2018年7月号 [Vol.29 No.4] 通巻第331号 201807_331007

報告:対話型トークイベント「地球温暖化の疑問をなんでも語りましょう!」

  • 社会対話・協働推進オフィス 科学コミュニケーター 岩崎茜

1. はじめに

本ニュース読者のみなさんの中には、地球温暖化という言葉には馴染んでいて、よく理解しているという方も多いと思います。

されど、地球温暖化。よくよく考えてみると、実はわからないことがあったり、当たり前すぎていまさら聞くのをためらったりと、なんだかもやもやした気持ちになることありませんか?

そんな “もやもや” を専門家にぶつけて、一緒に考えようという対話イベントが、国立環境研究所「春の環境講座」の一環で4月21日(土)に行われました。題して「地球温暖化の疑問をなんでも語りましょう!」。受けて立つ専門家は江守正多・地球環境研究センター副センター長です。

写真1江守さんが会場とのガチ対話に臨んだ

2. 本当に “何でも”!

ここ数年、地球環境研究センターは春と夏の一般公開ではパネルディスカッションを行っていました。しかし、パネルでは議論するテーマが事前に決まっているので、より基本的なところ(そもそもCO2が本当に地球温暖化の原因か、など)で疑問を持っている方が、違和感を抱いたまま参加されていたことがアンケートから分かりました。そこで、そもそものところを含めて何でも話せる機会を作りたい、という思いで実施したのが今回の企画です。

専門家が講演するイベントとは違い、話のネタは参加者から出てくる疑問です。つまり、蓋を開けてみるまで「何について」語られるのか分からないということ。地球温暖化のしくみ、原発の話、温暖化懐疑論…。予測できないだけに、どんな疑問でも受け止める相応の覚悟が問われます。

「疑問に対して、僕が『正解』をお答えするのではなく、僕の知っていることや考えを話しますので、それを材料にみんなで考えましょう、という形を目指しました。そして、僕自身が皆さんから学ぶつもりで疑問やコメントに耳を傾けました」と江守さん。

では、どんな疑問が出て、それについてどう話し合ったのか、一部をご紹介します。

写真2約50名の参加者が江守さんに疑問をぶつけた

3. 地球温暖化の「科学」の話

疑問の内容を整理すると、(1) 地球温暖化の「科学」、(2) 地球温暖化による「影響」、(3) 地球温暖化への「対策」の、大きく3つに分類できます。

まず「科学」から。

江守さんが「地球温暖化は、人間活動により排出される温室効果ガスが原因だと思うか?」と会場に問うと、「そう思う」に手を挙げた方がやや多いものの、半数弱は「疑問に思う」と答え、定説を疑っている人が一定数いることが分かりました。

参加者が疑いを抱く理由を、対話を通して探りながら、江守さんが疑問に答えていきます。「人間活動で主に石炭、石油、天然ガスを燃やして出したCO2は量的に分かっている。コンピュータシミュレーションでは、人間活動の効果(人為的なCO2排出量)を計算に入れないと、実際に観測された気温上昇は説明できない」と、その場でグラフを見せながら話しました。

これに対して、シミュレーションはあてにならないと応じる参加者も。江守さんは、「シミュレーションでは、地球が持っているエネルギーがどのくらい増えたのか、減ったのかを計算している。CO2がどのくらい増えると、地球にどのくらい余分なエネルギーが増えるかは計算されている。計算を信用していただく限りは、人間がCO2を増やしたことで気温が上がっているし、自分はそのように納得している」と補足しました。(詳しい説明は、「本当に二酸化炭素濃度の増加が地球温暖化の原因なのか」地球環境研究センターニュース2018年6月号を参照してください)

