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解説

 

1.1        本データブック刊行のねらい

 

(1)         本データブックの構成

本データブックは、1999年3月に刊行した「マテリアルフローデータブック〜日本をとりまく世界の資源のフロー〜」(CGER-D022-99)の改訂版である。新たに、1998年の貿易データを加えたこと、本文を和英併記としたこと、貿易フロー図、貿易マトリックスを電子媒体(CD-ROM)に収録して添付したことが1999年版からの主な変更点である。

 本書は、第T章「解説」、第U章「貿易フロー図・貿易マトリックスの作成方法」および第V章「貿易フロー図」および添付のCD-ROMから構成されている。紙面の都合上、作成した貿易フロー図・貿易マトリックスは主にCD-ROMに収録し、貿易フロー図の一部を印刷して第V章に収録した。

 データブックとしての中心は第V章および添付のCD-ROMに収録された図表にあり、ここに、国連貿易統計から抽出、集計した主要自然資源についての貿易データを地図および表の形で収録している。第U章では、本書に収録した貿易フロー図および貿易マトリックスの作成方法の概要を示している。本データブックでは、マテリアルフローに関する数値をすべて重さの単位で表現しているが、国連貿易統計では金額単位でしか報告されていない場合や、国によって異なる物量単位が使われている場合があり、これらをすべて重さの単位に換算するために行った推計方法などがここに記されている。第V章は地図集であり、世界の地域ブロック間における主要自然資源の貿易フローを概観できるような構成としている。一部の品目については、アジア諸国間の貿易フロー図を加えた。添付のCD-ROMには、貿易フロー地図のほか、貿易マトリックスの数表を収録している。

 冒頭の第T章では、このデータブックに収録した図表のもつ意味を解釈するために多少の解説を加えている。1.1では、マテリアルフローに関するデータ整備の背景・必要性と国立環境研究所におけるこの問題への取り組みの状況など、本データブックの刊行のねらいについて述べている。1.2では、資源の輸出入量の日本にとっての意味を明らかにするため、日本国内のマテリアルフローを概観するための図と多少の解説を収録している。1.3では、第V章およびCD-ROMに収録した資源の貿易フローデータから読み取れる特徴を、日本の輸出入が世界に占める位置やアジア諸国などに見られる最近の変化を中心に解説している。

 

(2) 大量生産・大量消費・大量廃棄型社会と環境問題

 日本をはじめとする先進工業国は、大量の資源を自然環境から採取し、加工してさまざまな物資を大量に生み出し、これを消費することによって便利で豊かな生活を享受している。一方、生産・消費段階で生じる汚染物質や、消費された物資は廃棄物として自然環境に戻されていく。こうした自然環境と人間活動の間での物質循環の規模は、自然環境がもつ資源の再生能力や廃棄物の浄化能力を大きく超えている。二酸化炭素やフロン等の大気中への蓄積による地球規模の大気変動や、薪炭、建材、紙の原料などを得るための伐採による森林面積の減少などは、人間による物質の大量のフローが引き起こした全球規模での環境変化の典型例であろう。国内では、廃棄物の埋立処分場が逼迫する一方、廃棄物を減容するための焼却処理施設では、ダイオキシン汚染への対策が課題となった。すなわち、今日の多くの環境問題は、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動のあり方そのものと結びついているとみることができる。

 従来の公害問題から地球環境問題へ、そして「持続可能な発展」への視野の拡大の中で、自然資源や環境の「量」的側面の重要性が認識されるようになってきた。資源の利用可能量や環境の自浄能力が有限であることの認識は、持続可能な発展を論じる上での基本認識の一つである。1992年の地球サミットで採択されたアジェンダ21の第4章「消費形態の変更」では、こうした現在の先進工業国の生産と消費の形態が、持続不可能なものであることを指摘していた。また、2002年に開催されたWSSD(持続可能な開発に関する世界首脳会議)によるヨハネスブルグ宣言においても、「生産・消費形態の変更、天然資源の保護・管理」の必要性に言及されている。国内では、環境基本法に基づいて1994年に策定された環境基本計画において、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活のあり方を問い直し、生産と消費のパターンを持続可能なものに変えていくことが必要であること、物質的な豊かさのみの追求が環境の危機を招いているとの認識が深まっていることに言及している。また、こうした「大量生産・大量消費、大量廃棄型社会」から「循環型社会」への転換をめざして、2000年には循環型社会形成推進基本法が制定されている。

 

