2020年4月号 [Vol.31 No.1] 通巻第352号 202004_352002

気軽に環境について語り合いませんか? 北広島町での「気候喫茶」開催報告

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 高度技能専門員 寺本宗正

1. はじめに

2019年12月7日(土)、広島県北広島町芸北文化ホールにて「気候喫茶」が開催されました。この企画は、環境研究総合推進費2-1705「アジアの森林土壌有機炭素放出の温暖化影響とフィードバック効果に関する包括的研究」で得られた知見をベースに、一般市民の方々に気候変動や環境研究に関して、分かりやすくお伝えすることを目的としたものです。また本企画は、白川勝信博士(芸北 高原の自然館)および認定NPO法人西中国山地自然史研究会の方々からの多大なご協力を得て行われました。

2. 気候喫茶の様子

当日は地元の方々を中心に、一般参加者および関係者を合わせて50名ほどが一堂に会し、お茶やお菓子も提供されたアットホームな雰囲気の中で、各分野の専門家からレクチャーが行われました(写真1)。気候喫茶では白川勝信博士が聞き手となって、それぞれの研究者に問いかけ、より内容を噛み砕いて会場の方々にお伝えするという形がとられました。そのため、専門的な用語も少なく、非常に分かりやすい構成となっていて、各レクチャーの後には参加者の方々から数々の質問やコメントが寄せられました。各レクチャーの概要は下記の通りです。

写真1 参加者の前でレクチャーを行う国立環境研究所の梁乃申室長(奥右)と、聞き手の白川勝信博士(奥左)

「二酸化炭素を放出する、土の中の目に見えない生き物たち」近藤俊明博士(国際農林水産業研究センター)

土の中にはどれくらいの微生物が存在するのか、それら微生物が放出する二酸化炭素が、地球温暖化とどの様に関わっているのかが説明されました(写真2)。「1円玉と同じ重さの、1gの土の中に、何匹の微生物がいると思いますか?」という近藤博士からの質問に、参加者の方々は皆興味津々。多くの方が正解の選択肢である「約1億匹」と回答し、会場は大いに盛り上がりました。

「二酸化炭素を吸収する森、しない森」高木健太郎准教授(北海道大学)

世界各地の森林が、どれほど二酸化炭素を吸収または放出しているのか、これまでの研究知見を基にクイズも交えながらの説明が行われました。クイズは、シベリアのカラマツ林、道北の混交林、道北のカラマツ林、安比ブナ林、ボルネオ熱帯林のうち、どの森林が一番二酸化炭素を吸収しているのか、というもの。道北の混交林と予想した人が一番多かったのですが、予想に反し正解は安比ブナ林でした。正解者には景品の北海道大学天塩研究林手ぬぐいが授与されました。

「温暖化を実際に起こす、超ユニークな野外実験」梁乃申室長(国立環境研究所炭素循環研究室)

アジアモンスーン地域における様々な森林で行われた、土壌温暖化操作実験(土壌を赤外線ヒーターで直接温める実験)に関して説明が行われました。なぜ土壌から二酸化炭素が放出されるのか、そして実際に温暖化するとどれほど土壌からの二酸化炭素放出量が増えるのかが解説されました。例えば、宮崎のコジイ林や、白神山地のミズナラ林では、1°C当たりの温暖化によって土壌から放出される二酸化炭素の量が、10%程度上昇することが示されました。

「放射性炭素を測って、温暖化の将来を予測する!?」小嵐淳博士(日本原子力研究開発機構)

土壌に含まれる放射性炭素(14C)を分析することから、土壌に蓄積された炭素の履歴(どのくらい古い炭素が蓄積しているのか)が分かることが解説されました。また、14Cの分析手法を用いて、地球温暖化が土壌有機炭素分解へ与える影響をどの様に評価するのかが説明されました。「放射性」というと、環境汚染を思い浮かべてしまう人も多いでしょう。しかし、14Cは身近にごく低濃度で存在しているものであることや、それが意外な方法で環境研究に活用されていることに、会場の方々からは驚きと関心が寄せられていました。

写真2 土壌の微生物に関してレクチャーを行う近藤俊明博士(右)と、レクチャーに関して解説を行う白川勝信博士(左)

休憩時間、会場には研究に用いられる携帯型の観測装置が持ち込まれ、どの様にして土壌から放出される二酸化炭素を観測するのか、研究者から説明がありました(写真3)。会場で答えきれなかった質問は質問シートにまとめられ、後日各研究者から回答されることとなりました。いくつかの質問と回答を下に記します。

質問:近藤先生に質問です。土1g中に1億の微生物がいると言うことですが、どうやって数えたのですか?

回答:昔は実際に顕微鏡などを使って数えてみたり、土から微生物だけを単離して、その重さから推定したりしていたと思います。僕はリアルタイムPCR法という遺伝解析を使って数えています。

質問:極端な話ですが、人類がいなくなれば温暖化は止まるのですか?

回答:人類がいなくなっても、すぐには二酸化炭素濃度の上昇は止まりませんが、さらに急激に濃度が上昇することもなく、温度の上昇も1.5°C以下の範囲に収まると予想されています。しかしこの予測がどの程度確かなのかはだれも証明することはできません。

質問:土壌からの二酸化炭素放出を抑えるには、分解者(微生物)の働きを抑える必要があるということ?? 具体的にはどのようなことを行えば良いですか?

回答:土壌から放出される二酸化炭素の量は空気(大気)の温度が上がると増える性質があります。土壌から放出される二酸化炭素の量をコントロールするのはむずかしいので、石油や石炭などの化石燃料の使用量が少なくなるような努力が必要だと思います。

写真3 デモンストレーション用に展示した観測機器と、その説明を担当した筆者。実際に現地で土壌を当日に採取し(写真中央コンテナ)、土壌からの二酸化炭素放出について観測機器を用いて説明した

3. おわりに

大人から子供まで、日頃は環境科学に馴染みのない方々からも大きな関心が寄せられ、本シンポジウムは盛況のうちに幕を閉じました。本企画は終始和やかな雰囲気の中行われましたが、われわれ研究者にとっても多くの方々とこれからの地球環境に関して気楽に語り合える、非常に貴重な機会となりました。本企画に多大なご協力を頂いた白川勝信博士および認定NPO法人西中国山地自然史研究会の方々に、改めて厚く御礼申し上げます。

謝辞:
本企画は、独立行政法人環境再生保全機構/環境省 環境研究総合推進費2-1705「アジアの森林土壌有機炭素放出の温暖化影響とフィードバック効果に関する包括的研究」によって主催されました。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP