REPORT2021年9月号 Vol. 32 No. 6(通巻370号)

近年の人工衛星による温室効果ガス観測の動向 第17回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(IWGGMS-17)参加報告

  • 染谷有(地球システム領域衛星観測研究室 研究員)

1.はじめに

2021年6月14日~17日の日程でThe 17th International Workshop on Greenhouse Gas Measurements from Space(IWGGMS-17)が開催されました。このワークショップは2004年から年1回、アメリカ、ヨーロッパ、日本が持ち回りでホストを担当して行われており、今回はNASAのゴダード宇宙飛行センター(Goddard Space Flight Center)がホストとなって、去年と同様にオンラインのvirtual meetingの形式で行われました。

2009年のGOSATの打ち上げ以降、OCOシリーズやTROPOMI(Sentinel 5P衛星)の打ち上げなど、衛星による温室効果ガス観測が活発になるにつれて参加者も増え、近年では100~200人程度が参加するものとなっています。今年はオンラインで行われるということもあり、会議終了時点で425人が参加登録をしていました。

セッションは以下の8つに分かれており、49件の口頭発表と100件のポスター発表が行われました。

  1. Results from current missions
  2. Results expected from future missions
  3. Retrieval algorithms and methods for inter-instrument and Cal/Val
  4. Uncertainty quantification and bias correction techniques
  5. Observation to quantify hot spots and local/urban emissions
  6. Flux estimates and atmospheric inversions from space-based GHG measurements
  7. Toward an international space-based GHG emission monitoring system
  8. Stakeholder needs and engagement for the Global Stocktake

口頭発表は各セッション内の発表者全員が発表した後に、チャットに投稿された質問に対して発表者が答えるという形式で、1日につき2セッションずつ順に開催されました。ポスター発表は口頭発表の合間に並行して3つのセッションが行われ、数枚のスライドを使って数分で説明するという、口頭発表の簡易版のような形式でした。

2.現行衛星によるプロダクト

1や3のセッションでは、現行衛星によるプロダクトの状況が報告されました。GOSAT, GOSAT-2について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の久世氏からはJAXAが作成しているL1BプロダクトやL2部分気柱プロダクト、国立環境研究所(NIES)松永衛星観測センター長からは主にGOSAT-2のSWIR L2プロダクトの状況の報告がありました(図)。中国科学院大気物理研究所のLiu氏からはTanSatの新しいXCO2プロダクトとSIFプロダクトの紹介があり、新しいXCO2プロダクトは濃度推定アルゴリズムが新しくなったことにより、精度が向上しているということです。

 松永センター長によるGOSATシリーズに関する発表(https://cce-datasharing.gsfc.nasa.gov/files/conference_presentations/Talk_Matsunaga_61_25.pdfより抜粋)

ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory: JPL)/NASAのEldering氏によるOCO-3(国際宇宙ステーションに設置されたセンサー)の状況報告では、Snapshot Area Mapsという大都市などを80km×80kmで観測するモードの結果として、ロサンゼルスやトロントでのCO2の高濃度が捉えられている様子が紹介されていました。また、観測点の推定精度などが向上した新しいデータバージョンが公開される予定だということです。OCO-3は基本的にOCO-2衛星と同じ濃度導出アルゴリズムが用いられており、それぞれの観測を比較するとどうなるか気になるところではありますが、これについては今後行うということです。

3.衛星による高空間分解能観測

GOSATの打ち上げから10年以上が経ち、近年は高空間分解能観測による人為起源排出の観測例やそれを目的とした衛星計画が増えてきました。カナダの商用衛星であるGHGSatは、現在2機でコンステレーション(いくつかの衛星による衛星群)を組んでおり、25m程度の空間分解能で世界中の都市などからの排出をモニタリングしています。GHGSatを運用するGHGsat inc.のMcKeever氏の発表では、アメリカや中国でCH4の高濃度のプルームが捉えられている様子が紹介されました。