(3) マテリアルフロー勘定と国立環境研究所における取り組み

 こうした大量の物資に特徴づけられた今日の経済社会と環境問題との関わりを分析する上では、自然環境と経済活動の間、およびさまざまな経済主体間の物資やエネルギーのフローを体系的に把握することが不可欠である。こうした目的には、環境資源勘定、とくにマテリアルフロー勘定あるいはマテリアルフロー分析(MFA:Material Flow Accounting/Analysis)と呼ばれる手法が有効である。国立環境研究所においては、10年余りにわたり、地球環境研究総合推進費により、環境資源勘定に関する研究に取り組んできた。とくに、大量の自然資源を輸入に頼り、世界第4位の温室効果ガス排出国である日本にとっては、地球規模の問題を環境資源勘定に反映させることが重要課題であり、そのための情報整備に力点をおいてきた。本データブックでとりあげる自然資源の貿易データはその過程で整備してきたものである。

 一方、欧州をはじめとする諸外国においても、マテリアルフロー勘定に対する取り組みが活発に行われつつあり、国際的な情報交換、研究協力も進んでいる。持続可能な発展の達成度を測る指標の開発に関する研究プロジェクトを進めていたSCOPE(環境問題に関する科学委員会)は、1995年11月にドイツのヴッパータールで専門家ワークショップを開催し、マテリアルフロー分析が指標開発の重要な研究分野の一つであると結論づけた。このワークショップへの参加を契機に、国立環境研究所、ドイツのヴッパータール研究所、米国の世界資源研究所、オランダの住宅・国土計画・環境省の4機関の間で、マテリアルフローの国際比較研究が開始された。1996年中に共通の分析の枠組みづくりとデータ収集を進め、1997年4月に4機関の共同出版の形で成果を発表するに至った1)。また、2000年秋には、オーストリアを加えた5ヶ国の間で、第2期の成果を報告している2)

(4)「隠れたフロー」と資源貿易の潜在的な意味

 この国際共同研究では、ヴッパータール研究所が用いてきたマテリアルフロー勘定の枠組みに基づいて、自然環境(Ecosphere)と人間活動圏(Anthroposphere)との境界をフロー計量の断面とし、共同研究の第一段階では自然環境から人間活動圏への投入フローの把握に重点がおかれた。これは、資源の枯渇や分配といった問題に目を向けるとともに、投入された資源はすべて潜在的に廃棄物になりうること、一般に資源のフローに付随してさまざまな環境負荷が発生することを考慮したためである。

 この枠組みの最大の特徴は、人間活動によって引き起こされながらも、財貨として扱われないために従来のマテリアルフローの把握から漏れていた「隠れたフロー」に着目した点にある。たとえば、鉱物の採鉱段階で掘削される表土・岩石や、選鉱段階で鉱物から分離される不純物の量は、精鉱という形で実際に経済活動に投入される量をはるかに上回る。鉱物資源の大半を輸入に頼るわが国にとっては、資源産出国で発生するこうした廃棄物は、表には見えない。これが「隠れたフロー」の典型である。木材製品のために伐採される木材、食肉に投入される飼料なども、実際のみかけの輸入量よりも多くの資源が消費されていることが理解されよう。なお、隠れたフローという表現は、国際共同研究で採用された英語(hidden flows)の訳であり、ヴッパータール研究所では元来、「エコロジカル・リュックサック」と名づけていた。リュックサックを「背負った重荷」と解釈すれば、日本語の「負荷」という用語や、「隠れた」「背負った」とのニュアンスとよく合致することが理解されよう。

 類似の考え方は、Wackernagelらの提唱するエコロジカル・フットプリント分析3)にも取り入れられている。エコロジカル・フットプリントとは、人間活動が「踏みつけた面積」を意味し、資源の供給や汚染の浄化に必要な面積を算出することで、人間活動による環境への負荷の大きさを測ろうとする試みである。日本に輸入される農産物の生産のために、米国をはじめとする世界各国の広大な農地が利用されているが、こうした状況の表現にはエコロジカル・フットプリントが適していると思われる。

 本データブックへの資源貿易データの収録項目の選定にあたっては、日本への輸入量の絶対量の大きいもの(化石燃料や鉄鉱石など)のほか、この隠れたフローやエコロジカル・フットプリントの観点から重要と思われる項目を含めた。肉類、穀物、非鉄金属などがこれに該当する。

 

