>マテリアルフローデータブックトップページ >目次

貿易フロー図・貿易マトリックスの作成方法

 

 貿易マトリックスとは地域ブロックおよび主要国間の貿易データをマトリックスの形で記録した数表のことで、ここに収録されている貿易マトリックスの数値データはすべて重量の単位に統一されている。貿易フロー図は世界の貿易を矢印によって地図上に表現した図版であり、これらは貿易マトリックスより作成されたものである。本章ではこれらの作成方法と見方について解説する。

 

1.      利用データ

国際連合では毎年各国から報告される貿易データを集計した貿易統計を作成しており、これを磁気媒体として提供している(以下、国連貿易統計データセットと呼ぶ)。又、1998年以降の貿易データに関しては、国連貿易データセットの貿易データを国際貿易センター(ITC)が加工を施し、Personal Computer Trade Analysis System(以下、PC-TASと呼ぶ)として提供している。作成年次は1983年、1988年、1993年、1998年、2003年の5年次とした。

 貿易マトリックスの作成にあたっては、原データの中に金額単位でしか報告されていない取引や、国によって異なる物量単位が使われている取引が存在するために、単に地域集計をするだけでなく、すべての取引を重量の単位に換算する作業が必要であった。この推計方法ついては3で詳述する。以下ではデータの特徴を示しておく。

 

(1)データ形式

 国連貿易データセットでは1つの取引に関して、輸出入区分(輸入、輸出、再輸出)、品目、報告国、相手国、取引金額、物量単位、取引物量値、集計期間に関する情報が収められている。また、輸入報告と輸出報告の2通りが存在することから、世界のすべての国が正しく報告を行えば、同じ取引が輸入データと輸出データとで正味2回記録される形になっている。

 

(2)取引の捕捉状況

 現在の報告国は165ヶ国(83年では94ヶ国、88年では84ヶ国、93年では91ヶ国、98年では100ヶ国、2003年では165ヶ国)であるが、資源を大量に消費している先進国が概ね報告を行っていることから、報告を行っていない国の貿易についても、その大部分は捕捉されているものと考えられる。しかし、報告を行っていない国同士の取引がまったく捕捉できていないという点には留意しておく必要がある。

 

(3)品目分類および分類コード

 品目分類には国際貿易統計品目分類(SITC)が用いられている。SITCにはRev.1(約1,800分類)、Rev.2(約2,600分類)、Rev.3(約4,200分類)があり、分類が細かくなるほど、品目の詳細な内訳が把握できる反面、報告国が減少する。ここでは、品目分類の細かさと報告国数のバランスを考慮し、Rev.2のデータを用いた。各品目には最大で5桁の品目コードが対応しており、0:FOOD AND LIVE ANIMAL、01:MEAT AND PREPARATIONS、011:MEAT FRESH,CHILLD,FROZENのように、桁数が増えるにつれて品目が細分化されるコード体系となっている。

 

(4)物量データの捕捉状況

 取引物量値には取引金額と異なり空欄(欠値)が存在する。欠値は、ある品目に対する報告すべてが欠値の場合と、その品目の一部の報告のみが欠値の場合がある。取引物量値の単位は、重量、体積、面積、個数など様々な単位で取り扱われており、品目により異なるだけでなく同一品目であっても報告国により異なる場合もある。

 

2.      対象品目

 貿易マトリックスの作成対象品目は、以下に示すように、自然環境から取り出された資源および加工度の低い原材料で、フロー量が比較的大きく、かつ環境面から見て重要と判断されるものとし、貴金属などフロー量の小さい資源や、機械類や化学製品など加工度の高い品目は除外した。また、石灰や砂利などの非金属鉱物も対象外とした。

 

         食料資源(肉、魚および穀物)

         木材資源(木材およびそれらの低次加工品)

         金属資源(鉱石と金属品)

         化石燃料資源(転換された燃料も含む)

 

 これらの資源について図1に示す構成で貿易マトリックスを作成した。

 

