吸収源の基礎知識

 

UNFCCCにおける吸収源に関する検討経緯

  ここでは、これまでの気候変動枠組条約に関連する国際的な検討について、吸収源に関する事項を中心に整理しています。

 1992年 気候変動枠組条約 採択
 1994年 気候変動枠組条約 発効
 改訂版1996年IPCC温室効果ガス国家目録ガイドライン
 1997年 COP3において京都議定書採択
 2000年 土地利用、土地利用変化、林業に関する特別報告書
 2001年 COP7においてマラケシュ合意
 2003年 第21回IPCC全体会合においてLULUCF-GPG採択
 2003年 COP9においてLULUCF-GPGが歓迎されるとともに、吸収源CDMの定義・ルール・手続き合意
 2004年 COP10において京都議定書報告におけるGPG-LULUCFの適用が決定
 2005年2月16日 京都議定書発効


1992年 気候変動枠組条約 採択

 地球温暖化防止に関する関心が高まり、各国が協力して取組を進めることとなり、気候変動枠組条約(UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change)が検討され、1992年に採択されました。

 気候変動枠組条約では、その究極的な目的を、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」としています。また、「そのような水準は、生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ、経済開発が持続可能な態様で進行することができるような期間内に達成されるべき」としています(条約第2条)。

 森林に関連する用語として、「吸収源(sink)」及び「貯蔵庫(reservoir)」があります。気候変動枠組条約では、「吸収源」を「温室効果ガス、エアロゾル、または温室効果ガスの前駆物質を大気中から除去する作用、活動または仕組み」と定義し、「貯蔵庫」を「温室効果ガスまたはその前駆物質を貯蔵する気候系の構成要素」と定義しています(条約第1条)。

 また、条約の締約国は、温室効果ガスの吸収源及び貯蔵庫(特に、バイオマス、森林、海その他陸上、沿岸及び海洋の生態系)の持続可能な管理を促進すること、並びにこのような吸収源及び貯蔵庫の保全(適当な場合には強化)を促進し並びにこれらについて協力することが責務とされています(条約第4条)。

【資料】
気候変動枠組条約(UNFCCCウェブサイト)
http://unfccc.int/resource/docs/convkp/conveng.pdf

気候変動枠組条約(日本語)(環境省京都メカニズム情報コーナー)
http://www.env.go.jp/earth/cop3/kaigi/jouyaku.html

気候変動枠組条約の締約国リスト(UNFCCCウェブサイト)
http://unfccc.int/files/essential_background/kyoto_protocol/application/pdf/kpstats.pdf

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1994年 気候変動枠組条約 発効

 気候変動枠組条約発効の要件である50ヶ国目の批准があり、同条約が発効しました。なお、2004年5月24日現在、条約締約国は189ヶ国です。

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改訂版1996年IPCC温室効果ガス国家目録ガイドライン

 
気候変動枠組条約の締約国は、締約国会議が合意する比較可能な方法を用いて、温室効果ガスの排出及び吸収の目録を作成し、定期的に更新し、公表し、締約国会議に提供することが責務とされています(条約第4条)。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)は、温室効果ガスの排出及び吸収の目録作成に用いる方法を示したガイドラインを作成し、1994年に承認され、1995年に発行されました。その後、同ガイドラインに改訂が加えられ、改訂版1996年IPCC温室効果ガス国家目録ガイドラインが発行されました。なお、1997年に京都で開催されたCOP3において、改訂版1996年IPCC温室効果ガス目録ガイドラインは、第一約束期間における法的拘束力のある目標の算定における温室効果ガス排出量・吸収量の推計方法として用いられるべきであることが再確認されています。

 改訂版1996年IPCC温室効果ガス目録ガイドラインは、3部から構成されています(下表参照)。吸収源については、6つの主な排出源/吸収源カテゴリの1つである「土地利用変化及び森林」において、排出量及び吸収量の算定方法が示されています(第2部)。

