2017年1月号 [Vol.27 No.10] 通巻第313号 201701_313005

機能を強化した地球観測連携拠点(温暖化分野)の活動 —気候変動適応情報プラットフォームの開設—

  • 水沼登志恵さん
    気候変動戦略連携オフィス 地球温暖化観測推進事務局 高度技能専門員
  • 廣安正敬さん
    気候変動戦略連携オフィス 地球温暖化観測推進事務局 高度技能専門員
  • 地球環境研究センターニュース編集局

2016年度からの連携拠点の活動:地球観測の新たなミッションに対応

深刻さを増す地球環境問題に適切に対処するため、地球の現状や将来予測に対する理解の基礎となる観測データを得ることは重要です。全地球観測のための国際的な協力を強化することを目的に、地球観測に関する政府間会合で、全地球観測システム(GEOSS)の枠組み構築のための「10年実施計画」が、2004年に合意されました。同年、日本では、内閣府の総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」をまとめました。これを受けて、文部科学省の科学技術学術審議会研究計画・評価分科会のもとに地球観測推進部会が設置され、府省・機関が連携する取り組みが有識者によって検討されました。そして、地球環境問題のなかでも重要な課題である地球温暖化分野については、環境省と気象庁との共同で、地球温暖化観測推進のための「地球観測連携拠点(温暖化分野)」(以下、連携拠点)が2006年に設立され、運営を行う地球温暖化観測推進事務局が国立環境研究所地球環境研究センターに設置されました。

「GEOSS10年実施計画」や「地球観測の推進戦略」からすでに10年以上が経過していることから、文部科学省の地球観測推進会議が政策を見直し、2015年に「今後10年の我が国の地球観測の実施方針」をとりまとめました。この実施方針の特徴は、地球観測がいかに国民生活に利益をもたらすかの視点に立ち、国民の課題を解決することに貢献しなければいけないというミッションを与えられたことです。そこで、今後10年は8つの課題にフォーカスして活動していくことになりました。そのなかで、連携拠点は、共通的・基盤的な取り組みとして、観測データをアーカイブし統合化して、データの利活用を促進することを担当することになりました。

  • 課題1:気候変動に伴う悪影響の探知・原因の特定
  • 課題2:地球環境の保全と利活用の両立
  • 課題3:災害への備えと対応
  • 課題4:食料及び農林水産物の安定的確保
  • 課題5:総合的な水資源管理の実現
  • 課題6:エネルギーや鉱物資源の安定的な確保
  • 課題7:健康に暮らせる社会の実現
  • 課題8:科学の発展

2016年度からの連携拠点の活動:気候リスク情報の共有

2015年、もう一つ別の動きがありました。「気候変動の影響への適応計画」が11月に閣議決定されました。この適応計画の基本的考え方に、目指すべき社会の姿があります。気候変動の影響への適応を整備することで、生活などへの影響を最小限にして、迅速に回復でき、安心して暮らせる社会をつくっていくというものです。その基本戦略には、政府の施策として適応を組み込んでいくこと、科学的知見を充実すること、実際にどのような影響が起きるのかという気候リスク情報を共有し、情報提供を通じ、理解と協力を促進していくことが挙げられています。このうち、連携拠点では、気候リスク情報を共有する作業を担っています。そこで、関係府省庁と連携し、利用者ニーズに応じた情報の提供、適応の行動を支援するツールの開発・提供、優良事例の収集・整理・提供などを行うことにより、地方公共団体や事業者、国民など各主体の活動基盤となる気候変動適応情報プラットフォーム(Climate Change Adaptation PLATform: A-PLAT、http://www.adaptation-platform.nies.go.jp)の管理・運営を行い、適応の推進に役立ててもらう活動を進めています。「気候変動の影響への適応計画」には、7つの分野(① 農業、森林・林業、水産業、② 水環境・水資源、③ 自然生態系、④ 自然災害・沿岸域、⑤ 健康、⑥ 産業・経済活動、⑦ 国民生活・都市生活)別に、それぞれどのような影響が予測されるか、あるいは、影響が既に現れているか、そしてどのような適応策があるのかということがまとめられています。

パリ協定採択後の環境省の施策に、「パリ協定から始めるアクション50〜80—地球の未来のための11の取り組み」があります。これは2050年までに温室効果ガス80%削減を目指した具体的なアクションプランです。主なものは温室効果ガスを削減する緩和策ですが、気候変動の影響への適応計画を着実に実施していくこともアクションの一つにあげられています。

以上のような背景のもと、2016年度から連携拠点の機能強化を行うことになり、その中心として、A-PLATを開設し、管理・運営することになりました。連携拠点は、2016年度から始まった、国立環境研究所第4期中長期計画で設立された研究事業連携部門の気候変動戦略連携オフィスのなかに入りました。戦略連携オフィスは、社会環境システム研究センターと地球環境研究センターとが共同で運営してくことになっています。

気候変動適応情報プラットフォームとは? 今後の展開は?

