吸収源CDMの基礎知識

 

COP9で決定したルール

 吸収源CDMを実施するための参加資格
 吸収源CDMとして認められる活動
 プロジェクト設計

(1) ベースライン
(2) 追加性
(3) モニタリング
(4) リーケージ
(5) 吸収量の算定方法
(6) クレジット
(7) 有効化審査
(8) 検証・認証
(9) その他



吸収源CDMを実施するための参加資格

  • 先進国(附属書I国)の参加資格:京都議定書の批准、初期割当量の確定、国家登録簿の設置など
  • 途上国(非附属書I国)の参加資格:DNA(指定国家機関)の設置、森林の定義*の選択等
森林の定義は、途上国が以下の最低値より選択する。
  • 最低樹冠率:10~30 %
  • 最小面積:0.05~1.0 ha
  • 最低樹高:2~5 m

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吸収源CDMとして認められる活動

 京都議定書の第1約束期間中は、以下の2種類の活動が吸収源CDMとして認めらました。

  • 新規植林:50年間森林でなかった土地を森林に転換する行為。
  • 再植林:1989年末以来森林でない土地を森林に転換する行為。

 また、いわゆる森林管理による吸収量の増加分は、第1約束期間中においては吸収源CDMとして認められないことが決まりました。

 これらの要件を満たした吸収源CDMプロジェクトを実施する際に、事業者はプロジェクト設計書(Project Design Document:PDD)を作成する必要があります。ここではCOP9において決定されたルールに基づき、事業者が検討する必要がある項目を説明します。

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プロジェクト設計

(1) ベースライン

 ベースラインとは、吸収源CDMプロジェクトが実施されなかった場合に、起こったであろう炭素蓄積の変化を表すシナリオと定義されています。ベースラインは、後にプロジェクトによる実際の吸収量を確定する際に重要な比較点ですので、その設定は理論性と透明性が必要とされています。

 例えば、現在放棄された草地があるとします。事業者がこの場所でプロジェクトを行う場合に、ベースラインを設定しますが、吸収源CDMプロジェクトが行われていなければ、この土地は自然に回復し、「森林になっていたのか?」「低木林になっていたのか?」「草地のままだったのか?」など、オプションはいろいろあります。これらのオプションの中から、もっとも論理性・透明性があり妥当と考えられるシナリオをベースラインとして選択する必要があります。

(a) ベースライン純吸収量

 ベースラインにおける吸収量は、「ベースライン純吸収量」と呼ばれ具体的な設定は、下記の項目を考慮して設定します。

  • アプローチ、前提、方法論、パラメータ、データソース、追加性などの選択に関して不確実性を考慮し、透明性があり保守的な方法で設定する。
  • 個別のプロジェクトベースで設定する。
  • 歴史的な土地利用、慣習、経済動向、国策、セクター別の政策などを考慮し、設定する。

(b) ベースラインアプローチ

 事業者は、ベースライン方法論を選択する際に、プロジェクト活動に最も適していると考えられるアプローチを次の3つから選択する必要があります。

  • 既存の実質的な、あるいは過去の、炭素蓄積の変化。
  • 投資に対する障害を考慮して、経済的に魅力的な活動を反映した、炭素蓄積の変化。
  • プロジェクト開始時に最も起こりうる可能性の高い土地利用を反映した、炭素蓄積の変化。

(c) ベースライン方法論

 ベースラインの設定(モニタリング計画も同様)は、ある一定の条件下(プロジェクトタイプ、生態系、樹種など)で、ベースラインの設定方法を説明した「方法論」に基づいて行うこととなっています。この方法論は、事業者(またはコンサルタント等)により作成されたものをARワーキンググループ(新規植林・再植林ワーキンググループ、CDM理事会の下部組織)と一部のメソドロジーパネルのメンバーが評価します。ARワーキンググループは、CDM理事会に対して提案された方法論を承認すべきか否かを提案します。その後CDM理事会が最終的な評価を行い、妥当と判断した場合に承認済み方法論として登録されます。

