CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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※9 エドワード・ローレンツ(Edward Norton Lorenz, 1917 – 2008)は大気変動モデルを研究していたマサチューセッツ工科大学の気象学者です。状態がある決定論的法則に従って時間的に変化していくような系において、初期条件のわずかな違いが瞬く間に増幅され、予測不可能な挙動を示す現象をカオスと呼びますが、ローレンツはこのようなカオス的振る舞いを示す3つの式からなる非線形方程式系を導き出しました。dx/dt = P*(y - x) dy/dt = -y - x*z + R*x dz/dt = x*y - b*z ちなみに、この式は、Lorenz63モデルと呼ばれています。八代:ローレンツ※9という人が、これについていろいろ研究しています。彼は、たった3つの、次の時刻どうなるかという非線形方程式を並べ、その計算をして、初期値の、0.0000…の16桁目が1個違うだけで、その後のある時刻の結果が全然違う結果になってしまうということを証明したのです。編集局:それはすごい! 八代:そういう意味で、天気予報には、100年後のある日ある時刻の天気を(ここまできて、編集局にもアンサンブルがもつ意味がようやくわかってきました。) ローレンツ・アトラクタの図(コラムの図はその一例)を見てもらうとわかるのですが、この式では結果が突拍子もない値になることはないのです。でも、動きが非周期的なので特定の時間を取り出すと全然違う位置にいる、ということが起こります。つまり、きちんとわかっている式で、きちんと目に見えている数字を入れているにもかかわらず、その最後の桁の数字が1違うだけで結果が全然変わる。桁がある数字を扱っている以上は、どうやっても「ずれ」が生じるっていうことを証明してしまった…。(これには本当にびっくりしました。言葉で説明するのも相当に困難なことを、たった3つのシンプルな式で表現してしまうなんて…。)ぴたりと当てる方法はないということが、証明されてしまっているのです。 原理的にこういう予測っていうのは限界があるということはわかっている。

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