2017年12月号 [Vol.28 No.9] 通巻第324号 201712_324003

東京スカイツリー®で行われている研究を記者の皆様にご紹介しました

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 主任研究員 寺尾有希夫

私たちは、世界最大級の都市である東京圏からの二酸化炭素(CO2)排出量をモニタリングするために、東京スカイツリーにおいて、大気中の温室効果ガス(CO2、メタン等)と関連物質(放射性炭素同位体、酸素、一酸化炭素等)の観測を、CO2は平成28年3月末から、それ以外の成分は平成29年1〜2月に開始しました。CO2濃度だけでなく、CO2中の放射性炭素同位体比と大気中酸素濃度を高精度で分析することで、CO2排出量を排出源別(植物の呼吸から出たものか、化石燃料を燃焼して出たものか)および燃料別(天然ガスか、石油か)に推定することが可能になると期待できます。研究の目的や初期観測結果等については、平成29年7月27日に行った報道発表(http://www.nies.go.jp/whatsnew/20170727/20170727.html)をご覧ください。また、報道発表の文章は正確を期すためにちょっと堅苦しいのですが、社会対話・協働推進オフィスがやわらかくまとめた記事(http://www.nies.go.jp/taiwa/jqjm1000000bvr27.html)が公開されていますので、あわせてご覧ください。

観測の内容については上の2つの記事にまかせて、ここでは、平成29年7月31日に開催された「研究拠点としての東京スカイツリー®」と題した取材会の様子を紹介します。東京スカイツリーでは、開業当初から、一般財団法人電力中央研究所が雷観測と大気質観測を実施しています。また、国立研究開発法人防災科学技術研究所と国立極地研究所、東京理科大学が雲粒観測とエアロゾル観測を行っています。今回、東武タワースカイツリー株式会社のお声がけで、各研究所の研究者がそろって、メディアに研究内容と研究現場の紹介をする機会を得ました。当日は、国立環境研究所からは町田敏暢大気・海洋モニタリング推進室長、遠嶋康徳動態化学研究室長と、筆者が参加し、新聞を中心とした11社20数名の記者の方々に直接ご説明しました。

最初に、スカイツリー1階にある会議室で研究内容のブリーフィングを行いました(写真1)。この会議室にはブースが設けられ、国立環境研究所と地球環境研究センターのパンフレットを配布し、温室効果ガスモニタリング関連のポスターなどを展示しました。今回は塔体外部(屋外)での取材も行われましたが、塔体外に出るには、長袖長ズボンを着用、ヘルメット・安全帯・反射ベストを装備、カメラ、筆記用具、眼鏡などの身の回りのものにはすべて二重の落下防止対策など、安全に関する厳しい対策が求められました。記者の方々も安全器具を着用し、2班に分かれて、各研究所の観測設備の取材に臨みました。観測現場の取材では、筆者が屋内の観測機器の説明を行い(写真2)、町田室長が塔体外の大気採集口の説明を行いました(写真3)。そして最後に会議室に戻り、終了時間ぎりぎりまで個別取材を受けました。

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写真1「研究拠点としての東京スカイツリー®」と題した取材会でブリーフィングを行う筆者

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写真2観測現場の説明。この観測スペース内に、二酸化炭素、メタン、一酸化炭素、酸素の大気中濃度を現場で分析する装置と、大気を実験室に持ち帰って炭素同位体比などを分析するためのフラスコサンプリング装置があります

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写真3塔体外の大気採集口(写真中央よりやや右下)の説明をする町田室長。この4つの口(地上高250m)から外気を取り込み、室内に設置した観測装置(写真2)に導入します

多くの新聞記者の方々に問われたのは、速報性と新規性でした。今回の報道発表では、CO2観測を開始したのは1年以上前であるため、速報性はあまりありません。なぜ1年遅れでの発表なのか、と聞かれましたが、我々としては、CO2観測を開始してすぐに発表するのではなく、最低1年は観測を行い、観測データを確認し、日変動や季節変動が捉えられているか、正しい意味のある観測が行われているか、などをチェックするために必要な時間だったと言えます。また、都内でのCO2濃度観測は今回が初めてではないこと(過去に東京都環境科学研究所が実施していました)、CO2濃度と同時に酸素濃度や炭素同位体といった関連物質を測定して排出源を推定することは新しいが、他の研究グループと共同で渋谷区代々木でも同様の観測を行っていること(スカイツリーのみではない)、など正確な情報をお伝えすると、新しい事実を掲載したい新聞記者の皆さんにとっては、なかなか掲載記事にしにくかったようです(「日本経済新聞」には記事が掲載されました)。しかし、多数のウェブ記事で取り上げていただいたこともあり、広く国民のみなさまには我々の活動をお伝えすることができたと感じています。

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