CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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八代:まず、計算機で計算したから結果が全部正しいと思うのは、やめたほうがいいです。 ある情報を入力して、人間がプログラムしたとおりにコンピュータが計算して結果が出てくる、というときには、いろんなところに間違い、というか、誤差が存在しています。第一に、入力した情報が完璧ではないはずです。世界中の、今現在の天気の状態を、事細かに知ることには自ずと限界があります。 第二に、シミュレーションそのもの、モデルそのものについても、計算式が全部正しいとしても、現実を全部表現できるわけではないということがあります。式の中に、まだ足りない要素があるのかもしれない。それに、方程式で表される現象を、コンピュータの中で計算できるように作り変えるときに、離散化※3という操作が入るのですが、そうするとたいてい結果が「正しくなくなってしまう」んです。 誤差が生まれる大きな理由の一つは、コンピュータの中で計算するとき、連続してつながっている地球の大気を細かく区切って、その区切ったボックスごとに計算するようなことをしているのですが、その区切りサイズで結果が変わってきてしまうということです。 地球はとても広いので、地球の表面を細かく区切ったボックスで覆うようにするとき、ボックスのサイズをどのくらいにするかで、計算量が大きく変わってきます。昔は、地球の表面を1万~数万個くらいに区切り、鉛直(高さ)方向に大気層を分割していました。つまり、全部で100万個くらいのボックスに分けていたのですが、それだと分割のしかたが粗くて、東京と横浜が同じボックスに入るようなサイズなので、東京と横浜の天気を分けて考えることができないんです。すると私たちが体感的に思っている天気と全然合わない。そうなると、このシミュレーションの結果は合ってない、という気持ちになりますよね。 それに、天気予報のシミュレーションで使っている計算式は、風が風に、つまり風速が風に乗って移動するような式(項)が入っているのですが、これは非線形な方程式※4で、次の状態を予想するのが難しくなる、つまり「解析的に解けない※5」のです。 その場合、次の大気がどうなるかを予測するのに、空間だけでなく、時間もある程度短く区切って、そのなかで次の状態を計算していくということ

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