2017年8月号 [Vol.28 No.5] 通巻第320号 201708_320006

地球温暖化の適応策と、一人一人ができること —パネルディスカッション「ココが知りたい地球温暖化の適応策」を通じて—

  • 東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 永瀬めい

1. はじめに

2017年4月22日、国立環境研究所の科学技術週間に伴う一般公開「春の環境講座」が開催され、その一企画として「ココが知りたい 地球温暖化の適応策」と題するパネルディスカッションが行われました。地球温暖化の適応策という、一般の方には少し耳馴染みのないかもしれない言葉について、当日はモデレータである江守正多室長のもと、環境省の担当者や新聞記者などがパネリストとしてお話をされ、活発に議論が交わされました。私は学生パネリストとしてこのパネルディスカッションに参加させていただきましたが、その様子、またお話を通じて感じたことについて、書かせていただきます。

2. 地球温暖化の「緩和策」と「適応策」

はじめに、江守室長より地球温暖化の「緩和策」および「適応策」について説明がありました。緩和策とは温室効果ガスの排出量減少や、捕集・固定といった減量に取り組むことで、「地球温暖化が進む速さを和らげよう」とする考え方のことです。これに対して適応策とは、「温暖化が進んでいく地球に合わせて、生き方を工夫しよう」という考え方であり、温暖化の影響に対応できるように自然や社会のあり方を変えていこうとするものです。今回は後者の適応策をメインテーマとしてディスカッションが進んでいきました。

次いで、様々なセクターから参加したパネリストがそれぞれに話題提供を行いました。

環境省の竹本明生様からは、適応策への政府の取り組みについてお話がありました。農林水産業や水資源をはじめ、健康や産業・経済活動に至るまで様々な分野に対し、気候変動がどれほど重大な影響を与えると予測されているかご説明され、水稲栽培や河川・沿岸部での水害、また暑熱による健康被害などで重大性、緊急性が強く認識されていることが分かりました。特に沿岸部での高潮・高波のリスクに関する評価など、日本であっても非常に生活に近いところで異常気象の増加に伴う不安は増大しつつあると伺いました。しかし、問題が重大化していく一方で、世論調査の結果でも回答者の半数以上が適応策という言葉そのものを知らない、と回答しているなど、適応策の一般的な認知度は低いのが現状です。

そこで、ものごとの認知度を上げるお仕事の代表として、毎日新聞の大場あい様より、新聞における適応策の取り上げられ方についてお話がありました。メディアにおいては、適応策よりも温室効果ガス排出量の削減など、緩和策よりの記事が掲載されることが一般的である、とのことです。ここには、読者にとって緩和策が一般的であるために、読者の関心とマッチしている緩和策の話が取り上げられやすく、そのために読者が適応策を知る機会がなく緩和策のみに関心が向く、というある種の「悪循環」になってしまっているのかもしれません。加えて、緩和策と比較して適応策が日本においては法制度に組み込まれておらず、あくまで閣議決定されたのみであるというインパクトの違いも、記事のしやすさに影響を与えているのではないか、とお話がありました。

国立環境研究所の肱岡靖明室長からは、一般に広く適応策を伝えていく別の手段として、「A-PLAT」(図1)というツールをメインに、お話がありました。A-PLATとは、国立環境研究所が環境省支援の下構築した気候変動適応情報プラットフォームのポータルサイトの名称です。このサイトでは、適応策についてわかりやすく解説されているほか、国や都道府県単位での適応策に関するデータや個人レベルから取り組める適応策についても掲載されています。参加者の方からも素晴らしいツールである、と意見が飛び出していました。

figure

図1気候変動適応情報プラットフォームポータルサイト(http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/

SOMPOリスケアマネジメント株式会社の福渡潔様は、リスクマネジメントを行う企業の立場から地球温暖化と適応策のお話をしてくださいました。地球温暖化により異常気象、またそれに伴う自然災害が増加傾向にあり、保険会社としての天候インデックス保険制度の必要性について、教えていただきました。これは大きな台風や干ばつなど、極端な気象現象が起こった場合に打撃を受ける産業を対象とした保険であり、すでにミャンマーやタイの農家を対象として開発・販売が進められています。

私からは、学生の適応策、ひいては地球温暖化に対する興味についてお話をさせていただきました。現在、学生を運営の主体とする環境活動団体は関東だけでも150を超え、学生の環境活動は活発であると言えます(図2)。一方でその活動内容は、地域にもよりますが特に首都圏の大学においては、地域清掃活動、学園祭におけるゴミ分別指導、また地域での環境教育授業や里山保全活動など、地域環境活動に集約して行っているように見受けられます。これに対して、地球温暖化を始めとする地球環境活動に対しても、数こそ少ないながらも熱心に取り組む学生がいます。活動としては取り組みづらく、しかし大人数で取り組まなければ変えていくことも難しい地球温暖化という問題に対して、彼らが2020年のオリンピックをチャンスと捉え、多くの人を巻き込もうとしていることをお話させていただきました。

figure

図2学生を運営の主体とする関東地方の環境活動団体の活動例

photo

写真1パネルディスカッションの最後に私が感じたことをメッセージとしてお伝えしました

3. 終わりに パネルディスカッションを通して、学生として思うこと

参加者の方と活発な意見交換を図るためのツールとして用意されたYesとNoが書かれた札を、質問の際に参加者の頭上に掲げていただくというやりとりがありました。試しに使ってみましょう、と江守室長が「本日、茨城県内からいらした方はYesを、それ以外の方はNoをあげてください」と会場に呼びかけられたところ、以外にもYesの方は半数程度にとどまっていました。多くの方は関東圏から国立環境研究所までいらしていましたが(それでも栃木県や神奈川県など、様々な都県から参加されていました)、中には三重県など遠方から参加されている方もいて、地球温暖化問題への関心の高さを改めて感じました。イベント後実施のアンケート結果も拝見しましたが、「今から私たちができることは何ですか?」「適応策をもっと教えてください」など、地球温暖化への危機感、そして何とかして問題を解決したいという思いを強く感じます。実際に個人でできる地球温暖化適応策を探しても、多くの場で挙げられるのは、熱中症対策、自然災害への備えなど、本当にこの巨大な問題の一助になれるのだろうかというような一見「小さなこと」が多く、もどかしい思いが積もっていくように感じます。

photo

写真2モデレータの江守室長の質問にYes・Noの札で答える参加者

国立環境研究所は日本における地球温暖化研究の最前線であり、サイエンスコミュニケーションの一環として今回のような一般公開イベントの他、シンポジウムなどを多数開催しています。それにも関わらず、研究内容が一般の人によく伝わっているとは言えない状況も見受けられます。イベントでも、「A-PLATを知っていましたか」というパネリスト側からの問いにYesの札で返してくれた参加者の方は多くありませんでした。

だからこそ、こういった一般公開の機会は非常に重要であると感じます。広く知られていくべき研究結果も、使われていくべきツールも、一般市民の手に届かなければその効果を十分に発揮することができません。研究者と市民とが意見交換を行う今回のような機会で研究成果が多くの人に知られ、意見交換会に参加された市民の方がさらに周りの人々にその内容を広めていってくれることによって、初めて地球温暖化適応策は現実のものとなっていくのではないでしょうか。ここにこそ「Think globally, act locally」の本質があるのではないかと感じます。

学生への適応策の認知度も高くはありません。地球温暖化に対して自分の意見を持っている人も、決して多いとは言えないでしょう。これからの地球環境を担っていく世代として、その動向に敏感になりながら、環境問題を「自分ごと」として意識し、行動していきたいと改めて感じました。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP