2018年9月号 [Vol.29 No.6] 通巻第333号 201809_333003

広報の役割とは:最先端の成果をわかりやすく発信する —藤沼康実さんに聞きました—

  • 地球環境研究センターニュース編集局

藤沼康実(ふじぬま やすみ)さんプロフィール

東京農工大学大学院修了後、茨城県立農業大学校の勤務を経て、1976年に技術部植物専門官として国立公害研究所(現国立環境研究所)入所、生物環境部を経て、1994年に地球環境研究センターに異動し、地球環境モニタリングステーション落石岬設置(1995)など初期の地球環境モニタリングの研究インフラ整備に関わるとともに、地球環境研究センターの交流推進係が所掌する広報活動の基礎を確立。2008年に退職。2016年まで公立鳥取環境大学で教鞭、2017年から国際環境研究協会にてエネルギー対策特別会計による事業のプログラムオフィサーを務めている。公立鳥取環境大学名誉教授。

ミッションは地球環境研究センターの知名度を上げること

編集局

藤沼さんは1994年4月から2008年3月に国立環境研究所(以下、国環研)を退職するまで地球環境研究センター(以下、CGER)の研究管理官や陸域モニタリング推進室長を務めていらっしゃいました。長きにわたりCGERのモニタリング事業や広報活動を支えてくれました。

藤沼

メインの業務は地球環境モニタリングでしたが、広報活動の一環として、「太陽と紫外線かるた」(http://www.cger.nies.go.jp/ja/ecoclub/karuta/index.html)や「ぱらぱらマンガ」(http://www.cger.nies.go.jp/ja/ecoclub/comics/index.html)、「かんきょう問題かんしん度チェック」(http://www.cger.nies.go.jp/ja/ecoclub/quiz/index.html)というクイズなどさまざまな広報グッズを制作しました。

編集局

こういった広報グッズはどういうきっかけで作られたものなのでしょうか。

藤沼

私がCGERの研究管理官になったのはCGERが発足(1990年10月)して間もない頃で、まず、CGERを国環研のなかで位置づけることが重要な課題でした。所内での位置づけがないということは所外にも当然ないということですから、広報活動が非常に重要で、CGERニュースやCGER Reportなどにより、積極的に研究成果を発信するスタイルをとりました。

地球環境モニタリング事業も、温室効果ガスの観測から始まりましたが、水環境やオゾン層・紫外線の観測など、国環研内のさまざまな研究分野の人を引き入れて、モニタリング事業を摩周湖、霞ヶ浦、紫外線などと拡大していきました。

研究管理官として幅広い業務をこなす

編集局

研究管理官という役職は現在のCGERにはありませんね。

藤沼

当時私は環境省から出向してきた係長クラスの行政官とペアで連携しながら仕事をしていました。研究者が不得意なところを行政官がカバーするという連携がうまく機能していたと思います。かつてのCGERには研究室はなかったのですが、今は研究室ができ、組織としての方向づけが違っています。当時の私はCGERの番頭的な役割であり、予算要求では大蔵省(現財務省)へ、人事要求だと総務庁(現総務省)に足を運んで、環境庁(現環境省)の担当者とともにCGER運営のための資金と必要な人材を獲得する仕事に直接携わっていました。

編集局

藤沼さんたちはCGERの知名度を上げるためにそのような努力をしてこられたのですね。

研究者と広報担当者のウィンウィンの関係

編集局

藤沼さんが広報を担当されていたときは、研究者との関係はどうでしたか。どういう関係を目指すと相乗効果を生むと思われますか。

藤沼

私の場合は、CGERの運営全般に係っていました。モニタリング事業でも相当な規模の推進体制でありながら、私の判断で対処できる自由度が大きく、仕事も頼みやすかったです。

編集局

自由度が大きいというのは大きなメリットです。

藤沼

また、私は、ニュートラルな立場で、特定の人をひいきするということはしないように心がけていました。おかげで、ウィンウィンの関係ができ、仕事も頼みやすかったです。

今、交流推進係の主幹を担当するなら

編集局

研究成果を普及・紹介するツールとしてインターネット、スマートフォン等のデジタルメディアが全盛ですが、従来からある紙媒体のぱらぱらマンガやかるたにも「味がある」と個人的には考えます。20年前の研究管理官としての藤沼さんが、今交流推進係の主幹を担当するとしたら、どんなことを進めたいですか。

