2018年1月号 [Vol.28 No.10] 通巻第325号 201801_325006

【最近の研究成果】 船舶観測によるインドネシアの泥炭火災に対するメタンの排出係数の推定

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 主任研究員 奈良英樹

2013年の6月から8月にかけて、大気観測装置を搭載した定期貨物船がマレー半島周辺を航行時に、インドネシアのスマトラ島で発生した大規模な泥炭地火災に起因する二酸化炭素、一酸化炭素、メタン等の異常高濃度イベントを観測しました。今までの研究で、インドネシアにおける泥炭地火災は大気中微量気体の分布へ与える影響が大きいことが報告されてきましたが、排出係数[1]の報告例が極めて少ないために各種微量気体の火災放出量推定値には大きな不確かさが含まれていました。本研究では、異常高濃度イベント時の観測結果を詳細に解析することで、今日の泥炭火災に対するメタンの排出係数代表値が観測推定値に対して倍近く過大評価されていることを示唆する、最近の既報値とも整合した結果が得られました(図)。インドネシアでは、特にエルニーニョや正のインド洋ダイポールといった気候現象[2]の発生年には泥炭地火災が大規模化しますが、本研究の結果はこのような年のメタンの泥炭火災による放出量が今までに考えられていたよりも大幅に減少することを示唆しており、全球放出量に対し泥炭地火災以外のメタン発生源の相対的な寄与が大きくなることも同時に示唆しています。

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本研究および先行研究による泥炭のメタン排出係数報告値の分布。観測をもとに推定を行った本研究および先行研究(Huijnen et al., 2016; Stockwell et al., 2016)による排出係数推定値は互いによく一致しており、バイオマス燃焼排出インベントリ(GFED4.1s)による報告値(Christian et al., 2003)の半分程度の値を示している

脚注

  1. 燃焼する物質の単位重量当たりの気体放出量
  2. エルニーニョ時には太平洋の東部で平年よりも海水温が高くなり、正のインド洋ダイポール時にはインド洋の東部で海水温が低く、西部で高くなる。これらの気候現象はそれぞれ数年に一度の頻度で発生し、いづれもインドネシアに長期干ばつをもたらす。

本研究の論文情報

Emission factors of CO2, CO and CH4 from Sumatran peatland fires in 2013 based on shipboard measurements
著者: Nara H., Tanimoto H., Tohjima Y., MukaiH., Nojiri Y., Machida T.
掲載誌: Tellus B: 2017, 69, 1399047, doi.org/10.1080/16000889.2017.1399047.

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