3.      貿易マトリックスの作成

 貿易マトリックスの作成フローを図2に、作成した品目のリストを表1に示す。作成した貿易マトリックスの数は50品目×3年次で延べ150である。なお、作成した貿易マトリックスのうち、大蔵貿易統計に対応する品目が存在するものについては、日本国の輸入データ(貿易マトリックスの第9列に相当する部分)と大蔵貿易統計の値を比較し両者がほぼ一致することを確認した。以下では作成フローに沿って貿易マトリックスの作成方法を説明する。

 

(1)貿易データ(PC-TAS)の変換

1998年と2003年の貿易データに関しては、PC-TAS中にある必要な貿易データを抽出した後、国連貿易統計データセットのレコード形式に変換した。また、品目コードもPC-TASではSITC Rev.3を使っているため、国際連合から提供された対応表を用いて、SITC Rev.2に書き換えた。なお、1983年、1988年、1993年のデータに関しては、国際連合から入手した貿易データをそのまま利用した。

 

(2)対象品目レコードの抽出(ワークファイル@の作成)

数百万件に上る貿易データより2で示した品目に相当するレコードを全て抽出した。

 

(3)輸出入データ調整処理(ワークファイルAの作成)

1の(1)で述べたように国連貿易データセットには輸入データと輸出データがあり、両方を使用すると報告のあった国同士の取引が2重集計されてしまうため、どちらか一方の報告を用いる必要がある。本集計では輸入データを使用することにして輸出データについては切り捨てた。ただし、切り捨てた輸出データの中には報告の無い国への輸出データが存在しており、そのデータは用いた輸入データの中には存在していない。そこで、報告の無い国への輸出データは輸入データに書き換えて利用した。また、対日本貿易については、すべて日本の報告値を用いることにして、抽出した輸入データより日本との取引データを削除するとともに、切り捨てた輸出データより日本が報告した取引を抽出し輸入データに置き換えて利用した。なお、報告のない国同士の取引は全く捕捉できない点には留意する必要がある。

また、他の知見から、明らかに間違った輸入データが報告されていると判断される場合には、輸入データを削除するとともに、切り捨てた輸出データを輸入データに置き換えて利用した。

 

(4)物量データの拡大推計処理(ワークファイルBの作成)

1のCで述べたように、国連貿易統計データセットには取引物量が欠値のレコードや重量以外の物量単位で記録されたレコードが存在する。これについては重量単位の取引物量の推計(拡大推計)を行う必要がある。そこで、以下の手法を用いて重量単位への拡大推計を行った。

 

         まず重量単位の物量値で報告されているレコードを抽出し、次にそのレコードについて取引金額と取引重量を集計し、これより単位重量あたりの価格(平均単価)を算出する。

         重量以外の単位で取引物量が報告されているレコードおよび取引物量が欠値のレコードの取引金額を平均単価で除すことで取引重量を推計する。

 

ただし、以下の品目のうち体積で記載されているものについては換算係数を乗じることで重量へ変換する処理をした後に、改めて上述の処理を施した。

 

         製材またはベニア板用丸太:0.50t/m3

         プロパン(液状):0.55t/m3

         天然ガス:0.754kg/m3

 

また、チェックのために、同一品目についてレコードごとの単価を算出して比較したところ、稀に他と桁違いになるレコードが存在することが判明した。その大半は報告時または入力時の単なるミスと考えられるがその判断は難しかった。そこで、算出した各レコードの単価とそれらの中央値を比較し、両者が2桁以上異なるレコードについては、取引物量が欠値であるものと見なすことにした。

 

(5)マトリックス形式への変換

 品目コードの桁数が少ない、いわゆる上位品目では、その下位にある異なる品目が一緒に扱われている。このような品目の中には加工度や質の違いのために単価が著しく異なるものも存在するが、ここで用いた推計方法では同一品目はすべて同一単価を用いて金額から重量へ変換されるために、このように場合には高価な品目は重量が過大に推計され安価な品目は重量が過小に推計されてしまい、推計精度が著しく落ちてしまう。これらの問題を避けるためには、上位品目については(4)で述べた推計手法を用いずに、作成された下位品目のデータを足し上げるという手法を用いる必要がある。

 また、食料資源と木材資源の貿易マトリックスを足し合わせてバイオマス資源の貿易マトリックスを作成するというように、いくつかの品目を足し合わせてSITCにはない品目の貿易マトリックスを作成する必要もあった(図1参照)。

