2019年11月号 [Vol.30 No.8] 通巻第347号 201911_347004

Future Earth、構成プロジェクトの連携で地球環境問題の解決へ—Future Earth時代における地球表層システム科学と防災・減災研究—

  • 地球環境研究センター 交流推進係 今井敦子

1. はじめに

8月7日、日本学術会議講堂において、日本学術会議環境学委員会・地球惑星科学委員会合同FE・WCRP合同分科会、及びフューチャー・アースの推進と連携に関する委員会の主催(後援:国立環境研究所など)による公開シンポジウム「Future Earth時代における地球表層システム科学と防災・減災研究」が開催されました。

Future Earth(FE; https://futureearth.org/)や国連の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)に代表されるように、「人類が持続可能で公平な地球社会にて繁栄する」というビジョンの実現に向けて、さまざまなステークホルダーとの協働・連携が不可欠となっています。シンポジウムの第1部では、FE及びそれを支える主な国際プロジェクト(Global Research Project: GRP https://futureearth.org/networks/global-research-projects/)の現状を紹介すると同時に、知と実践のネットワーク(Knowledge-Action Networks: KAN https://futureearth.org/networks/knowledge-action-networks/)との連携について議論しました。第2部では、アジア域に焦点を当て、進行する温暖化に伴う気候変動を背景として、深刻化しつつある異常気象、とりわけ豪雨災害や水害などに関する最新の知見、並びに 防災・減災へ向けての取り組みの現状を共有しました。

公開シンポジウムには120名ほどが参加し、研究者と活発な議論を行いました。以下、いくつかの講演の概要を紹介します。

2. 第1部 Future Earth時代における地球表層システム科学研究の新展開

第1部では4つのGRPの現状と課題が紹介され、FE、GRP、KANの連携について報告がありました。

(1)Future Earth-GRPおよびKANによる統合的成果を目指して
春日文子(日本学術会議連携会員、国立環境研究所特任フェロー、FE国際事務局日本ハブ事務局長)

国環研特任フェローの春日からは、FEの大きな柱と考えている、学際的な研究プロジェクトであるGRPと、アカデミアと実社会の連携プロジェクトであるKANとの統合した成果の一事例として、「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ(最近の異常気象は明らかに気候変動が原因です。など)」という活動が紹介されました。これは、2017年のCOP23と2018年のCOP24のときに発信し、今年のCOP25に向けてもいくつかの機関が共同でメッセージを出すために、準備が始まっているとのことです。さらに、気候変動の危機が深まるなか、日本のアカデミアからも何か科学的知見に基づく強いメッセージを出すべきではないかという問題提起がされました。

また、FEからSDGsへの貢献として、科学的知見を収集し、評価し、整理するEarth Commissionの事務局をFEが担うことになったことが報告されました。2019年は日本政府としてSDGsの実施指針を改定する年にあたりますが、SDGsの実施にあたっては、科学的知見は、現状把握・理解、目標到達までのプロセス、実施、達成度の評価といったいずれの段階においても重要な役割を果たすことになると、春日は結びました。

(2)GRPs-KANs連携と国-アジア地域センター連携
谷口真人(日本学術会議連携会員、総合地球環境学研究所副所長)

谷口氏はGRPとKANの連携、総合地球環境学研究所(以下、地球研)が担っているFEアジア地域センターと日本との連携について紹介しました。

地球環境研究には2つの問題点があります。一つはローカルとグローバルの課題解決、2つ目は単一課題と複合課題の連携です。単一課題と複合課題の連携にはGRPとKANの連携が不可欠です。2019年からGRPやKANの国内の関係者をネットワーク化し、次にアジア地域センターと連携し、さらにインターナショナルな形でつなげていくことで、空間の統合と課題の統合が進むことが期待されると谷口氏は述べました。

国(日本を含むアジア各国)とFEアジア地域センターとの連携については、地域センターの役割である、ネットワーキング、研究の方向性の決定、コミュニケーションの3点について解説がありました。今までうまくつながっていなかったものをつなげるという課題の連携や、国、地域、グローバルの連携にもつながるネットワーキングをアジア地域センターでは進めていること、日本が取り組むべき国際的優先テーマを抽出し、研究の方向性を検討していること、ウェブサイト等による発信で、課題の連携(GRPとKAN)と空間スケールの連携(国とFEアジア地域センター、グローバルハブ)を進め、衡平で持続可能な世界へ向けた研究を推進していることが紹介されました。

3. 第2部 気候変動と防災・減災研究の新展開

第2部は、気候変動と、その社会への接点としての防災・減災に関する話題が提供されました。

(1)衛星観測を用いた豪雨形成機構の新たな理解
高薮縁(ゆかり)(日本学術会議連携会員、東京大学大気海洋研究所副所長・教授)