表 改訂版1996年IPCC温室効果ガス目録ガイドラインの構成
第1部
報告インストラクション
 一貫性のある国家目録データの作成と文書化、発信について、ステップ・バイ・ステップで説明されています。
第2部
ワークブック
 6つの主な排出源/吸収源カテゴリ(エネルギー、工業プロセス、有機溶剤及び他の製品の使用、農業、土地利用変化及び森林、廃棄物)別に、CO2やCH4等の排出量及び吸収量の算定について、ステップ・バイ・ステップで説明されています。
第3部
参照マニュアル
 温室効果ガス排出量及び吸収量の推定方法に関する情報の要約等が提供されています。また、目録作成手法に関する科学的基礎情報の要約や、参考文献情報も提供されています。


【資料】
1996年改訂版IPCCガイドライン:(IPCC国別温室効果ガスインベントリープログラム(NGGIP:National Greenhouse Gas Inventories Programme)ウェブサイト)
http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/gl/invs1.htm

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1997年 COP3において京都議定書採択

 気候変動枠組条約では、温室効果ガスの削減に関する義務的な目標が示されてはおらず、また、2000年以降の取組が定められていなかったため、COP1以降、これらに関する検討が進められ、1997年、京都で開催されたCOP3において京都議定書が採択されました。

 京都議定書は、先進国に対して第一約束期間(2008~2012年)における温室効果ガス削減の数値目標を定め、先進国全体で温室効果ガスを約5%削減しようとするものです(議定書3条)。先進国の数値目標には、法的拘束力があります。京都議定書の批准国は、気候変動枠組条約に基づく目録に、この数値目標達成に関する補足的な情報を含めることとされています(議定書7条)。

 京都議定書は、55ヶ国の条約締約国が議定書を批准し、かつ、批准した先進国の合計のCO2(1990年)が全先進国排出量の55%以上となった時点の90日後に発効されます。1990年の排出量が最大(36.1%)である米国は京都議定書からの離脱を表明しているため、京都議定書が発効するためには、1990年の排出量が17.4%であるロシアの批准が焦点となっていました。2004年11月18日にロシアが京都議定書を批准し、発効要件が満たされたため、2005年2月16日に京都議定書が発効しました。2005年5月27日現在、批准国は150ヶ国であり、批准先進国の1990年排出量は全先進国排出量の61.6%となっています。

 京都議定書では、各国が数値目標を達成するための補足的な仕組みとして、「共同実施(JI:Joint Implementation)」、「クリーン開発メカニズム(CDM:Clean Development Mechanism)」、「排出量取引(Emission Trading)」が導入されました。

 吸収源については、温室効果ガス削減目標に、1990年以降の新規植林(A:Afforestation)、再植林(R:Reforestation)、森林減少(D:Deforestation)による排出量・吸収量が算入されることが示されました(議定書3条3項)。また、農業土壌や土地利用変化、林業における温室効果ガスの排出・吸収に関係する追加的な人為活動については、1990年以降に実施されたものであれば、それらの排出量・吸収量を第一約束期間の温室効果ガス削減目標に算入できることが示されました(議定書3条4項)。

【資料】
京都議定書(UNFCCCウェブサイト)
http://unfccc.int/resource/docs/convkp/kpeng.pdf

京都議定書(日本語)(環境省京都メカニズム情報コーナー)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/kpeng_j.pdf

京都議定書の批准国リスト(UNFCCCウェブサイト)
http://unfccc.int/resource/kpstats.pdf

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2000年 土地利用、土地利用変化、林業に関する特別報告書

 
IPCCにおいて、改訂版1996年IPCCガイドラインを補完する、算定・報告に関する良好手法をまとめた指針(GPG:Good Practice Guidance)が検討され、LULUCF分野以外の排出源5分野については、「国家温室効果ガス目録におけるグッドプラクティスガイダンスと不確実性管理」がまとめられました。しかし、土地利用、土地利用変化、林業(LULUCF:Land Use, Land-Use Change, and Forestry)分野については、吸収源の扱いに関する合意が得られていなかったため、GPGの作成にいたらず、特別報告書がまとめられました。

