>マテリアルフローデータブックトップページ >目次

はじめに

 

日本をはじめとする先進工業国は、大量の資源を自然環境から採取し、加工して様々な物資を大量に生み出し、これを消費することによって便利で豊かな生活を享受している。一方、生産・消費段階で生じる汚染物質や、消費された物資は廃棄物として自然環境に戻されている。こうした自然環境と人間活動の間での物質循環の規模は、自然環境が持つ資源の再生能力や廃棄物の浄化能力を大きく超えている。すなわち今日の多くの環境問題は、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動のあり方そのものへと結びついていると見ることができる。
 資源の利用可能量や環境の自浄能力が有限であることの認識は、持続可能な発展を論じる上での基本認識の一つであろう。アジェンダ21の第4章においては、こうした現在の先進工業国の生産と消費の形態が、持続不可能なものであることが指摘され、ヨハネスブルグで開催されたリオ+10では、「持続可能な消費」が重要なキーワードとなった。
 こうした大量の物資の消費に特徴付けられた今日の経済社会と環境問題の関わりを分析する上では、自然環境と経済活動の間、およびさまざまな経済主体間の物質やエネルギーのフローを体系的に把握することが不可欠である。こうした目的には、マテリアルフロー勘定あるいはマテリアルフロー分析と言われる手段が有効である。国立環境研究所においては、1991年から地球環境研究総合推進費によって、環境資源勘定に関する研究に取り組んできた。とくに、大量の資源を輸入に頼る日本にとっては、地球規模の問題を環境資源勘定に反映させることが重要課題であり、本データブックで取り上げる自然資源の貿易データはその過程で整備してきたものである。
 一方、米国・ドイツ・オランダ・オーストリアなどの諸外国においても、マテリアルフロー勘定に対する取り組みがおこなわれつつあり、国際的な研究協力も進んでいる。これらの国々との共同研究の最初の成果として1997年に
Resource Flowsを、第2の成果として2000年にThe Weight of Nationsを発表した。

http://materials.wri.org/pubs_newsviews.cfm?PubID=2742,http://materials.wri. org/weightofnations-pub-3023.html
この国際共同研究の最大の特徴は、従来のマテリアルフローの把握から漏れていた、「隠れたフロー」(ドイツの研究者達は元来、「エコロジカル・リュックサック」と名づけていた)、つまり採取された資源量は、実際に経済活動に投入された量をはるかに上回る、という点に着目したところにある。日本への輸入量の絶対量の大きさを考えれば、「隠れたフロー」における日本の占める役割が大きい事がわかる。
 本データブックは、このような背景を踏まえたうえで、資源の貿易という側面から世界の中における日本の占める位置を再認識し、資源に関連する環境問題を考える上での参考資料として活用されることを狙ったものである。データブックには、国連貿易統計から抽出、集計した主要な自然資源についての貿易量のデータを、地図および数表の形で収録している。この第3版では、新たに2003年のデータを加え、第2版と同様、和英併記とするとともに、地図・数表を収録したCD-ROMを添付している。
 本データブックは、国際貿易という側面から地球規模の問題を学ぶ、第1歩を示すことを意図している。「揺りかごから墓場まで」(ライフサイクル)における、製品や企業活動を環境面から評価する際の参考として、また、環境経済モデルなどの調査研究の基礎データとしても活用いただきたい。

 

2006年3月

森口 祐一

橋本 征二

>マテリアルフローデータブックトップページ >目次