CONTRAILプロジェクトが第1回日本オープンイノベーション大賞環境大臣賞を受賞しました —原田環境大臣と町田室長らとの懇談—

地球環境研究センター 交流推進係

地球環境研究センター大気・海洋モニタリング推進室の町田敏暢室長を中心とする研究チーム(国立環境研究所、気象研究所、日本航空、ジャムコ、JAL財団)が実施している民間航空機による大気観測プロジェクト(CONTRAILプロジェクト)が、第1回日本オープンイノベーション大賞[1]環境大臣賞を受賞し、3月5日に表彰式が行われました。

表彰式で表彰状とトロフィーが授与されました(左から3人目が町田室長、右から2番目が澤室長)

「日本オープンイノベーション大賞」は、ロールモデルとなる先導的または独創的な取組の表彰と発信により、オープンイノベーションをさらに普及させ、我が国のイノベーション創出を加速することを目的としています。式では環境大臣賞の他に内閣総理大臣賞など12の賞に14の団体が表彰を受けました。CONTRAILプロジェクトは、これまで関わりのなかった機関同士が連携して新たな観測方法を創出し、継続した観測で成果を上げてきたことを評価されました。当日は表彰式に先立って記念シンポジウムがあり、「大学から見たオープンイノベーション」、「企業から見たオープンイノベーション」と題して2部形式の受賞者パネルが開かれました。町田室長は「日本はまだオープンイノベーションが進んでいないと言われますが、パネルに登壇した受賞者代表はいずれも高い意識で組織の枠を超えた連携を進めていました。大学は法人化以降に積極的に企業の力を活用しようと工夫をしていますし、企業は自社以外の技術やノウハウを取り入れ、協力することで今後の発展があるとの考えでした。もしかしたら最もオープンイノベーションが遅れているのは国の機関かもしれません。CONTRAILプロジェクトも現状に甘んじることなくさらに他機関や他のプロジェクトとの連携を進めていくべきと考えさせられる有意義な受賞式となりました」と感想を述べていました。

表彰式に先立ち、2月20日に原田義昭環境大臣と町田敏暢室長、気象研究所の澤庸介室長が懇談しました。その概要を紹介します。

原田大臣(右端)にCONTRAILプロジェクトのパネルを寄贈しました

民間企業の理解がCONTRAILを支えた

町田: 2005年11月に開始したCONTRAILプロジェクトでは、日本航空(JAL)が運航する10機の飛行機を改修し、二酸化炭素(CO2)濃度連続測定装置(CME)および自動大気採取装置(ASE)の2つの装置を搭載しています。

CMEは飛行中に連続計測できますが、成分としてはCO2のみです。一方ASEはメタンや亜酸化窒素、六フッ化硫黄など複数の温室効果ガスも測れるメリットがあります。分析結果から、CO2濃度の季節変動は上空においても北半球で大きく、南半球では小さいことが確認できます。また、高度8km以上における4月と7月のCO2濃度の分布からも北半球が南半球より季節変動が大きいことがわかりました。

CONTRAILプロジェクトによる長期観測により科学的な貢献が多く生まれましたが、これは、環境省の地球一括計上のような継続的予算措置があったからです。長期的視点で研究を支えてくれる予算は非常に限られており、大学を含めた日本の研究機関が環境省の取り組みに深く感謝しています。

CONTRAILの歴史を紹介します。まず、ジャンボ機と呼ばれていたボーイング747型機に装置を搭載するため、飛行機を改修し、2005年11月と12月にCMEとASEの初飛行を行い、データ取得が始まりました。その後2010年に747型機が退役したときには、すでに承認をとって2006年から観測を行っていた777型機に変わりました。現在ASEを搭載できる飛行機の運航がないヨーロッパ便では手動サンプリング(MSE)により空気の採取を行っています。これは電気を使わない手動ポンプによるサンプリングです。コックピットに澤さんや私たち観測者が乗り、ハンドルを回して空気を採取します。日本からパリまでの12時間の飛行中に、場所を決めて12回のサンプリングを行います。サンプリングに必要な時間は1回15分くらいですが、その間200〜300回ずつハンドルを回します。この観測による成果は澤さんが論文として発表しています。

