2016年8月号 [Vol.27 No.5] 通巻第308号 201608_308002

気象キャスターと科学者が語る地球温暖化 —トークセッション「2050年の天気予報」報告—

  • 社会対話・協働推進オフィス 科学コミュニケーター 岩崎茜

地球温暖化と未来の天気をテーマにしたトークセッションが5月29日(日)つくば市のつくばエキスポセンターで行われ、気象キャスターの井田寛子さんと国立環境研究所の江守正多・気候変動リスク評価研究室長がそろって登壇しました。

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写真1来場者に問いかける井田さん(右)と江守室長(左)

1. はじめに

「今年の京都の紅葉の見ごろはクリスマス頃になりそうです。」

34年後の天気予報の中で気象キャスターの井田さんが伝えています。CO2排出量がこのまま増加して地球が温暖化した場合に予測される未来の天気です。途中から江守室長が登場し、科学者の立場から温暖化について解説しています。

これは、2014年にNHKで制作された「2050年の天気予報」(https://www.youtube.com/watch?v=NCqVbJwmyuo)という映像で見られる一場面です。

この映像のライブ版とも言える、井田さん、江守室長を招いたトークセッション「2050年の天気予報 —気象キャスターと科学者が語る、34年後の天気—」が、5月につくばエキスポセンターで開かれました。通常は星空を鑑賞するプラネタリウムで行われたこのイベント。来場した約200人は、ドーム型天球に囲まれた特別な雰囲気の中で、二人のトークに聞き入りました。

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写真2プラネタリウムの客席から見下ろす形でセッションが行われた

冒頭で上映された約5分の映像の中では、温室効果ガスの排出が増加し温暖化が進むと、2050年には、秋の風物詩である京都の紅葉がクリスマスにずれ込んだり、最大風速70メートルという巨大な台風が日本列島に上陸したりするなど、“異常な” 天気が報じられるようになると示唆されています。続くトークでは、こうした未来の日本の姿から、温暖化問題の深刻さと今から対策を取ることの重要性を、参加者と一緒に考えました。

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写真3プラネタリウムの天球に映像を映し出して視聴した

クリスマスの紅葉や、入学式ではなく卒業式シーズンに咲いてしまう桜など、温暖化によって従来の日本の四季のイメージが崩れてしまうことは悲しいと話す井田さん。桜や紅葉は日本の文化や祭りとも結びついているので、見ごろが変化したり、四季がずれてしまったりすることで、観光面にも影響が出る心配があります。しかし、そうした望ましくない未来像や現状を人々に知ってもらうことが、温暖化について考えることにつながる。この映像はそのきっかけになるツールとして、世界気象機関のキャンペーンの一環で作られました。世界で14の国と地域が制作に参加し、日本版には井田さん、江守室長の二人が出演しています。

2. 気象キャスターとして伝える難しさ

セッションは、気象キャスターとして活躍する井田さんのお話から始まりました。筑波大学を卒業し、つくば市とも縁の深い井田さん。卒業後にTV番組のキャスターとなり、「伝える仕事」に従事する中で、災害報道に携わるための “武器” を身に着けたいと、気象予報士にチャレンジ。5回目で見事に資格を手にし、現在は気象キャスターとして朝の情報番組に出演しています。

出演番組では地球温暖化や自然災害について「伝える」難しさと日々格闘しているといいます。難しさの一つに、異常気象が増えていることで、かえってその深刻さが伝わりづらくなっていることがあるとか。「数十年に一度」や「記録的」などの言葉が付く現象が増えると、世間がそれらの言葉に慣れてしまい、キャスターの発言が “オオカミ少年” のように聞こえてしまう。こうして視聴者に危機意識の薄れが起こることのないよう、伝える言葉の使い方には苦労しているそうです。

そもそも、最近の異常気象は地球温暖化と関係があるのか。そうした疑問の声に直面することもしばしば。これについて江守室長は、「異常気象とは、ある場所で30年に一度くらいの頻度で起こるようなまれな気象のことを指し、基本的には何も原因がなくても起こるもの。そこに温暖化が加わることで、異常気象の頻度や確率、強度が増す傾向にある」と説明。つまり、異常気象のすべてが地球温暖化によって引き起こされるわけではないけれど、温暖化により異常気象のリスクは高まると考えられるのです。