(5) 本データブックの利用について

 本データブックは、資源の貿易という側面から、世界の中における日本の占める位置を再認識し、資源に関連する環境問題を考える上での参考資料として活用されることを狙ったものである。このため、直観的な理解を助けるために、集計されたデータに基づくカラーの地図を多く盛り込んだ。また、その作成に用いた数値データも別途掲載しており、貿易を組み込んだモデル分析など調査研究に活用いただきたい。一方、ライフサイクルアセスメントなど、製品や企業活動を環境面から評価する際にも、原材料の調達にまで遡った評価が行われつつあり、国外からの自然資源の調達とこれに伴う環境影響の把握が課題となっている。こうした分野においても本データブックが参考となると考えられる。

 

1.2 日本をとりまくマテリアルフローの概観

 

 本データブックは、日本に輸入される資源が世界に占める位置の理解を助けることに主眼をおいているが、同時に、日本国内におけるマテリアルフローの全体像と、そこに占める輸入資源の位置付けを理解しておくことが有益であろう。そこで、ここでは日本をとりまくマテリアルフローに関するデータを、国際比較を交えてとりまとめておく。

 わが国では近年、国全体のマテリアルフローをとらえることの必要性が主にリサイクル推進の立場から提起され、平成5年度版から毎年の環境白書に環境庁によるマテリアルバランスの試算値が掲載されるようになった。ここに掲載するものは、著者らが先述の国際共同研究の一環として作成したデータに基づくものであり、平成9年度版以降の環境白書でもこれと同じ計算方法が採用されている。

 平成14年度版環境白書によれば、2000年度において、1年間に日本国内で自然環境から採取される資源の総量は約11.2億トンであり、これに約7.1億トンの輸入資源と0.7億トンの輸入製品を加えた合計約19億トンが経済活動に新たに投入されていた。この新たな投入物資の総量の約4割を輸入が占めている。これらに再生資源のフローを加えると、約21億トンの物資が経済活動を通過していくことになる。

 図T-1は、環境から人間活動への物質のインプットと、人間活動から環境への物資のアウトプットとのバランスを表現したものである。アウトプットの側で、一般に「廃棄物」として把握されているものは、一般廃棄物の約0.5億トンと産業廃棄物の約4億トンである。産業廃棄物の汚泥や家畜糞尿などに大量の水分が含まれるため、乾重量ではこれよりかなり少ない。投入された約20億トンの資源量とこの廃棄物量の差のうち、一部は「廃棄物」以外の形で環境に放出され、それ以外はストックとして人間活動圏にとどまる。

 いわゆる廃棄物以外の形態で人間活動から自然環境中に戻るフローのうち、最大のものは化石燃料の燃焼による大気中への二酸化炭素の放出である。これが気体であるためか、日頃その量を実感しにくいが、こうした計算を行ってみると、地球温暖化問題で脚光を浴びている二酸化炭素とは、実は人間活動からの最大の「廃棄物」であることがわかる。また、我々が直接摂取する食料や、家畜の飼料として投入された農産物は、人間や動物の呼吸や排泄によって、主に二酸化炭素と水の形で自然環境に放出される。このほか、人間が生産するさまざまな物資の中には、その用途から、環境中に放出されることが前提となっているものがある。肥料や農薬、塗料の溶剤などがこれに相当する。

 こうして、さまざまな形態で人間活動圏から自然環境への出口を出ていくフロー量は約7億トンであり、また、1.1億トンが、輸出品として他国の人間活動圏に出ていく。資源の投入フローとの収支を水分を補正して計算すると、差し引き約12億トンが人間活動圏にストックの増分として追加されることになる。ストック増加の大半は建設構造物、すなわち道路、橋、ダム、河川の護岸、下水道などの公共土木構造物(インフラストラクチュア)、ビル、住宅、工場建屋などの建築物である。このほか、自家用車、家電製品、家具などの耐久消費財の保有増加分、工場の生産設備の増加などがストック増加に含まれる。これらストックの中には、耐用期間を終えた後には解体され、廃棄されるものも多く、ストックの増加は将来の潜在的な廃棄物との意味ももつ。

 

図T−1 日本のマテリアルバランス(1995年, 単位:100万トン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


1.3 世界の資源貿易フローの概観

 