 特別報告書は、地球規模の炭素循環とARD及び追加的人為活動に関する科学的及び技術的情報を京都議定書締約国に提供することを目的としています。さらに、議定書締約国による、定義や算定ルールに関する検討に資するものとなっています。

【資料】
土地利用、土地利用変化、林業に関する特別報告書 政策立案者のための概要(IPCCウェブサイト)
http://www.ipcc.ch/pub/srlulucf-e.pdf

土地利用、土地利用変化、林業に関する特別報告書 政策立案者のための概要 仮訳(日本語)(地球産業文化研究所ウェブサイト)
http://www.gispri.or.jp/kankyo/ipcc/pdf/srlulucf.pdf

国家温室効果ガス目録におけるグッドプラクティスガイダンスと不確実性管理(IPCC-NGGIPウェブサイト)
http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/gp/english/

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2001年 COP7においてマラケシュ合意

 2001年、マラケシュで開催されたCOP7において、京都議定書を実施していくために必要な京都メカニズムや遵守制度などの詳細なルールが合意されました。

 吸収源については、COP/MOP(京都議定書の締約国の会合となる締約国会議)第一回会合の決定草案(-/CMP.1)を示され、同草案を採択するよう推奨されました。

 同草案においては、京都議定書3条3項及び3条4項の下での「森林」の定義や、京都議定書3条3項のARDについて定義が示されました。

京都議定書3条3項及び3条4項の下での「森林」の定義
「森林」は、その場において、成熟時に
  • 最低2~5mの樹高に達する可能性のある樹木で、
  • 樹冠被覆率が10~30%以上の、
  • 最小面積0.05~1.0haの土地
である。森林は、様々な層の樹木と林床植物が地面の多くを覆っている閉鎖林と疎林のいずれかで構成されうる。樹冠被覆率が10~30%に達していない、あるいは、樹高2~5mに達していない若齢の自然林分や全ての植林が森林に含まれる。また、通常は森林地域の一部を形成しているが、伐採のような人間による干渉や自然要因により、一時的に無立木になっているものの、森林に戻ることが期待されている地域も同様である。
※附属書Ⅰ締約国は、上記の値の範囲から1つの値を選択する。その選択は、第一約束期間中、変更することはできない。

ARDの定義
新規植林
(A:Afforestation)
少なくとも50年間、森林ではなかった土地を、植林、播種、そして/または、自然の種子源の人為的増強により、直接的に人為的な転換を行うこと

再植林
(R:Reforestation)
森林地であったが非森林地に転換されていた土地を、植林、播種、そして/または、自然の種子源の人為的増強を通じて、直接的、人為的に非森林地を森林地に転換すること

森林減少
(D:Deforestation)
森林地から非森林地に、直接的に人為的な転換を行うこと

図:「京都議定書における吸収源プロジェクトに関する国際的動向」(環境庁国立環境研究所,2000)より引用

 また、京都議定書3条4項の追加的人為活動については、第一約束期間において、「植生回復(RV:Revegetation)」、「森林管理(FM:Forest management)」、「農地管理(CM:Cropland management)」、「牧草地管理(GM:Grazing land management)」の4つの活動のいずれか、または全ての吸収量・排出量を算定に入れることができることとされました。

FMの定義
森林管理
(FM:Forest management)
 森林の、関連する生態的(生物多様性を含む)、経済的、社会的機能を、持続可能な形で満たすことを目的とした森林地の管理(stewardship)と利用のための実践システム

 さらに、FMによる吸収量ついては、ARDにより正味の排出が生じる場合は、9MtC/yrを上限として相殺に用いることが可能であるとされました。そして、この相殺分及び、FMのJIプロジェクトによる分を除いたFMによる吸収量については、各国の温室効果ガス排出削減割当量へ加算できる上限が示されました。各国の上限は、下表に示すとおりです。