また、同じくGHGsat inc.のVaron氏からはSentinel-2の画像データを用いた解析からCH4の点排出源を捉えた様子が紹介されました。ただ、観測の空間分解能を高くするためには、測定精度や情報量を犠牲にしなければならない部分があり、上記のGHGsatも含めて、解析結果を見ると、高度や地表面反射率依存性も大きいなど、濃度の推定精度が低く、画像センサーによる精度の高い排出量監視にはまだ課題がありそうです。

欧州宇宙機関(ESA)の将来ミッションであるCO2M(Sentinel-7)はTROPOMIと同じく回折格子によるプッシュブルーム方式のイメージングスペクトルセンサーにより、観測幅250km以上、空間分解能4km2でCO2, CH4, NO2などを観測する3機の衛星によるコンステレーションで、ESAのMeijer氏による口頭発表などでプロジェクトの状況や観測機器の紹介がありました。

ガスを観測するためのスペクトルセンサーの他に雲を検出するための画像センサーやエアロゾルの観測のための偏光計も搭載され、ガス観測の誤差要因を観測する設備も充実しています。CO2, CH4, NO2の観測精度はそれぞれ0.7ppm, 10ppb, 1.5×1015 molec/cm2程度(慣習的に衛星観測では温室効果ガスは気柱平均濃度、大気汚染物質は気柱積算量を推定対象とすることが多い)と見積もられていました。これらはGOSATなどのL2プロダクトとおおよそ同等の水準で、観測精度をあまり犠牲にせずGOSATやOCO-2と比べて高い空間分解能や観測幅の実現が見込まれています。

CO2Mについては運用開始が2026年頃とまだ先であるにもかかわらず、数年前から話を聞くことがあり、期待値もかなり高いと感じます。CO2Mによる観測データの濃度導出アルゴリズムは既にオランダ宇宙研究所、 Bremen大学、Leicester大学、オランダ気象研究所などで複数の開発が行われています。今回のワークショップでもいくつか発表があるなど、開発スケジュールもかなり余裕があり、打ち上げ後の早い段階からプロダクトが充実しそうな印象を受けます。

4.複数の衛星データを用いたGHGフラックス推定

温室効果ガスなどを対象とした人工衛星のデータが充実したことにより、それらを複合的に用いた研究の幅も広がっています。NASAのJPLのByrne氏はOCO-2によるCO2濃度、TROPOMIによるCO濃度、MODISによる火災と植生情報のデータなどを組み合わせることにより、2019~2020年のオーストラリア南東部で発生した大規模なバイオマスバーニングイベントの解析を行いました。その結果、このイベントにより放出されたCO2は0.2PgC±40%に及ぶと推定されました。今後、干ばつなどの頻度の変化により、バイオマスバーニングによる温室効果ガスの排出量の傾向も変化する可能性があると思いますが、それらのモニタリングには人工衛星データが強力なツールになると考えられます。

5.来年以降に向けて

COVID-19の影響でここ2年のIWGGMSはオンラインのみでの開催でしたが、JPL/NASAのCrisp氏*1はそのメリットとして参加人数が増えたことを挙げていました。前述の通り、今回の参加者は例年の実地開催の場合と比べて3倍程度となり、昨年同様大幅に増加しました。そのため、来年以降もハイブリッド形式の開催がいいのではないかという提案も出されていました。

ただ、開催時間も含めて課題も多いのではないかと感じます。今回は完全オンラインということもあり、参加者の地域を考慮して1日4時間のみの開催で、例年と比べて参加者は増えているにも関わらず、開催時間は短いものになりました。それにより、口頭発表時間は1件あたり7分と短く、質疑の時間も十分とはいえませんでした。特に前半はかなりスケジュール的にタイトな印象で、主催者も進行を急いでいる様子でした。また、口頭とチャットでの質疑が並行している場面もあり、どちらに意識を向ければいいかも難しかったと思います。

最後に、NIESの谷本大気化学研究室長から来年の開催について案内がありました。来年は日本がホストを務める番となり、6月に高松での開催を予定しています。久しぶりに現地開催のIWGGMSに参加できることを楽しみにしています。

〇IWGGMSに関するこれまでの記事は以下からご覧いただけます。