A-PLATは、気候変動への対策策定のために、必要な科学的知見(観測データ、気候シナリオ、定量的な影響評価結果等)の情報やデータを収集・整備して、自治体が容易に利用可能な形で配信することを目的とし、そのための情報プラットフォームとして構築されました。8月29日にオープンし、翌30日には開設記念シンポジウムが行われました。A-PLATの特設ページ(http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/news/symposium.html)から、開設記念シンポジウムの動画や講演資料をご覧いただけますので是非アクセスしてみてください。

A-PLATのロゴは「気候変動の影響への適応計画」7分野における気候変動の影響に適応することによってもたらされる希望ある未来の社会などをイメージしています。また、日本国内だけではなく、アジアの地域にも情報発信していくことを目指していますので、国際的にリーダーシップをとっていけるようなものに決まりました。

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A-PLATの主なコンテンツとしては、気候変動の影響への適応とは?、適応計画、分野別影響&適応、全国・都道府県情報、気候変動の影響に適応しよう!、地方公共団体会員ページ、があります。

「気候変動の影響への適応とは?」には、気候変動による影響と適応策について、基本的な知識がわかりやすく解説されています。また、日本における適応への取り組み事例を紹介しています。これにつきましては、今後も増やしていきたいと考えています。

「適応計画」は、2015年11月に閣議決定された国の「気候変動の影響への適応計画」と各都道府県で作成された適応計画を紹介しており、日々情報更新しています。

「分野別影響&適応」は、「気候変動の影響への適応計画」の分野ごとに、現在確認されている気候変動による影響や将来予測される影響と、それに対する基本的な施策を紹介しています。専門家判断による影響評価結果については、中央環境審議会がとりまとめた「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について」の内容をもとに、凡例を色分けするなどして、わかりやすく解説しています。

「全国・都道府県情報」はもっとも重要なコンテンツです。気象庁による過去の観測値と環境省環境研究総合推進費S-8「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」による研究成果(詳細はhttp://www.nies.go.jp/s8_project/symposium/20141110_s8br.pdfを参照)に基づき、全国および47都道府県別に、『気候』(過去の観測値と将来予測される年平均気温・降水量)、『影響』(「気候変動の影響への適応計画」7分野のうち現在5分野)、『適応』に関する情報が整理されています。

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『影響』に関する情報をいくつか紹介します。農業の分野では、コメの収量について、“収量”を重視した将来予測と“品質”を重視した将来予測の2種類をグラフで提示しています。また、ウンシュウミカンの栽培適地面積やタンカンの作付け適地面積の将来予測を掲載しています。自然生態系の分野では、アカガシやシラビソ、ハイマツ、ブナの潜在生育面積の将来変化を予測しています。自然災害の分野に関しては、斜面崩壊現象の発生確率の将来予測をグラフで紹介しています。健康の分野については、熱中症搬送者数(基準期間における熱中症患者数を1とした場合の相対値)、熱ストレス超過死亡者数(基準期間における熱ストレスによる超過死亡者数を1とした場合の相対値)、ヒトスジシマカ生息域(ヒトスジシマカの生息域の将来予測)の情報を掲載しています。水環境・水資源の分野では、クロロフィルa濃度の年最高値の将来予測(基準期間を1とした場合の相対値)と年平均値(基準期間を1とした場合の相対値)の将来予測を示しています。

『適応』に関する情報は、各都道府県の適応窓口一つひとつに掲載許可を取り、まとめたものです。こうした情報はこれまで整備されてはいなかったので、画期的なものだと思います。

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「気候変動の影響に適応しよう!」は、地方公共団体、事業者、個人の方々向けの適応策のページです。地方公共団体の方に向けて、地方公共団体における気候変動適応計画策定ガイドラインや適応計画の作成の流れを解説しています。個人向けのページでは、影響に適応していくために個人でできること(熱中症予防、防災対策など)のウェブサイトや動画を紹介しています。事業者向けのものは12月2日に公開しました。

「地方公共団体会員ページ」は地方公共団体で適応策を担当する職員の方を対象とした会員制のページです。現在用意されているものは、適応計画策定ツール、モデル自治体に対する影響評価・適応計画策定支援事業の報告書、情報交換の広場があります。今後もいろいろと拡充していく予定です。

11月10日に英語版サイトも開設しました。モロッコで開催された気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)の閣僚級セッションでの環境大臣の発表に間に合うよう、急遽オープンすることになりました。

A-PLATは今後も一層の拡充を図り、役立つ情報や使いやすさの向上などを目指していきます。

*第101回低炭素研究プログラム・地球環境研究センター合同セミナー(2016年11月10日)より

後記:COP22の閣僚級セッションで、山本環境相は、気候変動対策に取り組む途上国を支援するため、アジア太平洋地域の気候変動リスク情報のインフラ整備や適応能力の拡充支援をはじめ、地に足のついた協力を途上国のニーズを踏まえて実施していくことを表明した。これにより、「気候変動適応情報プラットフォーム」を、気候変動影響の情報に関する国際的なハブ機能を有する「アジア太平洋適応情報プラットフォーム」として、2020年を目途に発展させることとなった。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

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