2017年9月号 [Vol.28 No.6] 通巻第321号 201709_321004

最近の研究成果 陸域生物圏モデルの開発と温暖化研究:最近の動向

  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 主任研究員 伊藤昭彦
  • 生物・生態系環境研究センター 特別研究員 小出大
  • 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室 特別研究員 中河嘉明

温暖化研究において、陸域生物圏のモデルは地表での温室効果ガス収支を推定し、気候システムへのフィードバック効果[注]を評価する重要な役割を担っている。例えば、気候モデルの中には地表でのエネルギーや水の収支を扱うために陸域のモデルが組み込まれており、最近では土地利用変化・農業などの人間活動影響や生態系サービスを評価する研究にも用いられている。大気と陸域生物圏の間の相互作用は非常に複雑であるが(図参照)、世界中の研究機関で陸域生物圏の活動をシミュレートするモデルが多数開発されている。

本総説(天気2017年6月号に掲載)では、陸域生物圏モデルの開発と応用に関する最近の動向をまとめた。陸域生物圏の現場や人工衛星からの観測により、陸域プロセスのメカニズムに関する理解は深まっており、それらをどこまでシミュレーションモデルに導入するかが近年の研究の焦点である。観測データとの比較だけでなくモデル同士の相互比較によって、推定結果の間に相当の差違がある(つまり不確実性が大きい)ことが分かっており、それをどの様にして小さくしていくかも重要な課題である。近年では、陸域の別々の現象(例えば炭素の循環、水の循環、農業活動など)を扱うモデルを統合してそれらの間の影響関係を考慮する試みも進められている。このような研究例を紹介し、最後に、今後のモデル高度化に向けて必要となる観測や、気象学や生態学などの分野にわたる学際的研究について考察を行った。

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大気-陸域生物圏間の相互作用に関する概念図。異なる時間スケール(秒から数百年以上)のプロセスが重なり合って作用している点に陸域の特色があることに注意。BVOCsは生物起源の揮発性有機物質(イソプレンなど大気中で様々な化学反応を行い大気組成に影響を与える物質)を指す

脚注

  • 温度上昇が進むときに温室効果ガスを正味で吸収することで進み具合を緩和したり、逆に放出することで促進したりする効果。

本研究の論文情報

陸域生物圏モデルの開発と温暖化研究:最近の動向
著者: 伊藤昭彦、小出大、中河嘉明
掲載誌: 天気2017年6月号 (Vol. 64, No.6) 409-427

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