2016年8月号 [Vol.27 No.5] 通巻第308号 201608_308003

徹底討論—パリ協定でどうなる? どうする? 地球温暖化—開催報告 第1部:「パリ協定」で地球温暖化対策はどうなる?

  • 地球環境研究センター 交流推進係 広兼克憲

2016年4月23日(土)、国立環境研究所一般公開「春の環境講座」の企画として、パネルディスカッション(午前)と高校生も含めた会場とのディスカッション(午後)を開催しました。パネルディスカッションは今回で6回目を迎え、一般公開の定番イベントとなりました。2015年12月にCOP21で「パリ協定」が合意されたことから、テーマを「パリ協定後の地球温暖化問題についての徹底討論」と設定しました。さらに、若い世代ともっと話ができるように工夫し、今回初めてつくば市内の茗渓学園から高校生3名をパネリストとしてお招きしました。

午前中は「パリ協定」がどのようなものかをわかりやすく解説した上で、研究者の説明と高校生の疑問点に応えるパネルディスカッション方式とし、午後からは高校生パネリストを含めた会場のみなさまと一緒に、今後、地球温暖化の対策を「どうする」のかを考えるセッションとしました。

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1. 地球温暖化問題の基本的情報を会場内で共有する

地球温暖化について新聞やテレビなどからある程度の情報を得ている方は多いと思いますが、この問題についてじっくり考えたり、他人と議論したりする機会は少ないでしょう。

そこで、短い時間で地球温暖化をめぐる状況と今回のテーマであるパリ協定について理解いただくため、2つのプレゼンテーションを準備しました。パネルディスカッションを行う上でも最低限の基礎的情報は共有しておく必要があります。

最初は、モデレータを務めた江守正多さんと人気気象キャスターの井田寛子さんが出演し、NHKが制作した『科学者が予測する「2050年の天気予報」』(写真1)という約5分間の映像です。

2つ目はパリ協定の交渉過程を研究対象とし、COP21にも参加してきた久保田泉さんによるパリ協定の解説(約15分間のプレゼンテーション)です(写真2)。

これらにより来場者はディスカッションに備えて必要な知識を復習しました。

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写真1世界気象機関(WMO)の呼びかけで製作された、『科学者が予測する「2050年の天気予報」』のワンシーン 世界気象機関(WMO):2050年の天気予報(NHK)(https://www.youtube.com/watch?v=NCqVbJwmyuo)より

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写真2久保田さんがオリジナル資料でパリ協定のポイントを解説

『科学者が予測する「2050年の天気予報」』をご覧いただき、会場の方々には、これから地球温暖化の対策をまったくとらないと、産業革命前と比較して今世紀末に平均で4°Cを超える地表温度の上昇がおこり、地球温暖化に伴う様々な悪影響に襲われる可能性が高いことを理解していただきました。そして、長期的に国際社会がどの水準を目指して温暖化対策をとっていくか、すなわち、産業革命以来の地表の温度上昇を平均で2°C以内に抑えるという目標が、パリ協定という法的拘束力のあるかたちで合意されたこと、ただし、パリ協定では、それをどのように達成するかについては、大枠について合意できたのみで、具体的な道筋は今後の交渉に委ねられていることなどについて、久保田さんのプレゼンテーションにより理解いただきました。

2. 地球温暖化研究の先輩に聞く

久保田さんの解説が終了したのち、30年以上にわたり地球温暖化研究の最先端を走り続けてきたパネリストの西岡秀三さんから以下のようなコメントがありました。

「温室効果ガスを出せば出すほど温度は上がってゆきます。だからいま毎年世界で約400億トンもある人為的な温室効果ガスの排出を、ほぼゼロにしなければ温暖化を止めることはできないのです。今のようなエネルギーの使い方をしていたのではとてもゼロには減らせません。私たちのすまい方、社会の仕組みを大きく変えなくてはなりません。ところが、地球温暖化をめぐる国際交渉を長い間見てきて、おかしなことだなと思うのは、日本を含めた各国が、自分の国の得になるように交渉するばかりで、地球温暖化にどう対応すれば影響が最小限で済むのかなど、本当に必要なことを十分に議論してこなかった点です。最近になって、中国では自国の環境問題が深刻になってきたこと、米国ではシェールガスなどが発見されたことから、やっと温暖化対策に協力していこうかという機運がうまれてパリ協定合意に至りましたが、私自身は遅きに失したと感じています。」

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写真3研究者として長く地球温暖化研究にかかわってきた西岡さん

3. 研究者はどのような状態になるのが目標と思うのか?