 事業者はこの承認済み方法論を使用してベースラインを設定することになります。また、承認済み方法論が存在しない場合は、新しい方法論をPDDと共にCDM理事会に提出し、承認してもらう必要があります。詳細は、以下のウェブサイトで入手可能です。

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(2) 追加性

 追加性は、CDMプロジェクトの重要な概念の1つで、吸収源CDMプロジェクトが実施されなかった場合に、起こったであろう吸収量より、プロジェクトによる吸収量が増加した場合に追加的とみなされます。即ち、吸収源CDMプロジェクトによる純吸収量がベースライン純吸収量を上回る場合において追加的となります。図で示すと以下のようになります。

一見単純な概念のように思われますが、登録されたCDMプロジェクトがなければ、当該プロジェクトが行われなかったという証明は、ベースラインの証明と同様に、論理的で透明性がある方法が要求されています。これは、CDMの有無に関わらず行われていたプロジェクト(Business as Usual(BAU)プロジェクトと呼ばれる)にクレジットを発行することを避ける目的があるためと考えられます。

 追加性の議論が進んでいる排出源CDMにおいては、CDM理事会から追加性証明のツールが示されています。このツールは、吸収源CDMにおいても検討されており、今後パブリックコメントなどを経て正式に決定される予定です。排出源CDMにおける追加性証明ツールの概要は以下のとおりです。

ステップ0: 2000 年以降開始プロジェクトのスクリーニング
ステップ1: 既存の法律に従った場合の代替案の特定
ステップ2: 投資分析
ステップ3: バリア分析
ステップ4: 慣習分析
ステップ5: CDM 登録による影響

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(3) モニタリング

 実際の事業が開始すると、事業者はプロジェクトによる吸収量を推定するためにモニタリングをする必要があります。このモニタリングは、計画としてPDDに含める必要があり、ベースラインと並び重要な項目の1つとなっています。

 モニタリング計画に含めるべき具体的な内容には、以下の項目が含まれます。

  • クレジット期間中の実際の純吸収量を推定するために必要な関連データの収集・保管。
  • クレジット期間中のベースライン純吸収量を推定するために必要な関連データの収集・保管。
  • クレジット期間中に、リーケージの可能性のある排出源の特定及び必要な関連データの収集・保管。

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(4) リーケージ

 リーケージは、吸収源CDMのプロジェクトバウンダリー外の、プロジェクトに起因する排出の増加と定義されており、最終的なプロジェクトによる吸収量を推定する上で必要になる項目です。リーケージの例としては、ある場所においてプロジェクトを行った結果、その土地を利用していた住民が他の場所で伐採などをして、プロジェクトバウンダリー外で温室効果ガスの排出が起こる場合などが考えられます。

 また、吸収源CDMプロジェクトの設計は、リーケージを最小限に抑えるようにすることが求められています。

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(5) 吸収量の算定方法

 プロジェクトによる実際の吸収量は、純人為的吸収量と呼ばれ、実際の純吸収から、純人為的吸収量、ベースライン純吸収量、リーケージを差し引くことで求められます(下図参照)。

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(6) クレジット

(a) クレジット発生期間

クレジットが発行される期間は以下のいずれかを選択することができます。

  • 最大で20年間、更新は2回まで可(合計60年間)
  • 最大で30年間、更新は不可

(b) 短期CER(Temporary CER:tCER)と長期CER(Long-term CER:lCER)

 吸収源CDMで議論となっていた、非永続性(一旦森林に固定された炭素が火災、伐採などで再び大気中へ放出され、固定が永続的でないこと)は、tCERとlCERの2種類のクレジットによって対応することが決まりました。

