2017年12月号 [Vol.28 No.9] 通巻第324号 201712_324007

2017年度の衛星観測センターの活動 —衛星データの長期運用に向けて—

  • 衛星観測センター 高度技能専門員 亀井秋秀
  • 衛星観測センター 高度技能専門員 河添史絵

*2017年10月5日に開催された第110回低炭素研究プログラム・地球環境研究センター合同セミナー[注]より

衛星観測センターは2016年4月に開始した国立環境研究所の第4期中長期計画において、研究事業連携部門の一つとして設置されました。地球環境研究センターと環境計測研究センターの54人のメンバー(2017年10月時点)で構成されています。衛星観測センターの業務には、環境省・宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で推進している「温室効果ガス観測技術衛星(いぶき、GOSAT:現在運用中)」「温室効果ガス観測技術衛星2号(いぶき2号、GOSAT-2:2018年度内打ち上げ予定)」の2つの地球観測衛星プロジェクトが含まれます(図1)。

figure

図1衛星観測センター組織図

衛星観測に関する事業としては、以下の6つがあります。

  • GOSATデータの定常処理を継続すること
  • 全てのGOSATデータの確定再処理を行うこと
  • GOSATプロダクト等の検証、アーカイブ、提供、広報活動を継続すること
  • GOSAT-2用のデータ処理システムを構築すること
  • GOSAT-2データの定常処理やプロダクト等の検証、アーカイブ、提供、広報活動を行うこと
  • GOSAT-3の要求要件を取りまとめ、全体計画を作成すること

GOSATは2009年に打ち上げられ、すでに5年の定常運用を終え、現在は後期利用運用となっていますが、観測は継続しています。GOSAT-2はセンサの審査などを経て、2018年度に打ち上げられ、定常運用が始まる予定です。

JAXAから送られてくるGOSATデータはGOSATデータ処理運用施設(GOSAT DHF)で処理されています。GOSAT-2データの定常処理を行うシステムとしては、GOSAT-2データ処理運用システム(G2DPS)を導入しています。さらに研究開発用として、環境省と国立環境研究所が共同運営しているスーパーコンピュータ(RCF2、写真)で、GOSAT-2の観測データの解析処理アルゴリズムの研究・開発を行います。ちなみにRCF2は2017年6月、スパコン省エネ性能ランキング「Green500」で世界8位になりました。

データ処理運用システムの概要を説明します。ストレージ容量は10年間の定常運用を考慮し、1.6PB(ペタバイト、1PB = 1000兆バイト)あり、現在その75%を使用しています。計算能力としては1日に約10日分の観測データの処理が可能です。外部に接続しているサーバと計算処理しているサーバ等があり、仮想サーバを含めると約40台のサーバがあり、それらを5人のオペレーターが運用しています。機種は保守契約の都合で5年おきに更新されるので機器のリプレイスを行う必要がありますが、運用しながらの移行なので、いろいろと苦労があります。

figure

写真環境省と国立環境研究所が共同運営しているスーパーコンピュータ、RCF2

GOSATのデータはGUIGで提供していましたが、2016年12月にGDASに代わりました。GUIGは細かく領域等を指定してデータ取得できるシステムでしたが、GDASはアーカイブシステムで、データを観測日等の単位に纏めて圧縮して提供しています。また、WGETコマンド(URLを指定してファイルをダウンロードする)を使用して一括でデータ提供できるようになっています。

観測要求については、地図から指定するのではなく、CSVに情報入力しての申請に変更となりました。ギャラリーにおいては、GOSATの運用が9年目になり、これまでの観測マップも増えてきましたから、スライドできるボタンを追加するなど、長期運用に向けて徐々に変更を進めています。現在のGDASのユーザーは、一般ユーザーが649名、研究公募(RA)など特定ユーザーは163名です。内訳としては、4分の1が日本のユーザーで、次に中国、アメリカという順番になっています。

2017年度の主な活動を紹介します。GOSATプロダクトとして、2009年6月から2015年10月までのレベル4A、レベル4Bの二酸化炭素(CO2)のフラックスと濃度分布データが2017年6月に公開されました。10月中に、検証チームが全量炭素カラム観測ネットワーク(TCCON)の結果を用いてバイアスの補正を行ったレベル2のCO2とメタン(CH4)のカラム量データが公開できると思います。11月には、新しいバージョンのレベル1を使って全期間統一したCO2とCH4、水蒸気(H2O)のカラム量を公開できる計画です。レベル4A、レベル4Bのメタンのフラックスと濃度分布については、2017年度中にアップデートされることになっています。

GOSATデータの検証はTCCONからのデータなどを使って行っています。GOSAT-2プロジェクトでは、フィリピン北部にあるBurgosにTCCONの新しいサイトを設置しました。国立環境研究所内で調整した観測装置を2016年12月に現地に設置し、2017年3月から観測を始めました(詳細は森野勇「フィリピンTCCONプロジェクトの紹介—観測サイト決定から観測の立ち上げまで—」を参照)。

2017年6月にGOSATによる全大気平均メタン濃度を報道発表しています(http://www.nies.go.jp/whatsnew/20170602/20170602.html)。メタン濃度は季節変動しながら年々上昇し、2017年1月には過去最高の約1815ppbを記録しました。さらに推定経年平均濃度(季節変動を取り除いた2年程度の平均濃度値)は2015年頃に増加率が上昇し、2017年2月には過去最高の約1809ppbに達したこともわかりました(図2)。データはGOSATプロジェクトのウェブサイト(http://www.gosat.nies.go.jp/recent-global-ch4.html)からダウンロード可能です。

figure

図2いぶき(GOSAT)による全大気平均メタン濃度

GOSATでは打ち上げ前の2008年からRAを行っていますが、GOSATのRAは2017年9月で終了し、GOSAT-2のRAを2017年度中に出せるよう準備中です。

GOSATプロジェクト(http://www.gosat.nies.go.jp/)、GOSAT-2プロジェクト(http://www.gosat-2.nies.go.jp/jp/)、衛星観測センター(http://www.nies.go.jp/soc/)のウェブサイトからさまざまな情報を発信しています。また、GOSAT観測データを利用した成果につきましては、ウェブサイトに掲載されているニュースレターやリーフレットをご覧下さい。

脚注

  • 低炭素研究プログラム・地球環境研究センター合同セミナーは、地球温暖化、地球環境にかかわる幅広いテーマを横断した、研究活動の相互理解、知識や視点の共有、議論を行うため、原則として毎月一回開催されている。

略語一覧

  • 宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency: JAXA)
  • 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(Greenhouse gases Observing SATellite: GOSAT)
  • GOSATデータ処理運用施設(GOSAT Data Handling Facility: GOSAT DHF)
  • GOSAT-2データ処理運用システム(GOSAT-2 Data Processing System: G2DPS)
  • GOSAT-2研究用計算設備(Research Computation Facility for GOSAT-2: RCF2)
  • 「いぶき」データ提供サイト(GOSAT User Interface Gateway: GUIG)
  • 「いぶき」データ提供サイト(GOSAT Data Archive System: GDAS)
  • comma-separated values: CSV
  • 研究公募(Research Announcement: RA)
  • 全量炭素カラム観測ネットワーク(Total Carbon Column Observing Network: TCCON)

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP