CGERリポート

CGER'S SUPERCOMPUTER MONOGRAPH REPORT Vol.28

Development of an integrated land surface model incorporating ecosystems, human water management, crop growth, and land-use change:
MIROC-INTEG-LAND
陸域統合モデル MIROC-INTEG-LAND の開発:
全球陸面・生態系・水資源・作物・土地利用モデルの結合

YOKOHATA T.

PDFをご覧いただくには別途対応アプリケーションが必要になる場合があります

人間による二酸化炭素排出量は、その86%が化石燃料の燃焼により、残りが森林伐採などの土地利用によると考えられています。人口増加に対する穀物生産のために、森林を伐採するなどして、特に発展途上国で、農地の拡大が進んでいます。伐採された森林が時間をかけて分解されることにより、二酸化炭素が大気中に放出されます。森林伐採と農地の拡大は、二酸化炭素の放出をもたらすとともに、生物多様性にも影響を与えます。この一方で、気候を安定化させるための重要な対策として、化石燃料の代わりにバイオ燃料作物を増産し、エネルギー生産過程で発生する二酸化炭素を回収して貯蔵することが考えられています。バイオ燃料作物を増産させるためには、作物を栽培するための広大な土地が必要となります。また、気候変動によって乾燥化が進む地域もある中で、食料やバイオ燃料のための作物を生育するためには、大量の水が必要となります。

将来起こりえる気候変動を考慮しつつ、食料やバイオエネルギー生産のために必要な土地や水資源を確保できるか、気候変動が生態系に及ぼす変化を通して人間社会はどのような影響を受けるのか、気候変動そのものやそれによって生じる影響を最小限に抑えるためにはどうしたらよいかを論じるためには、地球環境と人間活動を同時に取り扱う数値モデルを利用することにより、様々な過程の相互作用を考慮した分析を行うことが重要です。そこで私たちは気候変動に伴う陸域の土壌水分や河川流量の変化、灌漑やダムなどの操作、食料やバイオ燃料のための作物の成長、人間による土地利用の変化、自然生態系による温室効果ガスの吸収と放出を全球的に記述することのできる陸域統合モデル MIROC-INTEG-LAND(MIROC INTEGrated LAND surface model:図)の開発を行いました。

今後数世紀にわたる地球システムと人間活動の挙動を分析することは、地球環境の将来を知り、私たちの社会をどう変えていくかにとって非常に重要な課題です。このため、MIROC-INTEG-LANDのような、地球—人間システムの相互作用を考慮したモデルを利用した検討を行うことが重要です。MIROC-INTEG-LANDのように複雑な数値モデルを利用して、長期的な計算を短時間に行うためには、スーパーコンピュータの利用が必要不可欠です。また、複雑な数値モデルには、様々な不確実要素があるため、モデルにおける不確実要素が結果に与える影響を調べるためにも、スーパーコンピュータを利用して数多くの実験を実行することが非常に重要です。

この報告書では、これまでの出版論文に基づき、MIROC-INTEG-LAND の詳細について記述しました。MIROC-INTE-LAND による分析を通じて、気候安定化を実現しうる方策を示すことに加えて、気候安定化がうまくいかない場合に起こりえる問題をはっきりと示す。これにより、気候変動の影響を避けるため、社会が脱炭素に向かうことに貢献する。これが私たちの大きな目標です。

 陸域統合モデルMIROC-INTEG-LAND (MIROC INTEGrated LAND surface model) の概念図。統合モデルを構成するサブモデルは、色付きの box で示す。モデルへの入力は、気候・社会経済シナリオとして示している。実線の矢印は、サブモデルの間で交換する変数を示し、点線の矢印はモデルに入力する変数を示す。