それぞれの特徴は、以下の通りです。

項目 tCER lCER
目標達成とCERの繰越 ・クレジットを使用できるのは、クレジットが発行された約束期間内。
・次期約束期間への繰越は不可。
CERの失効 ・クレジットが発行された約束期間の次の約束期間終了時に失効(失効後は移転不可)。・償却口座または補填口座に移転されたtCERは失効前に、AAU※1 、ERU※2 、CER、RMU※3、tCERで補填する(lCERでは補填不可)。 ・当該クレジット発生期間終了時※4に失効(失効後は移転不可)。
・ AAU、ERU、CER、RMUで補填。tCERでは補填不可。
CERの再発行 ・前回認証時の吸収量が維持されている場合は、tCERを再発行することが可能。 ・ 前回認証時の吸収量が増減している場合は、その増減に見合ったlCERを追加発行または、削除する。
補填口座 ・tCER失効前にtCERを補填する目的で設置する。 ・ lCER失効前にlCERを補填する目的で設置する。
・ 前回行った認証時より吸収量が減少している場合にlCERを補填する。

(林野庁資料より作成)
※1 AAU:Assigned Amount Unit
※2 ERU:Emission Reduction Unit
※3 RMU:Removal Unit
※4 更新可能なクレジット発生期間の場合は、最終クレジット発生期間終了時。

図 tCERのクレジット発行、失効、再発行

図 lCERのクレジット発行、失効、再発行

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(7) 有効化審査

 上記(A)から(F)で扱った項目は、PDDにまとめられ、第三者機関によって有効化審査(Validation)を受けます。この審査は、CDM理事会に認定された指定運営機関(Designated Operational Entity:DOE)と呼ばれる機関が行います。DOEは、事業者が提出したPDDに基づき、吸収源CDMプロジェクトの有効性について評価を行います。

 審査を無事終了したプロジェクトは、その後CDM理事会において問題がないと判断されれば、CDMプロジェクトとして正式に登録されます。審査対象となる項目は以下の通りです。

  • ベースライン設定
  • 追加性
  • モニタリング計画
  • 社会経済及び環境影響に関する書類
  • 利害関係者の意見の募集と、意見について考慮した内容に関する報告書
  • 非永続性に対処するためのアプローチ、等

 CDM理事会に正式に登録された吸収源CDMプロジェクトは、その後モニタリング計画に沿った吸収量のモニタリングを行うことになります。そして、モニタリング結果からプロジェクトの純人為的吸収量を算定し、検証(Verification)を行い、吸収量の確定を行います。

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(8) 検証・認証

(a) 検証(Verification)

 検証は、吸収源CDMプロジェクトによる吸収量の定期的な審査と事後の確定であると定義されています。即ち、プロジェクトが有効化審査で認められた吸収源CDMのルールに則っているか、モニタリングがきちんと行われているかなどを確認すると同時に、PDDに記述された方法によって求めた、実際の純人為的吸収量を確定する行為であると言えます。

(b) 認証(Certification)

 認証は、吸収源CDMプロジェクトを検証した内容を文書で証明したものです。

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(9) その他

(a) 環境及び社会経済影響

 事業者は、環境及び社会経済影響の分析を行う必要があります。具体的には、以下のような項目が挙げられています。

  • 環境:生態系、生物多様性など
  • 社会:地域社会、土地所有、食料、雇用など

(b) 小規模吸収源CDM

 年間吸収量が8,000 tCO2までの小規模植林を対象とし、これを超えて吸収した分についてはカウントできないことが決定しました。なお、小規模吸収源CDMのルールは、COP10(2004年12月アルゼンチン)で決定しました。

(c) 吸収源CDMワーキンググループ

 第14回CDM理事会で、吸収源CDMワーキンググループの正式な設置が合意されました。ワーキンググループは、2005年6月までに4回開催されており、その間5つの提案された新方法論(ARNM0001~0005)が審査されました。提案された方法論は、今までのところ全て不合格の”c”判定となってしまいました。また、ARNM0001とARNM0002は、その後のCDM理事会においても”c”判定となりました。

 吸収源CDMワーキンググループは、今後吸収源CDMのPDDフォーマットの作成、今後提案される新方法論の評価、新方法論を承認済み方法論へ修正する作業、追加性証明ツールの開発、小規模吸収源CDMの簡素化方法論の開発などを行う予定です。

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