 ここでは、本書第V章および添付のCD-ROMに収録した世界貿易フロー図に沿って、世界各地域間における自然資源の貿易の状況について、日本の輸出入が占める位置に注意しながら、その特徴を概観する。ここでは、世界の地域ブロック間のフローに焦点をあてているため、地域ブロック内(たとえば欧州諸国相互の間)での貿易は図上に現れない。こうした地域ブロック内の貿易量については、CD-ROMに収録した貿易マトリクスによって知ることができる。また、図中の矢印は、2つの地域ブロック間における取引量の差を表現したもので、実際には双方向で輸出入が行われている場合が多い。これについても、CD−ROM中の貿易マトリクス上で確認することができる。なお、カラー印刷頁の節約のため、経年変化の印刷出力は最小限にとどめている。主要品目ごとの経年変化を貿易フロー地図で見る場合にも、CD-ROMを活用いただきたい。

 なお、本データブックでは、自然環境から取り出された資源および加工度の低い原材料の貿易フローに主眼をおいており、機械類や化学製品など加工度の高い品目のデータは除外している。資源産出国は、資源消費国に対して資源のまま加工せずに輸出するだけではなく、より加工度の高い製品の形で輸出する場合があり、最近、製品輸出の増加傾向が見られる。とくに、家電製品のように、かつて大半が国内で生産されていたが、近年、輸入量が急増している製品もみられる。

このため、資源消費に関するより正確な状況把握のためには、加工度の高い製品の貿易の裏に隠れた資源消費にまで目を向けることが必要であろう。このことは今後の課題としたい。

 

(1) 世界の総マテリアルフロー

 図1-A〜1-Dは、世界の主要資源を化石燃料、農林水産資源、金属資源の3分類に集計して、1983年から1998年までの変化を表したものである。量的に卓越しているのは化石燃料のフローであり、西アジアの産油国から日本や欧州をはじめとする世界各地への輸出量の大きさが目立つ。また、経年変化の傾向をみると、日本以外のアジア地域への輸入量(化石燃料、金属)の増加や、南米からの輸出量(金属)の増加が見られる。

 図2-A〜2-Dでは、前の図で卓越していた化石燃料を除外し、農林水産資源を食料と木材に、金属を鉄とその他に分類して示したものである。化石燃料以外の資源では、北米が大きな供給元であることが読み取れよう。また、金属資源の供給元として、豪州、南米、アフリカといった南半球に位置する地域が大きな役割を果たしている。日本は欧州とともに消費地としての位置が明白である。近年のアジアへの金属資源の輸入増加も読み取れるが、これについては後に(4)で詳述する。

 

(2) 食料資源のフロー

 図3〜図8は食料資源に関するフローを示している。図3、図4は、肉類の貿易を牛、鶏、豚、羊、その他に分類して示したものである。日本への輸入量が世界全体の取引量に占める割合は他の品目に比べてむしろ小さいが、最近、その量は増加している。世界全体の貿易量も増加しており、欧州・北米が一部輸入もみられるものの、全体として供給源となっている点が目を引く。図5、図6は、魚介類の貿易量を示したものである。日本への輸入量の占める割合が大きく、また輸入量の増加も著しい。日本以外のアジア諸国が関係する貿易量も増加している。図7、図8は、穀物類の貿易を、小麦、とうもろこし、米、大麦、その他に分類して示したものである。北米から世界各地への輸出が卓越していることが容易に理解されよう。日本も輸入国であるが、他の地域へのフローも大きいため、相対的な寄与は他の品目に比べて小さい。

 

(3) 木材資源のフロー

 図9は、木材資源の貿易を、丸太、製材、木材製品(合板など)、パルプ材(木材チップなど)、パルプ、紙に分類して示したものである。日本に対しては、北米、東南アジア、豪州、旧ソ連などからさまざまな形態で木材資源が輸入されており、世界全体の貿易量に占める割合もかなり大きい。日本以外では欧州への輸入量が大きく、図には表れていないが、西欧地域内での貿易量も大きい。近年、北米からの日本以外のアジアへのパルプや紙の輸入が増加している。

 図10A〜Dは、アジア諸国についての経年変化をみたものである。東南アジアでは、マレーシアやインドネシアからの輸出量の大きさが目立つ。また、以前は丸太の形での輸出量が多かったのに対し、近年では製材や合板、さらにはパルプ・紙など、加工された製品としての輸出量が増加しており、このことはこれらの国々からの日本への輸入についてもあてはまる。日本以外では、韓国・中国への輸入量の増加が顕著である。

 