藤沼

観測現場のツアーです。

編集局

かつてサイエンスキャンプ(1995年から当時の科学技術庁と財団法人科学技術振興財団が行った、高校生が科学技術に触れる機会を提供する取り組み)がありました。そんな感じのものでしょうか。

藤沼

たとえばCO2やフラックス観測をしている現場を見てもらい、データを取得するのにはこんな苦労があるんだということを実感してもらうのは非常にいい体験だと思います。

編集局

実は藤沼さんが主催されたサイエンスキャンプに参加した生徒が、数年前国環研の職員になりました。素晴らしいことですね。また、毎年6月の環境月間に、CGERでは地球環境モニタリングステーション落石岬(北海道)で地元の小学生を対象にエコスクールを開催しています。今年は22回目になり、6月5日に行いました。モニタリング同様、その意義を伝えることを継続することは非常に大切です。

「地球温暖化」より「気候変動」のほうが適切な言葉

編集局

強い台風や洪水、干ばつなど、異常気象に関連した事象が世界中で発生していますが、それを人ごとのように感じていて、対策について立ち上がる人はあまりいないと、加藤三郎さん(地球環境研究センターニュース編集局「環境被害を他人事でなく伝えるためにすべきこと—地球環境研究センターの広報活動について加藤三郎さんに聞きました—」2018年1月号)はおっしゃっていました。藤沼さんはどう考えますか。また、地球温暖化に人々にさらに関心をもってもらうために、研究者やその成果を伝える広報関係者は今、何をすべきでしょうか。

藤沼

まず、地球温暖化という言葉はミスリードだと思います。気候変動のほうが適切です。気候変動の一部が温暖化です。

編集局

かつて国環研の研究者からも、「科学者は、global warming(地球温暖化)より、climate change(気候変動)という言葉を使います」という話をお聞きしました。

藤沼

かつて、地球環境問題として温暖化が話題に出始めたとき、1°Cくらい温度が上昇するなら寒くなくなるからいいことだというのが一般的なとらえ方でした。

地球環境研究センターでの経験を活かして多岐にわたるテーマの講義を

編集局

藤沼さんは国環研退職後、公立鳥取環境大学で教鞭を執られました。どんな教科を担当していたのでしょうか。

藤沼

一般教養的な植物と環境に関する講義を行っていました。少し専門的には、環境汚染が植物や農業にもたらす影響などについて教えました。公立鳥取環境大学は、「環境」を冠した大学名ですが、創立当初はどちらかというと社会科学的な環境だけで、自然科学を扱っていませんでした。後に環境全般を取り扱おうということになり、少しずつ理工系分野を強化しています。

編集局

藤沼さんは、CGERでの広報活動のノウハウは大学で活かされましたか。

藤沼

広報活動だけではなく、CGERでの経験は相当プラスになっています。行政的な面から、自然科学、地球環境問題まで、かなり幅広い知識と事例をもっていますから、大学の講義でどんなテーマでも対応できるというのは非常にやりやすかったです。モニタリング事業を担当したことで、植物だけではなく、大気科学や水質など、まったく専門分野外の知識を蓄えることができました。

最先端の研究成果をやさしく翻訳して発信してほしい

編集局

国環研、またはCGERに、先輩職員としてどんなことを期待しますか。

藤沼

国環研のなかの一組織というより、CGERは日本のなかで地球環境研究のセンターであるべきです。そういうミッションがあったはずです。CGERニュースはAll Japanのニュースであるべきです。一方で、ある程度読者を拡大していくためには、やはりできるだけ平易な内容にする必要があります。たとえば1ページだけはわかりやすいものを作るとか。ココが知りたい地球温暖化(http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/qa_index-j.html)のシリーズはとてもよかったです。

編集局

All Japanを目指すということは重要なことです。All Japanを感じるためにはCGERのなかにいるだけではだめだというのが私の考えです。ココが知りたい地球温暖化については、是非次の企画を考えていきたいと思っています。

藤沼

企画が整えば、素晴らしいスタッフがいっぱいいるのですから、すぐにいいものができるでしょう。ぱらぱらマンガのように、データを出してもらえば、きれいに作成してくれる人はいます。最先端の研究成果を翻訳したやさしい形にして発信してほしいと思います。

*このインタビューは2018年6月27日に行われました。

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地球環境研究センター ニュース編集局
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