2016年7月号 [Vol.27 No.4] 通巻第307号 201607_307001

第4期中長期計画期間がスタートしました

  • 地球環境研究センター長 向井人史

1. はじめに

国立環境研究所は、2001年4月に独立行政法人としてスタートして、その後5年ごとの中期計画を3期終えました。2015年4月より「独立行政法人」から「国立研究開発法人」に変わり、研究所としての性格付けがなされたのを受け、この4月(2016年)には第4期の「中長期計画」(5年間)をスタートさせました。「中長期計画」とは、これまでの「中期計画」よりも長い(5〜7年)計画の策定が可能なもので、国立研究開発法人では「研究成果の最大化」を目標として、長期的な視点から計画を立てることとなっています。

2. 第3期中期計画の成果概要

第3期中期計画において地球環境研究センターでは、(1) 地球温暖化研究プログラム (2) 環境研究の基盤整備としてのモニタリング、データベース、研究支援事業 (3) 地球環境分野における基礎研究を行ってきました。

地球環境研究プログラムでは、観測的研究、リスク研究、政策評価研究の3つのプロジェクトを構成し、社会環境システム研究センターと連携して総合的に研究を推進してきました。その結果はまもなく特別報告書(SRシリーズ)としてとりまとめられることになっています。

この間大気中の二酸化炭素濃度は各地で400ppmを超えてきており、この濃度増加によって地球上での炭素循環が少しずつ変わってきていることや、人為起源の排出量増加による広域濃度分布の変化も認められるようになってきました。これらは、各種の二酸化炭素の観測が地球規模で展開されたことにより、その解析が進みつつあることが基になっています。

例えば、衛星による観測の展開もそれに大きく寄与しています。2009年に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測は、観測機械の設計寿命5年の経過後も継続して行われており、グローバルな二酸化炭素、メタンフラックス分布推定と合わさって様々な具体的成果をあげてきました。

一方、地球環境モニタリング事業としては、従来のアジア-太平洋地域での温室効果ガスモニタリングに加え、高山帯やサンゴを対象にした温暖化影響に関するモニタリングが開始されたことが重要なポイントなっています。継続的な研究でも、CONTRAILプロジェクト(航空機による大気観測プロジェクト)が複数の著名な顕彰を受けたり、太平洋の海洋モニタリングに関しても国際的に重要なモニタリングとしての賞をいただくなど、観測事業に対する社会からの評価も高まってきました。2016年5月に行われた伊勢志摩サミット及びG7環境大臣会合(富山市)、G7科学技術大臣会合(つくば市)では、いぶき、CONTRAILプロジェクトによる研究成果、そして新しく始めた高山帯モニタリングのこれまでの成果が世界に紹介されています。

また、今世紀末には温室効果ガスの実質的な排出量をゼロにする必要があるとの世界的な認識の下で、環境省環境研究総合推進費S-10「地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究」によるICA-RUSレポート(http://www.nies.go.jp/ica-rus/materials.html)などに代表されるように、気候変動リスクに関してもこれまでにはない広い分野の研究が展開されたことを新しい成果の例として挙げることができます。

3. 第4期中長期計画の内容と展望

国立研究開発法人という新たな組織形態の下で迎えた第4期中長期計画は5年間の計画となり、スタートしました。地球環境研究センターが大きな実施責任を負うプログラムとして、低炭素研究プログラム(低炭素研究プログラムの詳細については、江守正多「第4期中長期計画の『低炭素研究プログラム』始まる」を参照)がこれまでの地球温暖化研究プログラムに変わって立ち上がりました。これは基本的に3期の地球温暖化研究プログラムを発展させ、現象解明のみならず温暖化への緩和、適応やそれらの評価も含む、より未来志向の内容としたものです。組織的には、新たに、データベース推進室を地球環境データ統合解析推進室と改名して、集めたデータの統合解析を進める計画となっています。一方で、財政状況は厳しく、これまでより切り詰めた予算で研究を進めなければならない状況にあります。従って、さらに効率的な研究や事業の方法を検討し、様々な工夫をしながら研究を継続していく予定です。

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第4期中長期計画における地球環境研究センターの組織 [クリックで拡大]

第4期中長期計画の具体的な内容はウェブサイトに掲載されていますが、一部を簡単に引用すると以下のようになります。

「グローバル、アジアおよび国内における低炭素かつ気候変動に適応した社会の実現に向けて、気候変動予測モデル、影響評価モデル、対策評価モデルをより密接に結びつけた包括的なモデル研究体制を構築し、社会経済シナリオと気候変動リスクを描出するとともに、実現可能な適応・緩和策を提示する。また、気候変動影響を考慮しつつグローバルから地域までのマルチなスケールにおける炭素観測管理技術を開発し、地域的な緩和策の効果検証を含む、温室効果ガスのリアルタイムな評価システムを構築する。」

また、研究の基盤整備としての地球環境モニタリングやデータベース等の取り組みの重要性が下記のように記載されました。

「各種プラットフォームによる温室効果ガス等地球環境モニタリング…(中略)…環境に関わる各種データの取得及びデータベース化等を推進する。」

そして、基盤整備の中に「研究事業」というものを、新たなカテゴリーとして、次のように定義しました。

「国環研の研究と密接な関係を有し、組織的・継続的に実施することが必要・有効な業務であって、かつ国環研が国内外で中核的役割を担うべきものを「研究事業」と位置付け、主導的に実施する。」

これに対応する大規模な研究事業は下記のようなものです。

「具体的には、衛星による温室効果ガス等地球環境モニタリング、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)、レギュラトリーサイエンスに係る事業等を実施する。」

これによって、GOSATによる観測事業は、研究事業と位置付けられ、研究所として主導的に中核機能を発揮しつつ行うものとして、定義されています。

この他、地球環境研究センターがこれまで培ってきた様々な外部組織との連携、成果普及などの取り組みについて、「関連ステークホルダーとの連携」や「オープンサイエンスを推進するため、研究成果等を蓄積し、利用しやすい形で提供するシステムについての検討を行う。」という形で具体的に計画に位置づけられました。また、この地球環境研究センターニュースも含めた外部への情報発信の重要性も、次のように宣言されています。

「研究成果の発表会である公開シンポジウムや施設の一般公開においてインパクトのある研究成果を直接国民に発信する。また、視察者や見学者の希望を把握し、研究活動に支障がないよう留意しつつ、わかりやすい説明に努める。さらに研究所主催の各種イベントや講演会、研究者の講師派遣等の アウトリーチ活動を積極的に実施し、国民への環境研究等の成果の普及・還元を通じた社会貢献に努める。」

4. おわりに

この第4期中長期計画制定直前の2015年12月、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、国際社会で議論されてきた「2°C目標」が具体的な世界の目標(パリ協定)として位置づけられました。このパリ協定は今世紀末までに世界の温室効果ガスの排出を実質「ゼロ」にすることを目指しており、気候変動枠組条約が規定した理念を具体的に達成するための長期的かつ壮大な取り組みを課すものとなっています。

ここでの目標は、第4期(5年)の研究所の中長期計画のみで対応できるものではありません。むしろ我々のターゲットは少なくとも30年、50年後の世界にあり、それを頭に描きながら研究を進め、毎年蓄積した英知を長期に結集してゆくことが必要と考えています。また、皆様との対話などを通して、研究の方向に対しても検討を行いつつ、成果を皆様にわかりやすくお伝えしていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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