3. 温暖化防止の世界のうねりを実感

トークは地球温暖化の話へと移ります。

昨年、アジアの気象キャスターが集まって気候変動について考えるワークショップが東京で開かれ、井田さんも議論に参加しました。サモアやクック諸島など南太平洋の島嶼国のキャスターから聞かれたのは、海面上昇で住むところが失われつつあったり、熱波やハリケーンなど自然災害に脆弱で命の危機すらあるような、温暖化によって切迫した状況に置かれた国々の訴えでした。それを聞いた井田さんは、CO2をたくさん排出している国の一つである日本が立ち上がり、取り組まなければならない問題だと強く感じたそうです。

また、一昨年ニューヨークで開かれた気候サミットに、各国から招待された気象キャスターの一人として参加した話も紹介されました。井田さんが現地で見たのは、地球温暖化を防止しようと、30万もの人々がデモ行進をする「ピープルズ・クライメート・マーチ(People’s Climate March)」の光景でした。米国元副大統領のアル・ゴアや俳優のレオナルド・ディカプリオといった著名人も参加し、気候に関する史上最大規模と言われているこのデモ行進。ニューヨークの市街地にこれだけ多くの人々が集まるのは異例のことで、世界的に温暖化が深刻に受け止められていた証拠とも言えます。

江守室長が指摘したのは、多くの人が「クライメート・ジャスティス(Climate Justice)」と書かれたプラカードを持ってデモ行進していたことでした。日本語では「気候正義」と訳され、気候問題にかかわる公平性を考えることを意味します。これまで温室効果ガスを排出して温暖化の原因を作ったのは先進国や新興国であり、一方ですでに深刻な影響を受けているのは、ほとんど排出していない途上国の人々です。別の国の人たちの行ったことが原因で、生きるか死ぬかという目に合っている人がいる。これは国際的な人権問題と言えます。そのような不正義な状況を正すという意味で温暖化を止めなくてはいけない。これが「クライメート・ジャスティス」という考え方です。

ニューヨークでの取材や各国の気象キャスターとの交流を通じて、井田さんは、エネルギーをあまり使わない暮らしをしている人たちが被害にあう理不尽な状況を痛感したといいます。地球温暖化は先進国が立ち上がらないと解決しない問題であること、そして、先進国に住む私たちが果たすべき正義について、日本でも多くの人に伝えていきたいと話していました。

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写真4気象キャスターが温暖化を伝える意義について話す井田さん

4. 私たちが目指す未来

では、私たちは温暖化対策に向けて何をしたらよいのでしょうか。

江守室長からは、昨年12月のCOP21で採択されたパリ協定と、「2°C目標」について話題提供がありました。パリ協定では、世界の平均気温を、産業革命前に比べて2°C未満に抑えよう、できれば1.5°C未満に抑えるように努力しよう、という数値目標が決められました。

2°C未満に抑えるということは、最終的には人為的に「CO2を出さない世界」に向けて歩んでいくことを意味します。CO2は、エネルギーを作る時に化石燃料を燃やすことでたくさん排出されるので、排出量ゼロの世界を目指すためには、化石燃料に頼らず太陽光や風力など自然エネルギーで賄う世界を実現する必要があります。

温暖化防止のために私たちにできることとなると、「省エネをしましょう」で話が終わってしまいがちです。しかし、排出量ゼロを目指すためには、技術だけではなく、社会のルールや常識までをも脱炭素の方向に大きく変える必要があると江守室長は言います。パリ協定が合意されたことは、人類がそうした歴史の大転換を目標にし始めたということなのです。

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写真5パリ協定の2°C目標の意味について説明する江守室長

温暖化対策のために私たちが何をしたらいいのか、井田さん、江守室長から来場者へのメッセージという形で、トークは締めくくられました。

井田さん

温暖化というと、急に遠い話になり、自分と関係ないと思ってしまう人も多いですが、お天気と同じく温暖化は大事なことであり、興味を持って調べたり聞いてみたりする、そして周りと話してみることで、これからの解決策が出てくると思います。ぜひ、今日の話を周りの皆さんにも話してみてほしいです。

江守室長

温暖化対策というと「こまめに電気を消しましょう」、「冷蔵庫に詰めすぎないようにしよう」で終わってしまいがち。しかし、世界中でCO2を実質的にまったく出さないようにしないといけない、というのが最終ゴールです。

