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中核研究プロジェクト2 衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定

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〔平成21年度の成果の紹介〕

 当研究プロジェクトでは3つの研究グループにより研究を実施し、その成果は国環研GOSATプロジェクトオフィス事業に反映しています。それぞれの21年度の主要な成果は下記の通りです。

衛星観測データの処理アルゴリズム開発・改良研究

 約1年間のGOSATの実観測データのうち、信号対雑音比が高く(100 以上)、雲がないと判断された事例に対して、二酸化炭素・メタンのカラム量の導出を行いました。図1に月平均の二酸化炭素のカラム平均濃度(二酸化炭素のカラム量と乾燥空気のカラム量の比:XCO2)を示します。XCO2は北半球の陸域で4、5月に最大、9、10月に最小となる明瞭な季節変化を示しました。また、南半球では北半球に比べ季節変化の振幅が小さいことが確認されました。メタンカラム平均濃度(XCH4)は、1年を通じて北半球で南半球よりも高濃度であることが確認されました。得られたカラム量は過小評価傾向にありますが、そのばらつきは1〜2%程度に収まっています。なお、1年を通じてサハラ砂漠周辺に見られる高濃度は、ダスト粒子の影響を強く受けたことによる誤差である可能性が高いと考えています。今後、処理アルゴリズムを改良し、より精度の高いカラム量導出を目指します。

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図1 晴天域における二酸化炭素カラム平均濃度の1.5度メッシュ平均値分布
図1 晴天域における二酸化炭素カラム平均濃度の1.5度メッシュ平均値分布

地上観測・航空機等観測実験による温室効果ガス導出手法の実証的研究

 衛星からのデータプロダクトを科学利用するためには、より不確かさの小さい独立の観測装置によって取得される検証データを用いて、そのバイアスやばらつきを評価することが必須です。地上設置の高分解能フーリエ変換分光器によるカラム量測定、航空機による濃度の鉛直分布の測定値から算出したカラム量を検証データとして使用します。
 検証データのデータ質の確認を行った結果、地上設置の高分解能フーリエ変換分光器によるXCO2の不確かさは0.3%(1ppm)、XCH4の観測精度は〜0.3%であることが明らかとなりました。また、航空機による濃度の鉛直分布の測定の不確かさは0.2ppmですが、濃度の鉛直分布からXCO2を求める場合の不確かさは、航空機観測データのない部分の濃度を仮定して求めるので、1ppm程度となることが明らかとなりました。
 上記の検証データを用いて、GOSAT TANSO FTS SWIRのレベル2標準プロダクトであるXCO2、XCH4の検証を行いました。GOSATのカラム量およびカラム平均濃度は検証データに比べて低めであり、XCO2の場合は2〜3%程度低いことが明らかとなりました。GOSATのデータのばらつきは、検証データのばらつきに比べて大きいことがわかりました。図2のように帯状平均されたGOSATのXCO2とXCH4の緯度分布は、概ね検証データと負のバイアスをもって一致することがわかりました。雲のスクリーニングが十分でない場合はGOSATのカラム平均濃度が低くなることが明らかとなりました。これらのGOSATの問題点を解決すべく、校正・アルゴリズム改良・検証をさらに進めていく予定です。

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図2 2009年4月におけるGOSATから求めたカラム平均濃度の緯度分布 
図2 2009年4月におけるGOSATから求めたカラム平均濃度の緯度分布(左図はXCO2、右図はXCH4単純経度月平均、–:旧バージョン、–:改訂バージョン)と検証データ(検証地点における月平均、高分解能フーリエ変換分光器:、航空機:)の比較

全球炭素収支推定モデルの開発・利用研究

 GOSAT観測から得られる二酸化炭素・メタンのカラム量全球データを用いた地表面炭素フラックスの評価(インバースモデル解析)の実施に向け、必要とされる地表面フラックス先験情報の整備を行いました。陸域生態系および海洋フラックスの先験情報取得のために、植生プロセスモデルVISIT、海洋輸送モデルOTTMの開発をそれぞれ進めました。また、模擬カラム平均濃度データを用い、GOSATデータの利用により予想されるフラックス推定値の不確かさの低減率を調査しました(図3)。加えて、インバースモデル解析の際に入力となるGOSAT観測から得られるカラム量の評価・選別を行うため、アンサンブル気候値を算出するモデルシステムを構築しました。

図3 GOSATデータの利用により予想されるCO2の地表面収支の不確かさの低減率 
図3 GOSATデータの利用により予想されるCO2の地表面収支の不確かさの低減率(値が大きいほど不確かさが低減されることを表す)

国環研GOSATプロジェクトオフィス

 国環研GOSATプロジェクトでは、所内に構築したGOSAT Data Handling Facility(GOSAT DHF)を使用して、GOSATから観測されたデータをJAXA経由で受信し、データの処理・保存・配布を行っています。解析に必要な参照データとともに膨大なデータの処理を、国環研内部および外部の計算機を利用して行っています。処理の結果として、炭酸ガスやメタンのカラム量、そしてそれらのガスの吸収・排出量がプロダクトになります。また、それらの処理に必要な雲やエアロゾルの情報も、GOSATデータから計算されます。2009年1月23日のGOSAT打ち上げ以降、JAXAと協力して処理されたGOSATプロダクトは、優先的に研究公募で採択された研究者に公開されました。その後、打ち上げ約9カ月後の2009年10月末からスペクトルデータなどのレベル1プロダクトを、さらに、打ち上げ約1年後の2010年2月から炭酸ガス・メタンのカラム量などのレベル2プロダクトを、それぞれ一般に公開しました。GOSATプロダクトの検索・入手は下記のサイトから行うことができます。
http://data.gosat.nies.go.jp

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図4 GOSAT データ処理の流れ
図4 GOSAT データ処理の流れ
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