COLUMN2021年4月号 Vol. 32 No. 1(通巻365号)

地球環境豆知識(35)1兆本の木イニシアチブ

  • 高橋善幸 (地球環境研究センター陸域モニタリング推進室 主任研究員)

「一兆本の木イニシアチブ(One Trillion Trees Initiative)」とは、UNEP(国連環境計画)とFAO(国際連合食糧農業機関)が主導する「国連生態系回復の10年(2020~2030年)」を支援することを目的とした、政府、企業、市民社会のためのプラットフォームであり、ダボスで開催された2020年世界経済フォーラムにおいて創設が発表された。

この発表以前から、UNEPは10億本の木プロジェクトは、気候変動の課題への対応として、モナコのアルベール2世王子とICRAF(世界アグロフォレストリーセンター)の後援のもとで「10億本の木キャンペーン(One Billion Trees Campaign)」を2006年に開始しており、2007年に10億本の木を植えるという当初の目標を達成していた。

2015年にスイス連邦工科大学チューリヒ校のThomas Crowtherらの研究グループが世界の潜在的な森林の被覆可能面積から植林の余地がある面積に1.2兆本の木を植林することで10年分の人為起源CO2に相当する量の炭素を貯留することが可能であると試算した。また、森林の回復がもっとも効果的なCO2削減の解決策であるものの、気候変動の進行によりその機会が失われることが予想されるため緊急の行動が必要であるとした。

国連はこうした研究の結果を受け、既に行っていた「10億本の木キャンペーン」を「1兆本の木キャンペーン(One Trillion Trees Campaign)」に変更し、これが上述した「1兆本の木イニシアチブ」に繋がっている。ダボスでの2020年世界経済フォーラムでこのイニシアチブが発表されたとき、参加していた前アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏は、米国政府がこのイニシアチブにコミットすると言明し、話題を呼んだ。

ただし、「1兆本の木イニシアチブ」に関連した行動に対し、気候緩和戦略の観点からは過度に楽観的なものであるとする研究者も多い。植林による炭素貯留には長期にわたる森林管理が必要であり、自然災害などによる影響も避けられないなど、炭素収支の観点からの実現性に対する疑問のほかにも、植林がどこでどのように行われるかによっては、在来の生態系や生物多様性に害を及ぼしたり、水資源の供給の減少*1や社会経済的な影響が避けられないなどの懸念があるためである。