(4) 金属資源のフロー

 図11〜図16は金属資源に関するフローを示している。まず、図11は、鉄鉱石、鉄鋼、鉄屑の貿易を示したものである。鉄鉱石のフローでは、豪州および南米からの輸出量が卓越し、日本、西欧が大消費地であるほか、近年では日本以外のアジアへの輸入も増加している。鉄鋼のフローでは、日本や西欧からの輸出量が大きく、これらは鉄鉱石を輸入して鉄鋼を輸出している。また、日本以外のアジアへの世界各地からの鉄鋼輸入量の増加が目をひき、北米や西欧からは鉄屑も輸入されている。図12によって、アジア諸国について詳しくみると、インドやフィリピンが鉄鉱石の産地であり、日本や韓国に輸出されている。日本からの鉄鋼の輸出先はアジアの多くの国々に及んでいる。近年、韓国への鉄鉱石および鉄屑の輸入の増加がみられ、その結果、韓国は日本や中国に対する鉄鋼の輸出国となっている。また、中国への鉄鉱石、鉄鋼の輸入の急増がみられ、その相手国は多岐にわたっている。なお、本節の冒頭で述べたとおり、鉄はさらに加工された形態、すなわち産業用機械や、自動車・船などの輸送機械などの製品として世界を巡っていることに注意が必要である。

 図13はアルミニウム鉱(ボーキサイト)、アルミナ、アルミニウム(精錬されたもの)の貿易量を示したものである。ボーキサイトの主な産地は、豪州、南米、アフリカであり、これらの地域から日本、西欧、北米などの加工・消費地へボーキサイトまたはアルミナの形で輸出されているが、近年の豪州から日本への輸入のように、産地で精錬されて金属アルミニウムの形で取引される量も増加している。日本についていえば、アルミニウムの精錬に要する大量の電力の国内でのコストが高いことが、こうした形態での貿易に転換した要因といわれている。

 図14は、鉄、アルミニウム以外の卑金属の貿易について、鉱石の形態での取引と精錬ずみの金属としての取引に分類・集計して示したものである。豪州、南米、アフリカが産地である点は、鉄やアルミニウムと共通しており、これらの地域からの輸出が卓越している。日本、西欧が消費地である点も同じである。

 図15は、これら卑金属の鉱石の貿易について、銅、ニッケル、亜鉛、鉛、その他に分類して内訳を示したものである。日本は、銅鉱、ニッケル鉱の輸入において、世界全体の貿易量の大きな割合を占めている。欧州も亜鉛鉱などの大消費地である。日本以外のアジア地域は、日本に対して銅鉱、ニッケル鉱などを輸出しているが、近年、他地域からの輸入も増加しつつある。

 図16は、これら卑金属の精錬ずみ金属としての貿易の内訳を示したものである。産地側をみると、南米、アフリカからの銅の輸出、豪州からの鉛・亜鉛の輸出が卓越している。近年では旧ソ連からの輸出も見られる。日本はいくつかの地域から銅を輸入しているが、アジア地域に対しては銅の輸出国となっている。銅以外については精錬ずみのこれらの卑金属の日本への輸入は小さく、先述のアルミニウムの例と違って国内で精錬が行われていることを意味する。西欧もこれら卑金属の輸入が集中する一方、アジア地域に対しては輸出しており、日本と西欧は似た傾向を示している。日本以外のアジア地域に、世界各地からの輸入が集中していることも特徴である。

 

(5) 化石燃料資源のフロー

 17は、化石燃料の貿易量を石炭、石油(原油および石油製品)、天然ガスに分類して示したものである。よく知られているとおり、西アジアからの石油の輸出が卓越しているが、このほか、旧ソ連、南米、アフリカなども石油の輸出元となっている。石炭の輸出元は豪州、北米、東欧などであり、消費地は日本および西欧である。天然ガスはパイプラインや液化設備がなければ輸送できないため、取引はこうした設備が整備された地域に限られる。日本へはインドネシアなどから液化天然ガスとして輸入されている。


 

関連文献等

 

第T章中の引用文献

1)       Adriaanse, A., Bringezu, S., Hammond, A., Moriguchi, Y., Rodenburg, E., Rogich, D., & Schuetz, H. (1997): Resource Flows - Material Basis for Industrial Economies -, joint publication by World Resources Institute, Wuppertal Institute, Dutch Ministry of Housing, Spatial Planning and Environment, and National Institute for Environmental Studies, World Resources Institute, 66pp.

