが、現在は、太陽光発電の方が普及しているようです。電気を使う機器が家庭内でどんどん増えていますから。

家電機器の消費電力の違いを伝えたい

広兼

研究所の一般公開などのイベントでは、自転車で発電する企画を行っています。自転車発電では絶対に無理というか、人間のパワーで稼働させるのが難しいのはドライヤーや電子レンジなどの熱系の機器です。あれだけの熱量を人力で作り出すのは容易ではありません。

金森

たしかに、炊飯器や電子レンジなど、熱を使う家電機器はエネルギー効率が悪いです。しかし、そういうことはあまり意識されていないので、もっと一般の人に伝えていきたいです。

広兼

自転車発電をやってみると実感できるかもしれません。ときどき冗談で言うのですが、朝出かける前にドライヤーを使うのに自転車発電でまかなうとしたら、何人で自転車をこがなければならないかということをよく考えてほしいと。

金森

昔、電子レンジとドライヤーを同時に使ったりすると、よくブレーカーが落ちました。最近はそういうことは少ないと思いますから、どういう機器の熱や電気の消費が多いのか、よく知らない人が多いのかもしれません。こうしたことを、きちんと伝えて知ってもらうことはとても大切だと思いますので、イベントで市民の方と直接お話しできる機会があるときには、そういうことがわかるような資料を作るように意識しています。

幅広い分野をターゲットにした家庭部門の温暖化対策

広兼

次に『地球温暖化の事典』を執筆するとしたら、同じテーマで書きたいですか。自由に書いていいと言われたら、何か違うテーマやタイトルで書きたいと思われますか。

金森

もしチャンスをいただけるなら、私はずっと家庭での温暖化対策を研究しているので、その関連で書きたいと思います。

広兼

家庭での対策といっても、キッチン、乗用車、電気製品などいろいろあります。

金森

家庭はすべてターゲットにしています。ただし、車はエネルギー統計の分類上、マイカーでも運輸に分類されてしまいます。車以外で家庭に関係しているところは幅広くカバーしています。家庭部門からの二酸化炭素排出量は依然として増えています(2013年度は2005年度比16.7%増[1])。さらに研究を進める必要があると思います。

広兼

2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減するという日本の約束草案[2]で、部門別にみると家庭部門は約40%削減ですよね。

金森

この10〜20年間で家電機器の効率は劇的に向上しました。どの家庭にもある冷蔵庫の最新のモデルの消費電力は、10年前の機種の1/3程度です。20年後にはいろいろな機器の買い替えがすべて終わり、それが数字にきちんと現れると私は思っています。

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日本の家庭部門における温室効果ガス排出量と2030年度の削減目標。家庭部門では2013年度比で約40%の削減を見込まれている

*このインタビューは2016年4月11日に行われました。

次回は小熊宏之さん(環境計測研究センター 画像・スペクトル計測研究室 主任研究員)に向井人史さん(地球環境研究センター長)がインタビューします。

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