CONTRAILプロジェクトは研究者と企業の協働です。観測により、興味深い発見がありすぐれた論文を発表できれば研究者にとっては大きな喜びになりますし、環境省の政策にも貢献できますが、民間企業は具体的なメリットがわかりにくいので、今回のような賞をいただけることはとてもありがたいことです。このプロジェクトは民間企業の理解があって進められているものですから。

原田大臣: 日本の観測レベルの高さを証明するためにも、私も折に触れてこのプロジェクトを紹介したいと思っています。CONTRAILプロジェクトによるCO2の観測はまったく新しい手法でしょうか。

町田: ヨーロッパのグループが1993年から大気中のオゾンの観測をしていますが、CO2の観測では日本が世界初です。ヨーロッパもCONTRAILプロジェクトの影響を受けて温室効果ガス観測の重要性を認識し、2007年から装置の開発を行い、昨年から観測を始めたと聞いています。最初は彼らをライバルと思っていましたが、だんだんと気持ちが変わってきました。日本からのフライトでは南米やアフリカ、大西洋を横断する便があまりありません。しかし、ヨーロッパの便はその不足している部分をカバーしていますから、お互いが取得したデータを組み合わせて利用することが大切です。私たちはヨーロッパのグループの開発のサポートをしています。そして、将来は、世界中をカバーできるような統合したデータセットを共同でつくることを目指しています。

地球規模のCO2循環の理解が進む

原田大臣: データはどういう形で気候変動対策に活かせるのでしょうか。

町田: CO2濃度の地上観測はたくさんあるのですが、これまで上空の観測はほとんどありませんでした。CONTRAILプロジェクトによって従来と比較して取得データ数を飛躍的に増やすことができました。地球上の大気の循環では、地上付近より上空のほうが効率的に空気が輸送されます。その循環過程のCO2濃度を観測できるので、地球規模でのCO2の循環を理解するための貴重なデータになっています。また、コンピュータによる大気輸送モデルを使った放出量・吸収量の推定にもCONTRAILのデータを利用しています。たとえば、インドはCO2濃度については地上データもあまりなかったのですが、CONTRAILプロジェクトで興味深いことが明らかになりました。インドにおいても夏にCO2を吸収し冬に放出するのですが、夏の吸収量と冬の排出量にあまり差がないというのがこれまでの研究結果でした。ところがCONTRAILのデータを加えたところ、夏にはCO2を大量に吸収しており、年間を通しても放出より吸収が多いことがわかりました。インドでは人為的排出量は多いのですが、生態系に限ればCO2を吸収してくれているということです。また、赤道域は雲があって温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)での測定が困難な地域ですし、地上観測地点もほとんどないところですが、JALはシンガポール便が多くあり、赤道上空のデータを大量に取ることができました。2015年は強いエルニーニョ現象により森林火災が頻発し、CO2が熱帯林から大量に放出されたといわれています。いろいろな観測をもとにどれくらいの排出量だったかという論文が出ましたが、私たちの観測をもとにした推定では多くの人が出している数値は少し高すぎることがわかっています。

原田大臣: CONTRAILプロジェクトがさまざまな推定結果を実証したということですね。

町田: そうです。また、CO2は大気中で化学変化が起きにくい成分です。いったん地上から出るとなかなか消えないという性質を利用し、CO2の動きから目に見えない空気の動きを見ることができます。

原田大臣からもJALに感謝

原田大臣: 可視化ですね。ところで手動サンプリングで観測するのはご苦労ですね。

町田: 澤さんも私もパイロットやキャビンアテンダントから「ご苦労ですね」と言われますが、私たちにとっては北極上空の空気という貴重なサンプルがとれるのですから、感謝しています。

原田大臣: 私は環境大臣としてJALにもお礼を言いたいですね。

町田: ありがとうございます。JALにはほぼボランティアで協力していただいていますから、非常に励まされると思います。私も原田大臣が感謝しているとお話します。

原田大臣と町田室長がCONTRAILプロジェクトについて懇談しました