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中核研究プロジェクト2 衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定

地球温暖化研究プログラムトップページ > 中核研究プロジェクト2トップページ > 平成20年度の成果の紹介

〔平成20年度の成果の紹介〕

 当研究プロジェクトでは3つの研究グループにより研究を実施し、その成果は国環研GOSATプロジェクトオフィス事業に反映しています。それぞれの平成20年度の主要な成果は下記の通りです。

衛星観測データの処理アルゴリズム開発・改良研究

 GOSATでは波長別の光の強度だけでなく、偏光(光の振動の偏り具合)の度合いも観測します。データ解析でこのような光の性質を適切に考慮するため、偏光状態を含めた光の強度を高速に計算する放射伝達モデルPstar2bを新たに開発しました。図1は海面からの反射光の強さと偏光の度合いをシミュレーション計算した結果です。サングリントと呼ばれる太陽光の鏡面反射点周辺で反射光の強度や偏光度が大きくなる様子や、空気分子だけを考えた場合と比べ、エアロゾルがある場合には、エアロゾルによる光の散乱の影響で光の強度や偏光度が小さくなる様子が再現されました。

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図1 海面反射光の輝度と偏光度
図1 海面反射光の輝度と偏光度。国立環境研究所で開発された放射伝達モデル Pstar2b を用いて計算した。

地上観測・航空機等観測実験による温室効果ガス導出手法の実証的研究

 衛星打ち上げ後、より不確かさの小さい独立の観測装置によって取得される検証データを用いて、衛星観測データから作成されるプロダクトのバイアスやばらつきを評価することが、衛星からのプロダクトを科学利用するためには必須です。そのため、衛星打ち上げ後の検証に関する研究を行いました。

 地上設置の高分解能フーリエ分光計を用いた太陽直達光観測による大気中温室効果ガスカラム量の導出法が、主要な検証観測手法の一つです。国立環境研究所に設置されている地上高分解能フーリエ分光計で観測された過去6年間のスペクトルの解析を行い、二酸化炭素のカラム平均濃度を導出しました。各高度の二酸化炭素の濃度を求めるProfile retrieval解析法と相対的な二酸化炭素濃度の高度分布形状を仮定し絶対量を求めるScaling retrieval解析法の二通りの手法を用いましたが、両者の結果はほぼ一致し、季節変動の振幅は約8 ppm、増加率は約2 ppm/年となりました(図2)。この値は、今まで報告された値とよい一致を示しています。

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図2 
図2 国立環境研究所に設置された地上高分解能フーリエ分光計の測定スペクトルから導出した二酸化炭素のカラム平均濃度(XCO2)。Profile retrievalとは、各高度の二酸化炭素の濃度を求める解析法です。Scaling retrievalとは、相対的な二酸化炭素濃度の高度分布形状を仮定し、絶対量を求める解析法をいいます。

 より小さな不確かさで確実な検証を行うためには検証観測装置の検定作業は非常に重要です。2009年1月に、図3に示すように、国立環境研究所の高分解能フーリエ分光計の観測中に航空機を利用した二酸化炭素、メタン濃度の測定、GPSゾンデ観測などを実施しました。実施日はGOSAT打ち上げ前であり図の衛星による観測は行っていませんが、今後、図のようにGOSATと同期して検証観測を行うことは重要です。

図3
図3 2009年1月に実施した国立環境研究所設置高分解能フーリエ分光計の検定観測実験の概略図。実施日はGOSAT打ち上げ前であり図の衛星による観測は行っていません。衛星打ち上げ後、図のようにGOSATと同期して検証観測を行うことは重要です。

全球炭素収支推定モデルの開発・利用研究

 GOSATで得られるデータから、二酸化炭素やメタンの正味の吸収排出量(フラックス)を亜大陸規模で推定するためには、自然起源・人為起源別の地表面における炭素収支の計算値が必要です。そのために、全球陸域生態系の炭素収支を計算するモデルの開発を行いました。また、船舶による海水中のCO2分圧の観測値に合うように、海水中の溶存無機炭素の量を同化して、大気と海洋の間の炭素収支を計算するモデルを開発しました。図4はこれらのモデルを用いて計算した地表面二酸化炭素フラックスの月平均値です。GOSATで観測された大気中の二酸化炭素分布に合うように、大気輸送モデルを用いて地球の各区画におけるフラックスを推定します。

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図4 
図4 モデル計算から得られた地表面における二酸化炭素フラックス(7月の月平均値)。
2003年、2004年の2年分の平均をとった。

国環研GOSATプロジェクトオフィス

GOSAT定常データ処理システムの構築
 国環研のGOSATプロジェクトでは、JAXAから送られてくる膨大なGOSATデータの処理を行う体制を整え、GOSAT定常データ処理システムを構築しています。ここでは解析に必要な参照データとともに処理を行いますが、膨大な計算時間が必要なため外部の計算機も利用しています。処理の結果として、炭酸ガスやメタンなどの温室効果ガスのカラム量やそれらのガスの吸収・排出量がプロダクトになります。処理されたプロダクトは、ディスク、テープなどに保存され、それらのプロダクトの保存量は、5年間の運用後には、300TB以上になります。検証作業が終わりプロダクトが一般に公開された後は、だれでも自由に検索したり、データの配布を要求したりすることができます。これらのデータ処理・保存・配布を行うシステムをGOSAT Data Handling Facility (GOSAT DHF)と呼び、2009年1月23日に打ち上げられたGOSATの衛星・センサーの機能確認が終了後、4月頃から定常的にデータ処理が行われ、順次ユーザに提供される予定です。

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図5 GOSAT データ処理の流れ
図5 GOSAT データ処理の流れ
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