 そこで比較的下位の品目を「ベース品目」として、まずこれらの貿易マトリックスを作成し、次にこれらの貿易マトリックスを足し上げることで、その上位の品目やSITCに存在しない品目の貿易マトリックスを作成することにした。ただし、上位品目のみが報告され下位品目が報告されていないケースが存在すると、足し上げにより一部の取引が欠落してしまうことがある。このため、足し上げ推計を行う品目については、足し上げ品目の金額計と上位品目の金額を比較することで、足し上げることに問題がないかどうかを念のために確認した。

 表2には品目の足し上げ・組み換えを行った際の対応関係を示す。このような足し上げにより貿易マトリックスを作成した品目のコードは以下のように定めている。

 

         先頭に”T”の付いた品目コードは、主要資源の大まかな分類を表現するために独自に設置した品目である。

         末尾に”A”の付いた品目コードは、Aを除くコードがSITCに存在するが、それとは異なる構成に組み換えた品目である。

         品目コードの末尾に”0”の付いた品目は、下位の品目からの足し上げによって作成した品目である。

 

@ベース品目の貿易マトリックスの作成

 国立環境研究所が開発した貿易マトリックス作成プログラム(地域集計区分と品目を指定することで、ODペアレコード形式のデータから貿易マトリックスを作成しスプレッドシート形式で出力するプログラム)を用いてワークファイルBからベース品目の貿易マトリックスを作成した。この処理によって貿易マトリックスを作成した品目は表1において、品目コードに”T”,”A”,”0”を含まない品目である。表4および表5に、集計に用いた地域ブロック区分および各地域に含まれる国名のリスト(国・地域ブロック集計コード表)をそれぞれ示す。

 

A品目足し上げ・組み換え集計

 市販の表計算ソフトを用いて、@で作成した貿易マトリックスの足し上げ・組み換え作業を実施した。

 

なお、本版の作成方法は、第2版の作成方法から一部変更を行っており、それに伴い貿易マトリックスのデータが変化している点に留意されたい。

 

4.      貿易フロー図の作成

 国立環境研究所が開発した環境資源国際収支表示システム(Acclaim)を用いて、貿易マトリックスより貿易フロー図を作成した。作図した項目のリストを表6に示す。

 

5.      貿易マトリックスおよび貿易フロー図の見方・留意点

 以下に貿易マトリックスおよび貿易フロー図についての見方および留意点等を示す。

 

(1)貿易マトリックス

   マトリックスの行方向が輸出側、列方向が輸入側を表す。

   各貿易マトリックスには識別コードが与えられている。これはYY-XXXXXで構成され、YYはデータ年次(西暦)の下2桁、XXXXXは品目分類コード(最大5桁)である。

   本データは国連貿易統計データセットより作成した推計値であることに十分留意する必要がある。

 

(2)貿易フロー図

   矢印のフローは2つの国・地域間の正味の貿易量(収支)を表現している。

   貿易フロー図の特性上、同一地域内(例えば欧州諸国相互間)のフローは表現されない。これについては貿易マトリックスを参照されたい。

   貿易フロー図の特性上、アジア地域版では「その他東・南アジア」との貿易は表現されない。これについては貿易マトリックスを参照されたい。

   アジア地域版では図の見やすさを考慮したため、アジア諸国外の地域ブロック同士の貿易フローは表示していない。

 

(3)再輸出

   1983年-1993年までの国連貿易データセットでは再輸出に関する貿易データも扱われている。そこで再輸出に関するデータは輸出に置き換えて扱った。

   1998年-2003年のPC-TASのデータでは再輸出に関するデータは扱われていない。


 

図表一覧

図1 貿易マトリックス作成品目の構成ツリー図

図2 貿易マトリックス作成作業のフロー

表1 貿易マトリックス作成品目

表2 貿易マトリックスの品目集約対応表

表3 品目コード一覧

表4 貿易マトリックスの国・地域ブロック区分表

表5 貿易マトリックスの国・地域ブロック集計コード表

表6 貿易フロー図作成項目リスト

 

>マテリアルフローデータブックトップページ >目次