2018年2月号 [Vol.28 No.11] 通巻第326号 201802_326005

【最近の研究成果】 南米南端域での成層圏オゾンの比較 〜地上からのオゾン観測の空白域に寄与するリオ・ガジェゴス〜

  • 地球環境研究センター 地球大気化学研究室 主任研究員 杉田考史

南米南端域は人が住む最南端(緯度は南緯50度付近、図1)であり、南極オゾンホールに対する人々の関心がいまも高い。2009年には南半球の春において11月半ばを中心に20日間ほどオゾンホール由来の低オゾン全量とそれに伴う有害紫外線の増大が南米南端域で生じた(この地域での地上からのオゾン観測は限られている)。この現象はこれまでの観測史上初めてのことであった。この研究ではその期間に焦点をあててアルゼンチン、リオ・ガジェゴス(Río Gallegos; 南緯52度)で継続しているオゾンライダー(DIAL[1])観測による成層圏オゾン濃度の高度分布を調べた。この結果をもとに国立環境研究所などが開発した化学輸送モデル(CTM[2])の性能評価も行った。図2にDIALとCTMのオゾン高度分布の濃度差の比較を示す。同時期にリオ・ガジェゴス周辺で観測されたNASA/Aura MLS[3]による衛星センサからの結果も示す。DIALとMLSは気圧が6hPa(高度34km)から56hPa(高度19km)の範囲で0.1ppmv(3%)以内で良く一致していることが分かった。一方DIALとCTMの比較からは気圧6–8hPa(高度32–34km)でCTMがDIALよりも5–8%低いことが分かった。また低高度で差が0.5ppmv以上となる原因の一つとして、互いの観測空気塊の方向の違いとオゾン濃度の水平分布の兼ね合いで説明できることも分かった。国際的な大気組成観測網であるNDACC[4]においても南半球中緯度の地上観測サイトは非常に限られており、リオ・ガジェゴスでの観測の整備・継続は今後も重要である。なおこの研究はSATREPS[5]の一課題[6]のサポートを受けて実施された。

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図1青丸がアルゼンチン、リオ・ガジェゴスの位置(南緯52度、西経69度)。緯度の範囲は南緯30度から90度

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図2オゾンライダーDIALと衛星センサMLS(青)および化学輸送モデル(赤)からのオゾン濃度の高度分布の差を示す。(a) は差の絶対値で (b) は相対値を示す。実線は差の平均値で点線は差のばらつきの指標として個々の差の二乗値の平均の平方根を示す

脚注

  1. DIAL (DIfferential Absorption Lidar) 差分吸収法ライダー: ライダーはレーザーレーダーとも呼ばれ電波の代わりに光を使ったレーダーと言えます。オゾンによる吸収の有無に対応する2つ波長のレーザー光の差分からオゾン濃度の高度分布を測定します。
    参考:環境儀の記事 https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/42/04-09.html
  2. CTM (Chemical Transport Model) 化学輸送モデル: ここで用いたのは東京大学・国立環境研究所が開発した成層圏化学輸送モデルで、気候モデルMIROC (Model for Interdisciplinary Research on Climate) 3.2版に基づき、各種の成層圏光化学過程を導入し、緯度・経度方向に2.8度の水平分解能でオゾンをはじめ各種の成層圏微量成分濃度を計算します。
    参考:日本大気化学会ニュースレター第36号の記事 https://sites.google.com/site/jpsac2016aacr/
  3. MLS (Microwave Limb Sounder) マイクロ波リムサウンダ: 大気周縁(人工衛星からの視線方向は大気に水平)からのミリ波・サブミリ波の放射スペクトルを分光測定し、オゾン等の濃度の高度分布を導出します。 https://mls.jpl.nasa.gov/
  4. NDACC (Network for the Detection of Atmospheric Composition Change) 大気組成変化検出のためのネットワーク: http://www.ndsc.ncep.noaa.gov/
    詳しくは下記論文を参照。 https://doi.org/10.5194/acp-2017-402
  5. SATREPS (Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development) 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム: http://www.jst.go.jp/global/
    国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)並びに国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)と独立行政法人国際協力機構(JICA)が共同で実施している、開発途上国の研究者が共同で研究を行う3〜5年間の研究プログラムです。地球規模課題の解決及び科学技術の向上に資すること、などをその目的として進められています。
  6. 「南米における大気環境リスク管理システムの開発:2012年度開始」
    本課題の詳細は以下のURLです。 http://www.jst.go.jp/global/kadai/h2404_argentine.html

本研究の論文情報

Comparison of ozone profiles from DIAL, MLS, and chemical transport model simulations over Río Gallegos, Argentina, during the spring Antarctic vortex breakup, 2009.
著者: Sugita T., Akiyoshi H., Wolfram E., Salvador J., Ohyama H., Mizuno A.
掲載誌: Atmos. Meas. Tech., 10, 4947–4964, DOI: 10.5194/amt-10-4947-2017.

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