2)       Matthews E., Amann, C., Bringezu, S., Fischer-Kowalski, M., Huettler, W., Kleijn, R., Moriguchi, Y., Ottke, C., Rodenburg, E., Rogich, D., Shandl, H., Schuetz, H., van der Voet, E., and Weisz, H. (2000), The Weight of Nations Material outflows from industrial Economies-, World Resources Institute, Washington D.C., 125pp

3) Wackernagel, M. & Rees, W. (1995): Our Ecological Footprint, New Society Publishers, 160pp.

 

関連研究課題

地球環境研究総合推進費

平成3年度     「環境資源勘定体系の確立に関する予備的研究」

平成4〜6年度 「環境資源勘定体系の確立に関する研究」

平成7〜9年度 「持続的発展のための環境と経済の統合評価手法に関する研究」

平成10〜12年度 「持続可能な国際社会に向けた環境経済統合分析手法の開発に関する研究」

 

[主な関連研究発表、論文、著書]

 

森口祐一・吉田雅哉(1997):マテリアルフロー勘定と資源輸入の環境負荷分析,エネルギー資源学会第13回エネルギーシステム・経済コンファレンス講演論文集,37-42.

森口祐一(1997):マテリアルフロー分析からみた人間活動と環境負荷,環境システム研究論文発表会, (環境システム研究,Vol.25, 557-568)

森口祐一(1997):わが国のマテリアルフローの推計と欧米諸国との比較、環境経済・政策学会1997年大会報告集、207-212.

竹本和彦・森口祐一(1998):「持続可能な発展」という概念,岩波講座地球環境学第10巻「持続可能な社会システム」(内藤・加藤編,228pp),87-126.

森口祐一 (1999), マテリアルフローからみた人間活動と環境変化, 299-325, 岩波講座地球環境学第4巻 水・物質循環系の変化,岩波書店, pp.348.

森口祐一・松井重和・斎藤聡(2000):環境・資源問題分析のための3次元物量産業連関表の試作、環太平洋産業連関分析学会第11回大会,123-127.

森口祐一・松井重和・斎藤聡(2001):環境・エネルギー・資源問題分析のための多次元物量投入産出表の試作,エネルギー資源学会第17回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集,703-708.

森口祐一(2001), マテリアルフロー分析, 150-158, 水谷広編 続・地球の限界(日科技連出版), pp.258.

 

Publications and presentations in English]

Adriaanse, A., Bringezu, S., Hammond, A., Moriguchi, Y., Rodenburg, E., Rogich, D., and Schuetz, H.(1997), Resource Flows: The Material Basis of Industrial Economies, World Resources Institute, Washington D.C., 66pp.

Moriguchi, Y. (1997) Environmental Accounting in Physical Term in Japan Preliminary Material Flow Accounts and Trade-Related Issues, Proc. ConAccount workshop, 21-23 January 1997, Wuppertal Special 4, 166-172.

Moriguchi, Y. (1997) Material Flow Indicators for the Japanese Basic Environmental Plan, Proc. ConAccount Conference, 11-12 Sempember 1997, Wuppertal Special 6, 108-114.

Moriguchi, Y. (1999) Recycling and waste management from the viewpoint of material flow accounting, Journal of Material Cycles and Waste Management, 1(1), 2-9.

Matthews E., Amann, C., Bringezu, S., Fischer-Kowalski, M., Huettler, W., Kleijn, R., Moriguchi, Y., Ottke, C., Rodenburg, E., Rogich, D., Shandl, H., Schuetz, H., van der Voet, E., and Weisz, H. (2000) The weight of nations Material outflows from industrial Economies-, World Resources Institute, Washington D.C., 125pp

Moriguchi,Y. (2001) Rapid Socio-Economic Transition and Material Flows in Japan, Population and Environment, 23(1), 105-115.

Moriguchi, Y. (2001), Lessons from Japanese MFA, Inaugural meeting of International Society for Industrial Ecology, Nordwijkerhout.

Moriguchi, Y. (2001)  Material Flow Accounting as a Tool for Industrial Ecology, EcoDesign 2001: Second International Symposium on Environmentally Conscious Design and Inverse Manufacturing, Tokyo, 880-885.

Moriguchi, Y.(2002) Material flow analysis and industrial ecology studies in Japan, in A Handbook of Industrial Ecology (R..Ayres and L. Ayres ed.), Edward Elgar, 680pp., 301-310.

Bringezu, S. & Moriguchi, Y. (2002) Material flow analysis, in A Handbook of Industrial Ecology (R..Ayres and L. Ayres ed.), Edward Elgar, 680pp. 79-90.


 

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