CGERリポート

CGER’S SUPERCOMPUTER MONOGRAGH REPORT Vol.11

Development of process-based NICE model and simulation of ecosystem dynamics in the catchment of East Asia (Part I)
「統合型流域環境管理モデル(NICEモデル)の開発及び東アジア地域の流域生態系のシミュレーション」

中山忠暢(国立環境研究所流域圏環境管理研究プロジェクト)
渡辺正孝(慶応大学)

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概要 - 100p -

本モノグラフで対象とする東アジア地域では、様々な人間活動に伴って流域の生態系機能が大きく変化してきている(図1)。このような様々な環境資源の枯渇・劣化・悪化という状況に対して、生態系機能を定量的に評価・予測し持続的発展のための科学的根拠に基づいた政策提言を行うことは非常に重要である。

本モノグラフでは、地上観測・衛星データ・数値モデルを統合することによって、水・熱・物質循環の変化に伴う生態系機能の変化を評価・予測する手法を紹介している。特に、数値モデルとして、執筆者が中心となってこれまでに開発を行ってきた3次元グリッド型の統合型流域管理NICE (NIES Integrated Catchment-based Eco-hydrology) モデルについて、モデルの概念・スキーム等を支配方程式や図を通して説明している(図2)。NICEモデルは表面流・不飽和流・地下水流・河川流・湖沼間(及び大気域・海域)での水・熱・物質の相互作用を考慮したモデルであり、MODIS等の衛星データ及び現地観測データと同化することで植生の季節変化に応じた水・熱・物質循環のシミュレーションが可能である。

NICEモデルを用いた大規模シミュレーションによって中国長江及び黄河流域、関東平野及び東京湾流域、霞ヶ浦流域、釧路湿原、等での研究を進めており、本モノグラフ(PartI)ではその中からNICEモデルの初期開発段階で得られてきた成果の一部を紹介している。特に、これまで定性的に指摘されてきた釧路湿原域での乾燥化をシミュレーションによって定量的に解明(図3)、「釧路湿原における自然再生事業」によってわれている河道再蛇行化の効果の予測シミュレーション(図4)、及び、水循環が大きく変化してきた中国華北平原における地下水位の再現シミュレーション(図5)、等の、主に自然地と農地を対象としたモデル適用結果について紹介している。

現在、NICEモデルは東アジア地域の様々な生態系機能を評価できるようにさらに進化しており、モデル発展・成熟段階での成果については今後Part II以降で紹介する予定である。

図1 水・熱・物質循環の変化による生態系機能劣化の評価を行う本研究の対象領域
図1 水・熱・物質循環の変化による生態系機能劣化の評価を行う本研究の対象領域。
図2 執筆者が中心になって開発してきた統合型流域環境管理NICEモデルの概念図
図2 執筆者が中心になって開発してきた統合型流域環境管理NICE(NIES Integrated Catchment-based Eco-hydrology)モデルの概念図。
図3 釧路湿原の地下水位(地表面に対する相対値)と土壌水分量のシミュレーション結果
図3 釧路湿原の地下水位(地表面に対する相対値)と土壌水分量のシミュレーション結果。楕円で囲んだ領域で特に値が大きく減少し、湿原の乾燥化が進行していることを示している。
図4 河道の再蛇行化による河川流量の変化予測シミュレーション結果
図4 河道の再蛇行化による河川流量の変化予測シミュレーション結果(a:上流→d:下流)。再蛇行化によって基底流量は増加、洪水ピーク流量は減少し、湿原生態系の回復に大きな効果があることが予想される。

図5 中国華北平原における地下水位(海抜0mからの値)の再現シミュレーション結果
図5 中国華北平原における地下水位(海抜0mからの値)の再現シミュレーション結果。水需要の増加に伴って年とともに地下水位が急激に低下してきた様子がシミュレーションによって再現された。