近年、気候変動に伴う極端な降雨の増加が報告されています。高薮氏は、豪雨の仕組みと将来変化について、高機能地球観測衛星による降雨観測データを利用して得られた新たな知見について紹介しました。

衛星搭載降雨レーダーによる降水立体観測は1997年から始まり、降水の立体構造の解析から雨の特徴をより詳しく把握することができるようになったと高薮氏は述べました。

記憶に新しい平成30年7月豪雨と平成29年7月九州北部豪雨を、衛星観測による統計的知見と比較解析したところ、平成30年の豪雨は組織化された広域豪雨で、平成29年の九州北部豪雨は背の高い激しい対流で生じたものであり、この二つは特徴が違うということを説明しました。そして、大気が不安定でなくても、対流圏の上層から下層にいたる深い層で非常に湿った環境場がもたらされると豪雨が発生することが確認されたと述べました。

気候変動に伴う降水特性の変化を調べたところ、組織化された広域の雨の範囲が北上し、現在やや少なめな関東、東北、日本海側に、将来、集中豪雨が増える可能性があると高薮氏は解説しました。

(2)気候と社会の変化による風水害の激甚化を乗り越えるために
小池俊雄(日本学術会議第三部会員、土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター長)

毎年のように起こる激甚洪水氾濫や土砂災害の後追いになっている政策を見直すため、2018年4月に気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会を設置し、議論を始めました。顕在化している気候変動の影響と今後の予測(現象の変化)について8月の委員会でまとめようとした矢先、7月に豪雨(平成30年7月豪雨)が発生し、広島、岡山、愛媛に多くの人的被害が出たと、小池氏は述べました。その豪雨の死者は237人で、そのうち、岡山県倉敷市真備町では65歳以上の高齢者が約9割を占めました。日本の生産者(15歳から64歳)人口と老齢者(65歳以上)人口の比率から見ると、老齢者のように支援が必要な方が増えて、支援できる人が減っていくという非常に脆弱な社会になりつつあることを小池氏は指摘しました。また危険情報が知らされていても、住民がその重要性を十分認識しておらず行動につながっていないことも指摘しました。

この解決のために、「水防災意識社会」の再構築として、複合的な災害にも多層的に備える緊急対策を答申したこと、さらに、市民の自発的な防災・減災行動を促すためには、科学・技術が社会に実装されるようファシリテータが必要となり、統合的な科学的知見を使える形にすることが重要と小池氏は説明しました。

(3)気候変動による河川洪水の変化
平林由希子(芝浦工業大学工学部教授)

平林氏からは、気候変動による将来の河川洪水の変化、人間社会への影響の推計、変化はすでに観測されているのかという内容で講演がありました。

IPCC第5次評価報告書(AR5)では、将来、豪雨の増加が予測されていて、日本やヨーロッパではすでに豪雨の増加が観測されています。河川洪水についても、AR5ならびにその後のさまざまな研究において、地球温暖化による21世紀末のアジア・アフリカの河川洪水の増加傾向は顕著で、河川洪水による被害(死亡リスクと経済被害リスク)も大きいことが予測されていると紹介しました。

出典:IPCC AR5 第2作業部会報告書

また、アンサンブル気候実験を行い、温暖化していないときと比較することにより、豪雨への過去の地球温暖化の影響が定量化されつつあることを平林氏は説明しました。

洪水の発生頻度に関しては、観測があるアメリカやヨーロッパでは過去にすでに増加傾向にあることが示されつつあり、データのないアジア・アフリカについては衛星観測による河川氾濫原の水存在比の変化から、インドシナ半島や北東アジアで増加傾向が見られたと報告しました。

このような研究において、観測データがない場所はモデルによる再解析や衛星画像を用いていますが、再解析や衛星画像解析の検証に用いる際のAPHRODITE(アジアの降水量データhttp://aphrodite.st.hirosaki-u.ac.jp/japanese/)の貢献は大きく、衛星活用を含むアジアの広域観測の継続的な整備と水循環モデルの開発が地球温暖化とアジアの洪水の研究には重要だと平林氏は述べました。

4. 総合討論

最後に総合討論があり、登壇者と会場の参加者の間で、今後激甚化する自然災害や深刻化する環境変化を踏まえ、「人類が持続可能で公平な地球社会にて繁栄する」ために、人類社会がどう対応すべきかを議論しました。そのなかで、マスメディアの方から、地球温暖化影響に関する危機感が日本ではあまり感じられないとの指摘がありました。さらに春日の講演のなかで紹介された、社会に発信するメッセージについても意見交換し、研究者とマスメディアが協力し、科学的知見に基づき、かつ緊急性を十分に伝えることができるようなメッセージを学術会議からも発信していくことが決まりました[注]

脚注

*当日の講演資料はhttp://cger.nies.go.jp/ja/news/2019/190821.htmlからご覧いただけます。

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地球環境研究センター ニュース編集局
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