私たち一人ひとりにできることは、身近なことはもちろん大切ですが、それだけではありません。たとえば、これから大人になる子供たちは、将来、温暖化を止める素晴らしい技術や社会の仕組みをつくるかもしれません。ぜひそうなってほしいと思います。

5. 質疑応答

トークの後、会場との質疑応答が行われました。その内容は次の通りでした。

質問1

異常気象といわれる大雨や強風が多くなってきていますが、住宅で今からやっておく備えなどはありますか。物が飛んでくるのが怖いので、私の家では2階の部屋にもシャッターを付けました。

井田さん

どんな災害かによって対応の仕方が変わってきます。竜巻に関して言えば、窓にシャッターをつける、窓から離れた場所にいるようにする、などが考えられます。竜巻は2階が被害にあいやすいので、1階の中央にいるようにするなどです。自分の住まいにどんな災害が発生する可能性があるのかを、ハザードマップなどを見て、準備しておいてほしいです。

質問2

スーパーコンピュータを使って気象予測がされているのなら、伝えるのはお天気キャスターではなく、一般のキャスターでもいいのではないでしょうか。お天気キャスターとして今後どうあるべきだと考えていますか。

井田さん

気象予報は天気図や数字などのデータから判断をしますが、データをどう読み解くかは、人の役目です。今日はこんなに晴れないのではないか、こんなに雨は降らないのではないか、という最終的な判断は私たちがしています。その辺の微妙なところは、嗅覚のようなもので、人の感覚の方が、コンピュータよりも優れています。最終的には人間の感覚というのが災害を守っていくことにつながると思います。

災害から身を守るというのは、視聴者との信頼関係があって初めてできることでもあります。伝え方の工夫により視聴者との間に信頼関係ができて、いざというときには行動してもらえるようにする。それが私たち気象キャスターの使命です。

質問3

太陽の活動が変化すると惑星間空間の磁場の量が変化する。磁場が減ると宇宙線の飛来量が増え、地球上の雲の量がそれに応じて変化する、と聞いたことがあります。気象の観点では雲が増える、増えないというのは、温暖化につながるのか、それとも寒冷化につながるのでしょうか。

江守室長

まず宇宙線の話を抜いて考えると、温暖化すると場所によっては雲が増えるところもありますし、減るところもあります。どういう高さや厚さの雲が増えるのか、減るのかによって、温暖化を増幅させるのか抑制するのか、効果が異なります。なぜかというと雲は日射を遮ると同時に赤外線をため込むからです。雲の変化というのは非常に注目されて研究が進んでいますが、温暖化の予測で、まだ一番難しいところです。

太陽活動の変化によって磁場が変化して、宇宙線の入ってくる量も変わり、それがさらに雲も変化させる、という議論はずっとありました。よく分からない部分は結構あると思いますが、僕自身の現時点での理解では、そのことを考慮したとしても、予想されている太陽活動の弱まりよりは、温室効果ガスの効果の方が強いと思います。さらに研究していかなくてはいけませんが、おそらく、宇宙線の効果を入れると寒冷化する、という話にはならないでしょう。

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写真6会場からの質問に笑顔で答える二人

6. 番外編:地球は温暖化しているの?

トークの中で、そもそも地球は温暖化しているのか、という疑問に江守室長が答える場面もありました。

地球温暖化を疑っている人々の根拠の一つに、次の氷期が来ることで地球はむしろ寒冷化に向かうという考え方があります。江守室長によれば、地球は氷期と間氷期を10万年ほどの周期で繰り返し経験しており、現在は間氷期に当たるので、次の氷期が来てもおかしくはありません。しかし、天文学的な計算に基づく最新の科学的な予測では、あと1万年は氷期が来ないと考えられています。

あるいは、もう一つの根拠に、太陽活動が弱まっているということがあります。300年ほど前にも一度、太陽のエネルギーが弱くなったことがありました。しかし、いま300年前と同じことが起こっても、人間が増やしている温室効果ガスの効果の方が上回り、一部は打ち消されたとしても、地球は温暖化すると考えられます。

つまり、地球がこれまでの歴史で経験してきた太陽活動や軌道の影響を超えるほど人間活動の影響が大きくなっている、というのが、私たちが生きている今の時代に言えることなのです。

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