続いて、今回初めての参加となった3名の高校生パネリストから久保田さんの説明について質問をいただきました。具体的には以下のとおりです。

「(2°C目標の達成のために)社会変革が必要とあったが、具体的にはどのようなことをいうのでしょうか(髙木薫さん)」

「(世界各国に求められている)“共通だが差異ある責任の再解釈” という言葉がよくわからなかった(柳由人さん)」

「2020年以降のことはどのように決めていくのでしょうか(大谷龍平さん)」

このような質問は会場でも多くの人が聞きたいところだと想像します。高校生の率直な発言を聞いて、彼らにパネリストをお願いしたことの効果が早速現れたように思いました。

さらに、「2°C目標を守ろうとするのであれば、今後排出できる温室効果ガスはあと1兆トン、と言われてもどのような量かわからない(髙木さん)」という質問がありました。そこで、江守さんが「産業革命以来、これまで人間が出してきた量が2兆トンです」、西岡さんが「このままでいくとあと30年で1兆トン排出してしまうことになる。大事なことは、これから出せる量は1兆トンしかないということ」と補足しました。社会変革とは何かという高校生の問いは、この後の議論のなかで取り上げられました。

ここで、高校生パネリストが研究者に問いかけた質問が「研究者はどのような状態を目標と考えているのか」です。つまり、地球温暖化を解決した理想の未来の社会について聞きたかったのです。西岡さんは、「公式的には、持続可能な社会、つまり後に生まれてくる人が困らないような社会をつくるということ、これを達成するやり方はいろいろあり、どの方法が理想的ということはない」とコメントしました。久保田さんは「次の世代が使うべき資源を横取りするような社会であってはならない。また個人の気合や根性に頼らない社会システムを実現することが重要」と述べました。

また、温暖化を止めるために便利な生活を我慢せざるを得ないのかという問いに対して、西岡さんは、「ものをシェアする社会(例えば車を一人1台持つ必要はない)」など、単に我慢するだけではなく、より柔軟に環境問題を考えていくアイデアを提案しました。

4. 会場とのコミュニケーション

江守さんが会場に「地球温暖化を防ぐために何か具体的なことをやっている人は○を挙げてください」と質問をしました。○を挙げた参加者から実際に取り組んでいることをいくつかお聞きして、会場全体で情報の共有を図りました。もう少し時間が取れればよかったのですが、それでもいくつか考えの共有ができてよかったと思いました。

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写真4表裏に○×がついた札でコミュニケーション(写真では札の裏側が見えています)

5. 何をすべきか?(パネリストからのメッセージ)

最後に、地球温暖化防止に向けてできることをテーマに、パネリストに会場の皆さんへのメッセージを書いていただきました。

大谷さん「団結」、一人ではできないこともみんなで団結すればできると思います。

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柳さん「まず知ること」、パリ協定について知らなければ温暖化についてもきちんと対応できません。

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高木さん「自分の意見を持つ」、知ったうえで自分なりに意見を持とうと思いました。

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(動物代表のパネリスト)ペンギンさん「納得できるまで勉強します。いいことはシェア。」

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久保田さん「持続可能な社会システムを作り上げる」、私は研究所唯一の法学専門の研究者として、よりよい社会づくりに貢献します。

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西岡さん「挑戦」、自分はまだ76歳、年寄りとしてまだできることがある。温暖化の話は面白い、知るということは知識を得ること、知行合一、行動するために知識を得るのです。

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江守さん「選ぶ」、環境省がクールチョイスというのを挙げている。この春から、消費者が電気も選べるようになった。できることはたくさんあり、それは、決して我慢とか辛抱ではないと思います。

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