このほか、科学に関する疑問では次のようなものが挙がっていました(図1)。

図1地球温暖化の「科学」に関する疑問

4. 地球温暖化による「影響」

次に、地球温暖化の影響を深刻だと思うか会場に聞いたところ、8割の方が「思う」に手を挙げ、深刻に受け止めている参加者が多いことが分かりました。

江守さんはまず、海面上昇や洪水、食糧不足など、地球温暖化により引き起こされるリスクを紹介。「温暖化によって難民が出たり紛争が起きたりする面を強調されると、大変じゃないかと思う。でも、いい面もあるし、適応できるという話を聞くと、大したことないと思うかもしれない。どのくらい深刻だと思うかは、人によって感じ方が違う」と、影響について論じる難しさに触れた上で、参加者が何をどのように危惧しているのか具体的に話を聞いていきました。

熱中症患者の増加やゲリラ豪雨など、現在すでに起こっている事象を地球温暖化と関連付けて心配する声が当然ながら上がりました。このほか、大きな影響を被るだろう未来世代への「責任」として地球温暖化の問題を考えているという参加者の意見もありました。

影響についての疑問や、参加者の受け止め方は、次の通りでした(図2)。

図2地球温暖化による「影響」に関する会場からの意見、疑問

5. 地球温暖化への「対策」

では、地球温暖化を止めるためには何をすればいいのか。

対策の具体的な話に入る前に、「温暖化を止めることが出来ると思うか?」と江守さんが会場に質問すると、「無理だろう」と答えた人は7割に上りました。後ろ向きの人が多い理由の一つは、地球温暖化対策が経済成長とのトレードオフになると考えているからのようです。

これに対して江守さんは、「“がまん” だと思うとできない」と、対策のために何かを犠牲にしたり何かと引き換えにするような考え方から離れるために、次のような話を始めました。

「今の社会の枠組みで考えるのではなくて、社会も変わっていくという中で色々考えなければならない。エコカーやバッテリーなど、温暖化対策のために起こるイノベーションもあるだろうし、温暖化と関係なく起こるイノベーションも組み合わさってくる」。しかし、そうした社会の変革に向けて、みんなが関心を持って、みんなで取り組んでいくのは難しいだろうとも。地球温暖化に無関心な人が多いことを嘆く参加者もいました。

江守さんは続けます。「何に関心を持つかは人それぞれ。しかし、みんなが関心を持たなくても世の中は変わるだろう。一部の関心のある人によって制度が出来て、常識が変わって、関心のない人も新しい常識に従うことになる社会ができる」。社会の常識が変わってしまえば、意識せずとも人々は脱炭素社会を受け入れて生活を送っているかもしれません。この過程について、分かりやすい例えとして、分煙が今や社会で当たり前になったことになぞらえて説明しました(詳しい説明は、「『分煙』を手がかりに考える『脱炭素』の大転換」地球環境研究センターニュース2017年11月号を参照してください)。

「対策にはいろいろな答えがあるだろうし、自分の意見が正解だと思っているわけではない」と江守さん。参加者からは、「国が主導して制度を変える」「科学者が国のトップに情報をインプットし、市民には得を訴える」「情報提供をしっかり」など、対策の具体案がいくつか挙がっていました。

対策についての懸念や意見は次のようなものがありました(図3)。

図3地球温暖化への「対策」についての懸念や意見

6. おわりに

「市民の目線」から地球温暖化のあれこれに向き合った1時間半。日頃から講演の機会が多く、一般の方からの様々な質問や意見に触れてきた江守さんですが、出たとこ勝負の今回の対話を終えて、どうだったのでしょうか。

「上手にできたかどうかは、70点くらいでしょうか。やはり皆さんの疑問が多様なので、限られた時間でとりあげるのが難しかったです。僕自身は、しっかり楽しませていただきました。改良しながら、またやりたいと思います。ぜひ皆さん、疑問をぶつけに来てください!」と話していました。

写真3参加者の疑問に寄り添いながら、対話を楽しんだ江守さん

アンケート結果では、7割以上の方に、この対話形式が良かったと評価していただきました。今後も「何でも」聞いて、話せる対話の場を継続してつくっていきたいと思います。

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