表 各国の上限値国名

国名 上限値
(MtC/yr)
オーストラリア
0.00
オーストリア
0.63
ベラルーシ  
ベルギー
0.03
ブルガリア
0.37
カナダ
12.00
クロアチア  
チェコ
0.32
デンマーク
0.05
エストニア
0.10
フィンランド
0.16
フランス
0.88
ドイツ
1.24
国名 上限値
(MtC/yr)
ギリシャ
0.09
ハンガリー
0.29
アイスランド
0.00
アイルランド
0.05
イタリア
0.18
日本
13.00
ラトビア
0.34
リヒテンシュタイン
0.01
リトアニア
0.28
ルクセンブルグ
0.01
モナコ
0.00
オランダ
0.01
ニュージーランド
0.20
国名 上限値
(MtC/yr)
ノルウェー
0.40
ポーランド
0.82
ポルトガル
0.22
ルーマニア
1.10
ロシア
17.63
スロバキア
0.50
スロベニア
0.36
スペイン
0.67
スウェーデン
0.58
スイス
0.50
ウクライナ
1.11
英国
0.37


 LULUCF分野におけるCDMについては、新規植林(A)及び再植林(R)のみが対象となることが定められました。各国の温室効果ガス排出削減割当量へ加算できる上限が、第一約束期間においては、基準年排出量の1%の5倍とすることが示されました。

【資料】
マラケシュ合意(FCCC/CP/2001/13/Add.1)(UNFCCCウェブサイト)
http://unfccc.int/resource/docs/cop7/13a01.pdf

マラケシュ合意の概要(日本語)(環境省京都メカニズム情報コーナー)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/gaiyo_m.pdf

マラケシュ合意(FCCC/CP/2001/13/Add.1)暫定和訳(地球産業文化研究所ウェブサイト)
http://www.gispri.or.jp/kankyo/unfccc/pdf/cop7_11.pdf

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2003年 第21回IPCC全体会合においてLULUCF-GPG採択
2003年 COP9においてLULUCF-GPGが歓迎されるとともに、吸収源CDMの定義・ルール・手続き合意

 IPCCにより、LULUCF分野における良好手法指針であるGPG-LULUCFが作成され、第21回IPCC全体会合において採択されました。COP9では、GPG-LULUCFが「歓迎(welcome)」され、条約の附属書I国は、2005年以降の条約目録報告において、GPG-LULUCFを使うべきとされました。しかし、京都議定書報告に関する部分については、2004年12月に開催されるCOP10において、更なる検討と決定がなされるまでは除外されることとなりました。

 GPG-LULUCFについては、「GPG最新情報」において、その内容を紹介します。

 また、COP9においては、吸収源CDMの定義やルール、手続きが合意されました。「吸収源CDMの基礎知識」において、その内容を紹介します。

【資料】
LULUCF-GPG(IPCC-NGGIPウェブサイト)
http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/gpglulucf/gpglulucf_contents.htm

CDMに関するCOP9決議(FCCC/CP/2003/6/Add.2)(UNFCCCウェブサイト)
http://unfccc.int/resource/docs/cop9/06a02.pdf

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2004年 COP10において京都議定書報告におけるGPG-LULUCFの適用が決定

 COP10では、COP/MOP1決定案(京都議定書3条3項及び4項下のLULUCF活動のためのグッドプラクティスガイダンス)が作成されました。同決定案では、第一約束期間の京都議定書報告においてマラケシュ合意等と整合性を保ちつつGPG-LULUCFの4章を適用することが規定されました。また、吸収源CDMについては、小規模A/R CDMに関する最終的な詰めが行われ、合意に至りました。

【資料】
GPG-LULUCF:IPCC-NGGIPウェブサイト
http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/gpglulucf/gpglulucf_contents.htm

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2005年2月16日 京都議定書発効

 2004年11月18日にロシアが京都議定書を批准し、発効要件が満たされたため、2005年2月16日に京都議定書が発効しました。

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